第7話

光希が家に来たのは中学3年生の時だった。

小学生の頃、両親は色々な仕事をしていた。詳しいところは知らない。ついに父親は詐欺まがいのことをして警察に捕まった。実刑は免れたものの、その仕事絡みで借金を負った。相手は正規の金貸しじゃなかった。その上母親も仕事でへまをしたらしい。これもまたなんの仕事か知らないが、母親は仕事を失った。同じ時期、母方の祖母が亡くなった。不幸が重なった。

内容としては自業自得だったり不可抗力だったり。小さな不幸が重なっただけだと思う。しかし両親は呪われていると言い出した。いくつかの神社に厄払いに行った。両親はなかなか仕事が見つからない。神社じゃ役に立たない、強い呪いなんだと騒ぎ出した。不幸を何かのせいにしないと済まない、他責思考の強い夫婦だった。

そのうち両親は見知らぬ像に祈りを捧げるようになり、中学校への進学と同時に引っ越すことになった。

中学校では妙に馴れ馴れしい人間と遠巻きに見てくる人間とに二分された。馴れ馴れしい人間は同じ村の子供だった。遠巻きに見てくる人間は別の町に住んでいる子供だった。暮らすことになった村に住む人間はみな、両親と同じ何かを信仰していた。

町に暮らす、信仰をしていないクラスメイト達は村に住む自分達に近づかないようにしていた。

その中学校で、同じように別の場所から引っ越して入学してきたのが光希だった。光希も父親と共に別の場所から村に引っ越してきた。足が速くて、でも時々空を見つめてぼんやりしている不思議なヤツだった。

清は光希を見て、可愛い、と思った。学ランから覗くうなじが白くて細くてエロい。

その時清は今までが腑に落ちた。

清は小学生の頃から女子に人気があった。女子から告白されて付き合ったことも何度かある。しかしそれ以上何かあるわけではなかったし、好きかと聞かれて嫌いではないとしか答えられなかった。いつも目に入るのは同性だった。それがどんな感情なのかわからなかった。しかし光希を見て、その感情がわかった。恋愛感情だ。清は光希に恋愛感情を抱いた。それまでの、目が行った同性に抱いていたのは恋愛感情だったのだとやっと気づいた。初めてしっかりと自覚した。目の前の霧が晴れた気がした。

同性が好きなことに引け目も何も感じなかった。ただ自分はそうだったんだ、というだけだ。気づけば光希を目で追っていた。色の白い肌も大きな瞳も黒く濡れたような髪も、あまり表情は変わらず時々ボケたことを言っている所も、空を見つめる時の閉まりきっていない口の間抜けさも、その薄く開いた唇の色も。いつも清は光希を見ていた。

中学3年生の時、光希の父親が亡くなった。過労が原因だと聞いた。母親は既に鬼籍だと聞いたことがある。しばらく学校へは来なかった。

同じ頃、清は自室を開けろと両親に怒鳴られた。

この村に来てから両親は、信仰に熱心ではない清に強く当たるようになった。元々まともな親ではなかったが、この村に来てそれが加速していた。両親から拳で、足での暴力を受ける。清は背が高く体が大きかった。両親はホウキや木の棒といった道具を使って殴るようになった。清の自室は『新しい子供』が使うと言う。養子を迎え入れるそうだ。実子もまともに育てられないくせに、何を言っているのかと思った。

自室を開けることを拒否した清に、両親は益々強く当たった。なぜ、親が勝手に決めたことに従わなければならないのか。清は納得できなかった。不満はその『新しい子供』にも向いた。悪いのは親であって『新しい子供』ではない。今になればわかる。しかし当時は何かを悪にしなければ納得ができなかった。実子である自分を追い出して居座るその子供はどこのどいつなのか。

光希は学校へ来ない変わりに、清の家にきた。

連れてきた両親は満面の笑みを浮かべて清を見た。

「今日からこの子はうちの子だ」

「誕生日がアンタより少し早いから、この子はお兄ちゃんだよ」

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