18話「元魔王は激写する」

 醜くも欲望にとり憑かれたような笑みを浮かべてパウモラがナイフの刃先をサツキの元へと近づけると、まるで玩具で遊ぶような感覚で次々と制服を切り刻んでいき瞬く間に彼女を下着姿へと変貌させていた。


「……っ!」


 そしてサツキは悲鳴を上げることすらも出来ずに、瞳を潤ませながらただ只管に恥辱に耐え抜いている様子である。しかしパウモラは制服を切り裂く際に皮膚も一緒に切り込んでいたのか、僅かにだが彼女の綺麗な肌からは少量の血が流れ出ていることに気が付いた。


「ほう、中々に良い体をしているではないか。実にそそられる。これならば俺と交えてもいいだろう」


 オズウェルが貴族らしく上から目線でサツキの体を評価すると、確かに彼女は同年代の女子達と比べると体の成長具合が郡を抜いて凄まじい所はある。


 だがそれはサツキ本人も気にしていることであり、それを平常時に言おうものなら鉄拳が顔に飛んでくることは間違いない。主に一度目の世界線の時に経験しているから分かるのだ。


「うひょ~、まじかよ! この女、まじで大当たりじゃねえか! 今までに抱いてきたどの女よりも魅力的で……やべえ。もう収まる気がしねぇぇぜ!」


 パウモラの口調が次第に砕けていくとそれほどまでにサツキの魅力は凄まじいという事なのだろうが、奴は奇声のような声を最後に荒げてから唐突にもズボンを下ろし始めていた。

 そしてそれを確認するようにオズウェルが視線を彼の方へと向けると、


「そうだな。どのみちこんな姿で誘われては収まりがつかないと言うものだ。おい、ティレットもやるだろ?」


 そのまま自身のズボンも下ろそうとしているのかベルト部分に手を添えていた。


「……いや、僕は遠慮しておくよ。なんだが昔を思い出しそうでね」


 サツキの下着姿を目の当たりにしても性欲という欲求が揺らぐことはないのか、ティレットは冷静な声色でそう返すと視線を彼女から外して周囲へと向けていた。

 それはまるでサツキを視界に入れることを避けているようにすら伺える。


「そうか。ならば周囲に人が居ないかだけ確認しておいてくれ。頼むぞ」


 妙に納得したようにオズウェルは頷きながら言葉を返すと自身のベルトに添えていた手を退けて、右手の人差し指を人気のありそうな場所へと向けて警戒するように指示を出していた。

 

「ああ、承知した」


 するとティレットは短く返事をしたあと言われた通りに見張り役を実行するためにオズウェル達の元から離れていく。


「じゃあ最初はオズウェルがするか? それとも俺からか?」


 そして彼がその場から完全に離れ終えたあと、パウモラがサツキから視線を外して酷く濁る瞳を見せながら尋ねていた。


「先にしたいのか? まったく、この色男め。伊達に初等部の頃から幾度もの女を抱いているだけのことはあるな」


 オズウェルは奴の言葉に手を顎に当てながら反応すると別に知りたくもないパウモラの話が否応なしに聞き流れてきて、どうやら奴は幼い頃から数々の女性と体を交えている生粋の性欲に呑まれた男であるようだ。


「へへっ、そんなに褒めないでくれよ。女の方から寄ってくるんだから仕方ねえぜ。それよりも順番は俺が最初でいいか?」


 パウモラは気分を良くしているのか僅かに照れくさそうな仕草を見せるが、それよりもサツキを犯すことに全ての意識が傾いているのか、やたらと順番という言葉を主張して気にしている様子である。


「ああ、もちろんだ。俺はあの平民がこの事実を知った時に見せるであろう絶望に染まる顔が見たいだけだからな。順番なんぞどうでもいい」


 相変わらずオズウェルは俺に対して憎悪が凄まじくこの無謀とも言える行動をしている理由が、こんな単純なものであるとサツキが知り得たならば相当怒る事は必須であろう。


 まったく、俺自身のせいで彼女に迷惑を掛けることになろうとはな。これで全ての片を付け終えたならば責任として手の指を一、二本切り落とさねばならないだろう。


「よっしゃ、ありがとうなオズウェル! こんな極上な女とは滅多に出来ないんだ。一番最初に楽しませて貰わないとっ!」


 ズボンを脱ぎ終えて更に下着すらも脱いで放り捨てると、パウモラ自身には一般的な羞恥心という感情そのものがないのだろうか。


 もしくはそれほどまでに自身の中で性欲を満たすことが優先事項とされているのだろうか。

 だとしたらならば、それはもはや一種の才として認めるべきやも知れん。


「ふっ、そう気分を高めすぎて壊すのだけは勘弁してくれよ? それ以外ならば何をしても許すがな」


 鼻で笑い捨てるとオズウェルは奴の下着に視線を向けて、何かを察したように口の端を吊り上げるとそんな言葉を残して順番というものを譲っていた。


「もちろんだぜ……へへっ。じゃぁさっそく勇者の証を持つ女を頂くと――」


 湯水のように溢れ出ていく涎を再び手の甲で拭うとパウモラの手は涎まみれとなり、その汚れた手でサツキの下着を脱がそうとすると、奴の下半身は見るに堪えないほどの状態となっていた。


 それから本当にこれは配下のエルメダに申し訳がなく、こんな事に使うのは最初で最後だとして謝罪の念を捧げると射影機を構えてボタンを押し込む。

 すると刹那、眩い閃光が周囲一面を照らし上げるとオズウェル達の顔が一斉に俺の方へと向いた。


「な、なに者だっ!? 今の光は一体なんだ!」


 全員の顔と視線が一箇所に集まると最初に声を出したのはオズウェルであり、奴は何かしらの攻撃を受けていると勘違いしたのか聖法で小規模の障壁を生成していた。


「まぁまぁ、そんな一変に聞くこともあるまい。ちゃんと全て教えてやるから案ずるな。貴族共」


 漸く動ける時が来たとして物陰から姿を現すと挨拶代わりに、元魔王としての覇気を何百倍ものを薄めた波動を全員に浴びせる。そうすることで奴らは一種の金縛り状態となるのだ。


 本来ならばそのまま覇気を与えてやりたいところなのだが、それをしてしまうと気がふれて自害を図ろうとしてしまうので駄目だ。


「ぐっ……! なぜここにブラッド=エンフィールドが居るのだッ!」


 そして俺の存在を認識したようでオズウェルは驚愕の声を漏らしながら人差し指を向けて怒声を吐き捨てている。その表情は先程までの余裕のあるものでなく、完全に青ざめていて無理やり虚勢を維持しているようである。


「邪魔を……邪魔をするな! くそ平民風情がァ! この女は俺達の性玩具として一生使ってやるんだよォ!」


 するとサツキの下着に触れていたパウモラが魔王の覇気を浴びても尚、首を動かして振り返ると濁り澱んだ瞳の中に確固たる意志のようなものが垣間見れ、奴はナイフを構えると俺の元へと向けて一直線に駆けてきた。


 どうやら覇気を薄め過ぎたらしく性欲という気持ちの方が一回り大きく圧倒的されたようで、パウモラは体の自由を確保することが出来たようである。


 つまりこれは言い訳のしようもなく俺の油断が招いた結果であり、パウモラという男を完全に見誤っていたということだろう。


「ったく、一度死んでも考えがこうも変わらないとはな。人族というのは俺が思う以上に面倒な生き物だな」


 だがそれでも馬鹿な真似をしている事に間違いはなく、ナイフを心臓部へと貫かせる為に駆けて来る彼の元へと敢えて近づいていくと、軽く腕を払い落としてナイフを弾き落とさせると共にそのまま胸倉を掴んで持ち上げる。


「ぐあっ!? クソ離しやがれッ!」


 持ち上げられたパウモラは足が地面から離れると足をバタつかせて逃げようと抵抗を見せる。


「そう逃げようとするなパウモラよ。俺は個人的にお前に用があるのだ。そう、お前はサツキに幾度と醜い瞳を向けて剰え醜態を晒したな?」


 しかしそんな彼の行為は無駄に体力を消費するだけで意味はなく気にせず話し掛けていく。


「醜いだと? はっ、それはお前が勝手にそう思い込んでいるだけだろ。俺は女にモテる高貴な貴族様なんだぞ!」


 胸倉を掴んでいる手にパウモラは自身の涎で光り輝く右手で掴み返してくると、俺としては気持ち悪く今すぐにでも投げ飛ばしたい所なのだが耐えよう。

 なんせサツキは碌に声も出せずに恥辱と恐怖に耐え続けたのだからな。

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