第15話

「伺いたいのですが…光希さんがダイベンシャを殴ったあと、あなたはスマホを持ったようですが、覚えていますか」

「スマホ?………ポケット、から、出しました」

「最初から持っていたわけではなくポケットから取り出したんですね?」

「はい。通報しようと思ってました。救急車か、警察か…どっちか迷って、できませんでした。光希が、謝ってたから。俺が犯されて、殺したと思ってたから。通報して本当のことがわかったら、あいつ、壊れるんじゃないかと、思いました。だからあいつにも、通報しないように言いました。通報したら、全部話さなきゃいけなくなる」

清は震えて怯える光希を思い出した。返り血を浴びた白い着物ははだけてほとんど着ていない状態だった。返り血の赤とは対照的に、光希は真っ青になっていた。

『頭の中で記憶を組み立てることで、光希さん自身を守っていたのではないか』

権田の話を聞いて清はやっぱり、と思った。そうなんだろうと思っていた。謝る光希に、嘘を貫くことを決めた。光希の心を守ろうと思った。

どうしてかわからないが、光希は自分がやったと通報した。結果今、入院している。

権田は顎に手を当てて鼻から息を吐き出した。

「あいつは、クソ野郎だな」

権田はポツリと呟いた。

刑事はガタイがよく、座っていてもわかるほどに大きい。清よりもでかい。丁寧な話し方と見た目が合っていない。なんだかアンバランスな人だ。そしてその瞳は力強く、真剣だった。

「私個人の見解ですがね。ダイベンシャという…ヤツは、その名の通りの、クソ野郎だと思っています。光希さんを傷つけた。ヤツに正しく罰を与え、きちんと罪を償わせたい。そのためにも、あなたの話と光希さんの証言をすり合わせて、きちんと真実を明らかにしたい。それが貴方と光希さんのためになります。貴方にはこれから…辛いことを聞かせて話をさせてしまいます。協力していただけますか」

「俺は、自分のことは、いいです。光希のために、光希を守るためなら協力します。させて下さい」

清は刑事に頭を下げた。自分の証拠隠滅の罪がどれだけのものになるのかわからない。それよりも、光希にきちんと治療をして、光希を守ってやってほしい。刑事は力強く頷いた。

「…とはいえ、君も、未成年です。少しずつ、お話をしていけたらと思います。少し、休憩しましょう」

刑事の言葉に、清も頷いた。





高輪に入れたさせた熱い茶を胃に流し込み、権田は大きなため息をついた。

清の証言と、清との会話の中で思い返した光希の告白と、少しずつ繋がってきた。光希の告白は共犯と思われる清には見せていない。しかし話が擦り合ってきている。清の話は真実なのだろう。警察側の見解とも一致している。

「権田さん。口悪いっす」

「ちっ…うるせぇ。ダイベンだぞ。クソだろ。クソ以下だ。ゴミクソだ。…そのゴミクソはなんか、喋ったか」

「同じっすね。お兄ちゃん…光希さんに会わせろの一点張りで。『強制性交』じゃなく『純愛』だそうです。反吐が出ますね」

権田は高輪の軽口に舌を打つ。権田の舌打ちを気にする様子もなく首を横に振って答える高輪に、権田はギリッと歯を噛み締めた。

「久々に…胸糞悪ぃな」

権田の脳裏に、光希の悲鳴が蘇る。映像の中の、年よりも遥かに幼く見える光希は恐怖に怯えていた。ダイベンシャは笑って、心底楽しそうだった。権田の脳裏にこびりついている。

「弟君。権田さんから見てどうなんすか。嘘ついてるようには、見えませんけど」

「弟の方は大丈夫だ。もう嘘はついてねぇ。もう、嘘はつかねぇ。ちゃんと反省してる。あの子は大丈夫だ。兄貴の方は、まだ…」

「随分弟君のこと、かってるじゃないですかぁ」

高輪はニヤついた笑顔を浮かべて権田を見ていた。からかう高輪に権田は静かに返す。

「目ぇ見りゃわかる。何年刑事やってると思ってんだ。あの子は大丈夫だ。これから…あのことを伝えなきゃなんねぇ。大丈夫でなきゃ、駄目だ」 

権田は上長と、鈴木清についての証言諸々と、これから本人に伝える話を擦り合わせた。正直、権田は気が重い。しかしきちんと自分の罪の話をした清に、権田も向き合いたいと思っている。

権田は残った茶を一気に飲み干した。

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