第16話

休憩の後、清は机を挟んで権田と向き合った。再び権田の後ろには高輪が立っている。何かで見たことがあったが、本当に刑事は二人一組で行動しているようだ。

「体調は、どうですか。お話を続けても、よろしいですか」

「大丈夫です。問題ないです」

「先程もお伝えしましたが…貴方には、辛い話が多いと思います。無理だと思ったら遠慮なく申し出て下さい、中断します」

「はい」

清の返事を聞いて、権田は息を吐き出した。ぐっと、権田の全身に力が入ったように見える。清はじっと権田の顔を見つめて身構えた。

「光希さんは、全て自分がやったと言っています。ダイベンシャを殴ったのも、埋めたのも、逃げようとしたことも」

「違います。埋めたのは俺です。逃げようと、計画したのも」

清は身を乗り出して否定した。光希が何を言ったのか気になっていた。まさか全て自分がやったと話すなんて思っても見なかった。光希の中で、あの豚を殺して豚に犯されていたのは清だということになっていたはずだ。

権田は清の言葉に頷く。

「埋めたことについてはこちらもそう思っています。お兄さんの体格で、ヤツを運んでいけると思えない。状況証拠から、あなたの証言のほうが信憑性が高いと判断しています。貴方がダイベンシャを裏山に埋めた。逃げようと計画したのも貴方、でしたね。間違いないですか?」

「はい。親がいて、日中に光希を連れて出るのは無理だと思いました。夜中に荷物まとめて、バイクでホテルに…少し休んだら、じいちゃんの家に連れていくつもりでした。全部、俺がひっかぶるつもりだったんで。じいちゃんに光希を、保護してもらおうとしてました」

清はなるべく嘘のないように、正直に伝えていく。現状、光希の罪はダイベンシャを殴って逃げたことだがそれは正当防衛になるはずだ。光希はダイベンシャに無理矢理にされていたとすでに証言している。逃げたことも清の計画だと伝えれば、きっと光希の罪は軽くなる。へたに嘘をついて齟齬が出れば余計な疑いを持たれるだろう。

権田は何度か頷いた。

「お兄さんが通報してくれて、良かった。お祖父さんの家に行く前で、良かった。ダイベンシャは生きていた。もしも君の筋書き通り動いていれば、君の勾留中に、光希さんは連れ戻されていたでしょう。今ヤツは拘置所に入ってますが、信者が報復に行かないとも限らない。お兄さんは病院で警備をさせてもらい、あなたは警備も兼ねて勾留させていただきます。それと、あの村と、その宗教についてですが…」

権田は言葉を切って息を吐いた。清は刑事の言葉を待つ。刑事はさっき『辛いことを聞かせて話をさせてしまう』と言っていた。いったいなにを伝たえられ、話をしなければならないのか。刑事の座るパイプ椅子がぎしりと鳴った。

「宗教、と呼んでいいものか…ダイベンシャは都内の組の関係者でした。あの村の人間、あなたのご両親も、お布施のために借金をさせられていたのはご存知ですか」

「…は?」

「あなたのご両親だけでなく、光希さんの、お父さんも。最初は不幸につけこむ。お布施と称して高額な金銭を要求し、金が足りなくなれば系列の金融業者から借金をさせる。お布施と借金を繰り返して抜けられなくなる、そういうサイクルができあがっていました。借金の返済のための仕事もダイベンシャを通して組の方で用意する。肉体的にきついが、高額収入に繋がる仕事です。光希さんのお父さんはその仕事先で過労死している。させられた、といったほうが正しいと思います。特に信仰に熱心な信者をあの村に寄せ集めた。信仰に熱心ということはつまり、大きな収入源。それから、逃げられないように、です」

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