第24話
両親は自殺したと言われた。
まだ、清は両親に面会ができないでいる。あの二人に会いたくない。見たくない。死んでほしいと願っていた相手だ。しかし、死んだのだと、受け入れる勇気が出ない。一人で見るのは正直、怖い。
「村についてもわかる範囲で教えていただけると助かります。どんな住民がいたのか、何人くらいいたのか」
「はい」
これから手続きを進めて、祖父が来たら共に帰れるという。清は机に視線を落とした。
光希に会いたい。しかし両親のことをどう伝えるべきか。ダイベンシャを埋めて、先のことなんて考えてなかった。
祖父は光希も受け入れてくれるだろうか。入院している光希を、病に苦しんでいる光希を不安にさせたくはない。
清はふと、黙った権田が気になった。顔をあげると、権田はじっと清を見ていた。
「それから………今から、きつい話をします。お兄さんのことです。気分が悪くなったらおっしゃって下さい。よろしいですか」
清は姿勢を正して権田に向き合う。清の目を見て権田は口を開いた。
「田町ですが、ひどくお兄さんに執着しています。今までも何人か囲い込んでいた少年や男性がいたようですが、数週間から長くて数ヶ月で手放している。手放したあとは例の、組の紹介する肉体労働をさせていたようです。しかしお兄さんはもう一年以上ヤツに囲われている。今も、お兄さんに会わせろと言っています。傷は、転んで自分でつけたものでお兄さんに罪はないと。田町はお兄さんと愛し合っていたと言っています。これからはお兄さんと田町自身が一緒に暮らす。だから、自分もお兄さんも釈放しろ、と」
清は拳を強く握り込んだ。ダイベンシャと名乗っていた男は、光希に対してあまりにもおぞましい感情を抱いているらしい。他にも男がいたことは驚きだが、その発言の異常さに清の背中に汗が伝った。
「頭…おかしいんすか、あいつ…」
「私もそう思います。田町は、お兄さんとは恋愛関係にあったと主張しています。お兄さんの様子を見て、我々はそれが虚偽だと判断して捜査を進めています。しかし、村人達がどこまで光希さんの存在の大きさに気づいていたのかがわからない。おじいさんの自宅にはしばらくパトロールを強化するように管轄の警察署に伝えてあります。万が一、村人が姿を見せることがあれば迷わず通報してください」
「わかりました」
清は頷いた。光希だけでなく、自身と祖父を守らなければならない。権田は低い声で清に語りかける。
「鈴木さん。辛いでしょうが、知っていてほしい。田町の異常性を。あなたはお兄さんを大切に想っている。そう思って話しました。罪をかぶるつもりで事件を隠蔽した君の、お兄さんを守ろうとした気持ちを、私は信じたい」
清は俯いた。光希に亡くなった父以外にどんな親族がいるのかを知らない。しかし今、光希をそばで守れるのは清だけだと思う。
ずっと、中学生の頃から好きだった。望んでいないのに兄弟に、親族になってしまった。想いを断ち切るつもりでいた。
事件から逃げる最中、ホテルに連れ込んだ。同性同士でも入れる、何度か利用したことのあるホテルだ。どこか別の、ビジネスホテルでも良かった。あそこに入ったのは道すがらにあったからだけじゃない。もう、最後だと思った。光希を抱けるのはあの時しかなかった。受け入れてくれた光希が愛おしくてたまらなかった。
「これから諸々の手続きを踏んでお祖父様と帰宅していただきます。まだ少し時間がかかりますので別室で…」
「あいつを、俺は、守れますか」
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