第11話
『これ以上ヤられんのが嫌で、ぶん殴りました』
刑事はじっと話を聞いていた。清の話を記録し、『また伺います。何かあれば遠慮なくおっしゃって下さい』と一礼して去っていった。清は留置場に留め置かれることになった。
自分でも無茶苦茶なことを言っていると思う。光希を連れ回した理由が弱すぎる。しかし、これは犯人の自白だ。これ以上詮索せずに、全て清の罪として終わらせてほしい。もしも光希が事実を知ってしまったら。時々ぼんやりと遠くを見つめる光希の諦めきった瞳が、どこか遠くへ行ってしまうようで怖かった。
光希はどうしているのか。
光希は逃げることが怖くなったのかもしれない。『見て見ぬふりをした』と怯えていた。『罪を償う』と、正座をしたまま深く頭を下げていた。
あの宗教には、清く正しくあれという教えがあったはずだ。
光希は清がダイベンシャを殺したと思い込んでいる。隠しているという罪の意識に、光希は耐えられなくなったのかもしれない。
ダイベンシャを殺した罪は清が全て背負うつもりだった。
光希を祖父に預けたら、出頭する。警察にはあの村の事情を伝えて、殺人の目撃者である光希を保護してもらおう。清と一緒に逃げた。信者達が光希を、ダイベンシャを見殺しにしたと思い込んでしまったら、光希の身が危ない。そう考えていた。
こうなるのなら、もっと早く出頭すれば良かったのかもしれない。
でもきっと、できなかった。ホテルのあの部屋で、初めて光希を抱いた。ずっと求めていた光希を。これから、罪を償う間、光希に触れることはできなくなる。一分、一秒でも長く光希といたかった。
「体調はいかがですか。ちゃんと眠れていますか」
「…大丈夫、す」
権田の問いに、清は答えた。昨夜は寝ていない。昨夜だけでない。ダイベンシャを埋めたあの日からうまく眠れていない。眠ることができたのはホテルで光希と抱き合っていたあの時だけだった。清の前に、机を挟んで権田が腰をかける。権田の後ろに権田よりも若い男性が立っている。
「体調が辛くなったらおっしゃって下さい。今日もお話をさせていただきたいんです…お兄さんとのお話と、違いがあるようなので。確認させていただきたいのですが、よろしいですか?」
権田は表情を変えずに清を見ていた。清は少し、眉をひそめてしまった。それから俯いて、権田から顔をそらした。
光希は何を、どう話したのだろう。光希は清がダイベンシャを殺し、ダイベンシャから行為を強要されていたと思いこんでいた。光希の話との相違とは、どこなのだろうか。
「全部…俺が、やりました。違いは、ないはずで」
「お兄ちゃんと、言ってること真逆なんだよなぁ…なんでかなぁ~」
清の答えに、権田の後ろに立っていた男が首を傾げて問うてきた。
「高輪」
「だってぇ、不思議じゃないですか?どっちも俺がやりましたって言ってる。どっちかが嘘をついてるってこと、だよねぇ?」
男は高輪、というらしい。権田は背後の高輪を睨んだ。厳つい権田の睨む顔は迫力がある。が、高輪は涼しい顔でそれを受け流して、清から視線を外さなかった。
清は驚きで思わず声を漏らす。
「真逆って…光希が、そんなはず…」
権田は清に向き直った。
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