第5話 いない金曜日
次の日。朝がやってきた。
すぐ隣にある布団を見ながら、昨日の夜白岩くんはお客さんだしベッドで寝ていいって言ったんだけど「気持ちだけ受け取っておく」なんて言われてしまったのを思いだした。絶対……気を使わせてるよね。
これじゃ、白岩くんに申し訳ないよ。一刻も早く掃除を終わらせなければ。
といっても、今日は学校。だけど金曜日だから明日は休日だし、帰ってからでもでも頑張らなきゃ。
起きたときには床の布団はたたまれていて、白岩くんはいなかった。私よりも早く、家を出てしまったらしい。
どこに行ったのかは、わからない。怪我はもう、大丈夫だろうか。
いろんな思考が頭をめぐって、少し不思議な気分。
カーテンを開けると、お日さまの光が思いっきり部屋に差し込んできた。
台風一過ってやつかな。昨日とはうってかわりとても天気がいい。雲一つ見えないくらいだ。
二階の洗面所で顔を洗って、部屋にあるハンガーから制服をとって着替える。
私が通っている北田高校は、私の住んでいるここ
家から歩いていける距離で、通い始めて二か月ぐらい経つかな。
制服は紺のブレザーにピンクチェックのプリーツスカート。リボンもスカートと同じ柄。
半袖シャツの上に学校指定のカーディガンを着る。
初夏といっても私の住んでいる地域はまだ肌寒い。
くしでとかした鎖骨よりも少し長い髪を左右でゆるく三つ編みに編み、バッグを持って一階に降りて、ご飯を食べる。
お父さんも出て行ってしまったみたいで、食卓にはいなかった。晃成くんは今日は授業が二コマ目かららしく、まだ寝ているみたい。
お母さんに挨拶をして家を出た。
「わあ、ほんとにいい天気」
朝から近所のキジバトが元気よく鳴いている。とってもいい気持ち。
私は、朝の通学路が好きだ。たくさんの緑に囲まれて、柔らかな風に吹かれて新しい気持ちになる。
誰かがこの同じ空の下、気持ちよく朝を迎えられているといいな。そしたら、私と同じことを考えていたりするのかも。
なんてグローバルなことを考えていると、いつのまにか学校についてしまった。
北田高校は全校生徒数が多くて、朝のグラウンドや靴箱は毎日お祭り騒ぎのように賑やか。
一年生は九組まであって、一クラス四十人程度。
ちなみに私は二組。四階まである広い校舎の二階に教室がある。
教室について自分の机にバッグを置くと、ちょうどチャイムがなり、教室に先生が入ってきた。
ちょっとギリギリセーフ過ぎたかな。もうちょっと早く起きなきゃ……。
「きりーつ。礼」
日直の掛け声で朝礼の挨拶をしながらあくびを噛みしめ、そのまま席に座った。
昨日は緊張して浅い眠りだったのか、目がしゅわしゅわする。
せめて寝るなら、休み時間にしなきゃだな……。
私はそんなことをぼんやりと考えながら、眠い目をこすった。
昼休みは、いつも図書室に行くのが日課となっている。
勉強したり、本を読んだり、お昼寝したり。
一人でいるのは好き……だけど、ときどき寂しくなる。
こんなとき、私にも友達がいたら……って。でもそれは私のわがままだし、いないなら作ればいい。
『えまちゃんってちょっと変わってるよねー。虫が好きとかさー』
『ね〜。話題合わないし、ノリ悪いし。第一虫好きとか女の子としてどうなの?きもちわるーい』
微かに蘇る、あの日の記憶。
もう小学校のときの、何年も前の話のはずなのに、未だに覚えている。
そこで、私の趣味って他人から見たら気持ち悪いんだ、変なんだってことに初めて気が付いた。
それから私は、自分の好きなことに胸を張れなくなってしまったんだ。
趣味を聞かれたら、読書って答えるようにしている。実際生き物の図鑑を読んでるから、別に嘘はついてないはずなのに、心が苦しかった。
自分には、嘘をついてることになるから。
だからできるだけ、できるだけっていつまでも逃げてたら、友達の作り方すら忘れてしまった。
……だけど、白岩くんとはなぜか、ちゃんと話せる。それが不思議だった。でも、こんな私のせいで白岩くんに不愉快な思いをさせるのは、悲しい。
……ううん。不安にならないよ私。昨日、決めたんだ。私は私らしく過ごすって。だけど、やっぱり心のどこかで不安が揺らいでいた。
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