第12話

どっちも俺がやりましたって言ってる、と、高輪は言った。光希は『清がダイベンシャを殺し、犯されていた』と思いこんでいた。そのはずだ。なぜ光希が、自分の犯行だと警察に伝えたのか。

もしかしたら、光希は清を庇おうとしているのかもしれない。

「鈴木清さん。我々は事件の捜査をしています。真実を明らかにするためです。嘘があっては真実にたどり着けない。その嘘が罪になる場合もある。嘘は貴方だけでなく、お兄さんを追い詰めることにもなってしまいます」

間髪入れずに権田の抑揚のない声が清の脳を揺さぶった。

どう取り繕うべきか。

光希のために何をどう話すべきか。

散々考えた。罪を全て自分が被るために、全部自分がやったのだと貫くつもりだった。もしかしたらそれが、光希に余計な罪を与えてしまうことになるかもしれない。

「我々もね、ある程度調べ上げてます。既にね、色々と。辻褄が合わない、おかしいと思うところが、出てきてるんですよ。正直に、話して下さい」

高輪が権田の後ろで頭を下げた。

清は目線を上げて権田を見た。

「…もう一度、お話を伺います。よろしいでしょうか」

「はい」

清は覚悟を決めて頷いた。権田が口を開く前に、清は座ったまま頭を下げた。ゴツッと机に額をぶつけた音が、清の頭の中に響いた。

「喋ります。全部、正直に。ただ、光希の話は、頷いてやって下さい。否定しないでやって下さい。お願いします」

「………わかりました」

権田は逡巡していたが、承諾してくれた。顔を上げた清は戸惑いの表情を浮かべる権田と目が合ったが、すぐに権田の顔からは表情が無くなった。意味がわからないだろうと思う。ただ清は、警察に対して光希が壊れてしまわないように扱ってほしかった。光希の話の齟齬を否定して本来の記憶を取り戻したら、光希は壊れてしまうかもしれない。確信はないが清は、なんとなくそんな気がしていた。

清は始めからもう一度話をした。ダイベンシャに虐待をされていて、ダイベンシャを殴ったのは光希だと伝えた。それ以外は変わらない。埋めて隠そうと提案したのも実際死体を埋めたのも清で、逃げようと提案して実行したのも清だ。

部屋に入る直前に物音がして、ダイベンシャが血を流して倒れていた。光希は手に像を抱えていた。その像は、血の付いたシーツに包んでダイベンシャと一緒に埋めた。光希を守ろうと嘘をついたことを、清はもう一度謝罪した。

「ダイベンシャに虐待をされていたのはお兄さんの光希さんで、間違いないですね?」

「やられたのはたぶん、あの日だけじゃないと思います。なんであの日殴ったのか、わかんねぇっすけど…あいつ…光希は、なんて言ったんですか。光希は今、どうしてますか」

権田はじっと清を見ていた。強い瞳を負けじと清も見つめ返す。光希は警察に何をどう話したのか。光希の中で、どう話が変わってしまったのか。

権田は頷いて、口を開く。

「光希さんは、全て自分の犯行だと言っていました。ダイベンシャと呼ばれる男を殴ったことも、埋めたのも、逃げようと提案したことも。それから、あの男から今まで何をされてきたのかも、話してくれています」

清は眉をしかめた。光希はいつものように記憶を作り替えていた。そのはずだ。

「あいつ、俺がヤられて、殺したと思ってる。そのはずなんです。時々、あいつ、記憶がおかしくなるんです。嘘のつもりは、多分、なくて」

「はい。そのことについても、ご本人から伺っています」

清は驚いて固まってしまった。光希が記憶を作り替えているのは、無意識の行動だと思っていた。自覚なく、結果的に嘘をついてしまっているのだと思っていた。意識的な行動だったのだろうか。

清が戸惑っていると、権田は目線を落としてテーブルを見ていた。何かを思い出すような権田に、清は黙って言葉を待った。

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