※ 第5話
それから、何時間経ったのか。光希は清と裸のまま、ずっとベッドの上にいた。眠ったり、目覚めたら肌を触れ合わせたり。
清はずっと優しかった。熱のこもった瞳は冷たい時のようで怖いのに、怖いことはされなかった。
「ごめんなさい、ぼく、いっぱい、出し、ちゃった」
「イきたい時にイけよ。気持ちがいいって、ことだろ」
「あ、でも、でも…あ、ぁ…だめ、て、イクの、だめって、言わ、れ」
光希はぼんやりと空を見つめる。勝手に絶頂を迎えてはいけない。あれは誰に言われたのだろう。
『これは修行だよ。気持ちが良くなるなんて、悪い子だね。ぴゅっぴゅして、悪い子だぁ』
ねっとりとした笑い声が脳に響く。楽しそうに体をいじくり回すのは誰だったか。あれはダイベンシャ様だ。いじくり回されているのは
「光希、こっち見ろ」
清に呼ばれて光希は意識を清に向けた。清は眉間に皺を寄せて苦しそうにしている。
そうだ、ダイベンシャ様が言っていた。言われていたのは清だ。光希の言葉が、彼を傷つけたかもしれない。
「うん。いいよね。だって、気持ちが、いいから。いいんだよ、大丈夫だよ、気持ちが良くなって、いいんだ。清の、気持ちいい、から」
「みつ、き」
「ごめんね、変なこと言っちゃった。清、いっぱい、気持ちよくなって?いっぱい、いっていいよ。大丈夫だよ」
「まて、手、離…」
「僕ね、清のこと、好き。好きな人とすると、気持ちいい。僕、知らなかった。清は?気持ちいい?だめ?ね…いって?」
「っ…」
光希は清を擦り上げる。清のそれは脈打って精を吹き上げる。さっき、何度も何度もしたのに、清のそれはまだ精を吹く気力を保っている。清は元気だな、と光希は思う。いったい誰と比べたのか。光希はまた意識が遠のいていくような気がした。しかし清に抱きしめられて、意識を清に向けた。清は辛そうに荒い呼吸を繰り返している。
「光希、ごめんな、ごめん。もっと、早く気づいてたら………俺も、お前が…」
光希は清の胸にすり寄る。光希は清が好きだ。清も、光希が好きだった。同じ気持ちだったことに嬉しくなる。
両親からの暴力を手当した時、最初は拒絶されたが少しずつ受け入れてくれた。
『ありがとう』
手当をすると礼を言って頭を撫でてくれた。清は時々怖い顔で光希を見ていた。でも本当は優しい。光希の毛布を持ってきてくれた。捨てないでいてくれた。大切なものだと認めてくれた。毛布はもうこの世にいないお母さんからもらったものだ。嬉しかった。
光希よりも大きな体で顔も凛々しくて高校に通っていて優しくて、光希にないものをたくさん持っている。光希は清が羨ましい。そんな清が、光希は好きだった。大切な弟だった。
本当は気づいていた。特別仲が良かったわけでもないのに、よく目が合った理由に。清が光希を目で追っていたことに。その視線の意味に気づいたのは、お勤めが始まってからだった。
(お兄ちゃんなのに、ずっと、守ってあげられなくて、ごめんね)
清は泣いていた。光希も泣いた。二人は泣きながら、いつしか眠ってしまっていた。
目を覚ました光希は今が何日で何時なのかわからなかった。隣で、眠る清を起こす。
「もう少し、泊まっていこう」
祖父の家に行くと言っていたが、まだ良いのだろうか。清に抱きしめられて、光希はそれ以上言えなかった。寝つけなくて体を動かしていると、清が再び目を開いた。
「スマホ、使っていいから。悪い、もう少し、寝かして」
清は寝ぼけながらスマホの操作を教えてくれた。清の目の下が黒い。きっと今まで眠れなかったのだろう。清は光希にスマホを預けて、すぐに寝息を立てていた。光希はロックを解除してスマホに触れる。今まで持ったことがない。お父さんのスマホを少しいじったくらいで、自分専用のものはなかった。
教えられたアプリを開いて『にゃんにゃん』を検索して動画を見る。今日の放送をみることができた。しかし幼児向けの番組はすぐ終わってしまう。また手持ち無沙汰になってしまった。
お父さんのスマホで見たことのあるアプリを押す。検索画面が表示された。タップすると検索履歴が表示される。
『〇〇村 事件』『〇〇村 ニュース』『殺人 罪』『殺人 罪 重さ』『今日 事件』『殺人 事件』
並んだ検索履歴を見て光希は気づいた。ダイベンシャ様の事が明るみに出ていないか検索していたのだろう。きっと光希が眠っている間、眠れなくて調べていた。
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