第6話

巻き込んでしまった。

光希は清の寝顔を眺める。眠っていると普段より幼い。通った鼻筋も、キリッとした眉毛もとても格好がいい。幼い頃から見ていたはずだが、すっかり知らない顔になってしまった。

違う。光希は清の幼い頃を知らない。

ぼんやりと清を眺める。意識がふわりと遠くなっていく。

怖くなった光希が清にすり寄ると、抱きしめてくれた。寝息はそのまま、無意識に光希を抱きしめたようで、その腕は温かくて優しい。光希は清の腕に抱かれて涙を零した。




目を覚ました清と食事を取る。光希は清の膝の上に座った。まるで今までの距離を埋めるかのように、食事をしながら何度も舌を絡め合う。咀嚼したものがどちらの口に入っていたものなのかわからない。どちらかの口に運ばれて飲み下す。

今は1分1秒が惜しい。

光希と清は裸のまま肌と肌を触れ合わせた。





「明日、ここを出る」

今日が何日なのか、あれから何日経ったのか、光希にはわからない。この部屋には明かりが射さない。窓らしきものは壁と同じ色に塗りつぶされている。裸のままずっと触れ合っていて時間の感覚がない。

「もしかしたら、今日にでも警察が来るかもしんねぇ。本当はすぐ出るべきなんだ」

「うん」

「でも、嫌だ………じいちゃんなら、お前の面倒見てくれる。光希を守ってくれる。きっと、大丈夫だ、俺がいなくても………離れたく、ねぇ。まだ、もう少し、」

清は強く光希を抱きしめる。清の苦しそうな声に、震える腕に、光希は清の背中を擦る。清は怯えている。

「俺も、一緒にいたい。ずっと」

どうしてあの日だったんだろう。光希は唇を噛む。

こうして二人一緒にいられて、あの村から出られることを知った。もっと早く、二人で逃げてしまえたら良かった。そうしたら、二人で生きていけたかもしれない。

光希の意識に霧がかかる。光希は霧を振り払う。今はだめだと自分に言い聞かせる。

「清、もう少し寝て、また、しよ?」

「体、きついだろ」

「うん。ちょっと、お休みしたい。ねんねして、清とする。にゃんにゃん貸してあげる。ゆっくり眠れるよ」

光希は毛布を被って清の顔も覆った。薄明かりの中、苦しそうな清は光希を見つめている。

「光希。好きだ」

「ふふふ…俺達、両想いだ」

清は顔を赤くして顔を背ける。

泣いちゃいけない。涙は見せない。光希は涙を堪えて笑う。共にいられる時間は少ない。きっと清は、祖父に光希を預けたら出頭する気でいるのだろう。スマホの検索画面を思い出す。

『〇〇村 事件』『〇〇村 ニュース』『殺人 罪』『殺人 罪 重さ』『今日 事件』『殺人 事件』

殺人に対する罪の重さは、光希にもわからない。光希も、怖い。

すぐに清は寝息を立てる。光希はしばらく寝顔を見つめて清のスマホを手に取った。検索画面でニュースを調べるが、光希達の起こした事件についての報道はない。光希はスマホを持ってトイレに向かう。番号を検索して電話をかける。電話口の相手と話をして、電話を切る。光希はベッドに戻って清の隣に体を横たえた。

清のことは忘れない。この数日を忘れない。甘い時間を過ごした。幸せだった。想い人と、想い合う人と体を重ねる。幸せしかなかった。初めてこの行為に恐怖を感じなかった。

間もなく扉がノックされた。光希は起き上がって、扉を開ける。

「電話をくれたのは、君かな」

「はい。後ろで寝てるのは弟で、俺が言う事きかせました。俺が全部やりました。自首します」

光希は目の前の警察官に両手を差し出した。

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