19話「高貴なる貴族の眼球は家畜と同等」
呆気なく俺にナイフを持つ手を弾き落とされても尚、パウモラという男は悪態をつく事に精を出しているようで口だけは達者の様子である。しかもここに来て自身を高貴な貴族などと言い出して、急に身分を主張してくる所を見るに相当に余裕がない事が伺えるだろう。
「ふむ、確かにお前は貴族という高貴な身分を有している。だがな、お前のその澱んだ瞳は家畜以下の目をしていることだけは揺るぎのない事実と言えよう。故にそんな下衆な目は高貴な貴族には似つかわしくない物だ」
パウモラが本当に高貴な貴族であるならば、その醜態を具現化したような瞳は今すぐにでも取り除くべきだと俺は善意の精神で心の底からそれを伝えた。
あと今から行う事はサツキに色々とサービスをしてくれたお礼を真心を込めて返そうとしているだけであり、右手を鳥の足のようにして奴の濁り澱む瞳へと近づけていくと痛覚遮断の魔法を使わずして目を抉り取ろうとする。
「っ!? ま、まて何をする気だ! やめろ平民風情がァ!」
そしてパウモラは自らの眼球に近づけられる指に不穏な気配を感じたのか、途端に足を駆使して腹部や脇腹に蹴りを打ち込んで些細な抵抗を見せてきた。
だが一体何をそんなに嫌がる事があるのだろうか。目を抉り取ることでパウモラという男は完成に至るというのにだ。今まさに奴の価値を下げているのは自身の下衆な瞳であり、それを無くすことで貴族という高貴な者へと変わるはずだ。
まあそれはオズウェルやティレットにも言えることだがな。
なに、順番が違うだけであの二人も直ぐにパウモラと同じ道を辿らせてやる。
ただ順番があるというだけで、やることは大して変わることはない。
「そう暴れるものではないぞパウモラよ。手元が狂って違う所に穴を空けてしまうことになるぞ」
そう言いつつゆっくりと眼球に触れると恐らくこれは気のせいの類だと思うが、まるで涎でまみれたようにしっとりと濡れていて指先から一気に不快感というものが全身に伝わるのだが、逆にこの短時間で俺に苛立ちと共に極度の不快感を与えた者は初めてかも知れない。
魔王として君臨していた頃でさえ、こんなにも不快感の塊のような者は見なかったからな。
……いや、そう言い切ると語弊が生じるな。
俺を不快な思いにさせた奴らは皆一様にして瞬時に配下の者たちの手により殺されていたからな。ああ、実に懐かしくもあり悲しい記憶だ。
だがなぜ配下の者たちは俺の気持ちが把握出来たのだろうか。
これだけは当時幾ら考えても答えが分からず、死して今も答えにたどり着くことはない。
けれど今はそんな事を気にしていてもしょうがない。
それはまた魔王として君臨せざる得ない時が来たら再び思案するとしよう。
そしてパウモラの眼球に触れている際に否応なしに伝わる穢らわしい感覚を、頭の中で色々と違う事を敢えて考えることで感情を虚無にさせると、そのまま指で瞳を掴まんでゆっくりと嬲るように時間を掛けて抉り出す。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ”!」
その際に奴は汚い悲鳴を周囲に響かせては体を大きく跳ねさせて全身を痙攣させていた。
しかし人間とは意外と丈夫な生き物だということを知っているが故に、たかが目を一つ取られた程度で死ぬ事はまずないと確信して言える。
それにこの程度で仮に死ぬようであれば即座に蘇生して再び同じことを繰り返すのみだ。
そうすれば時期に体の方が先に痛みに慣れて耐えられるようになるだろうからな。
まあ実際に試したことがないから俺は詳しくは知らんが、過去に勇者達の拷問を担当していた配下の者がそう口にしていた気がするのだ。
「おいおい、この程度で苦しんでいては魔族とは戦えないぞ? ほら、気をしっかりと保て。まだもう片方が残っているんだからな」
パウモラから抉り出した眼球を右手で転がしながらそう告げると、奴の右目部分は真っ黒な空間……というよりかは何もない穴が空いていて、そこから血が流れ出ているのだが聖法を使用して止血しているらしく思っていた以上に出血が少ない。
「ほう、ただの性欲猿かと思っていたが中々に判断が早いじゃないか。そこに関しては素直に褒めるべきであろうな。……だがサツキはお前に切られて血を流しても聖法で止血はしていないぞ? おやおや、これは実に不平等だと言わざる得ないのではないだろうか? なぁ?」
咄嗟の判断にも関わらず即座に聖法で止血するという発想に至るのは素晴らしく及第点を与えてもいいが、少しは時と場合を考慮してもらいたいものだ。なにを勝手に自分だけ聖法を発動させているのかと。
サツキは下着姿を晒されて血を流し剰え性欲を具現化させたような穢れた猿に、純潔という乙女の象徴すらも失い掛ける恐怖に耐えているというのにだ。
十五歳の少女がこれほどまでに弱音を吐かずして精神的に強く持ちこたえているというのに……ああ、腸が煮えくり返る思いだ。
「ひぃっ! ゆ、許して……ください……」
空気が抜けるように情けない声を出して謝罪の言葉を口にすると、今のパウモラからは先程までの威勢の良さが皆無となり歯を小刻みに震わせているほどである。
だが奴は眼球を抉り取られた事で恐れが臨界点に到達しているのか剥き出しの下半身から水の流れるような音が聞こえてくると、
「ん、なんだお前恐怖で失禁しているのか? くっ、はははっ! 実に愚かな人間らしい惨めな姿だな。……しかし今更泣き言を口にした所で許されると思うなよ。サツキに手を出す者を誰ひとりとして俺は生かしておくつもりはないからな」
右手で転がしていた目玉を足元に放り捨てると自らの手で額を抑えながら笑い声を高らかに上げて一つの宣言をした。
しかし今更怖気づいたとしても全ては遅く、パウモラがサツキに手を出して怪我を負わせた事実は消えることはなく、その代償は自らの身を持って償わければならないことである。
「ほれ、最後の眼球を抉り出してやるからな。次はどんな醜態を見せてくれるのか実に楽しみだ。出来ることならば良い声で泣き叫んで欲しいがな。パウモラよ」
そう言い残すして再び右手の指をもう片方の瞳へと近づけていくと奴は些細な抵抗を試みる気でいるのか、瞼を閉じてから聖力で固めると絶対に開けさせないような工夫を見せてきた。
けれど悲しいかな、たかが有精卵程度の者の聖力なんぞ蝋燭の火を消すぐらいに無力化するのは容易いことなのだ。仮に俺の攻撃を防ぎたければ、まず学院を卒業して一端の勇者となることが大前提だろうな。
「や、やべ……し、死んじゃう……。あぁ”あ”っ”ぁ”ぁ”あ”」
何かを言いかけていたようだが家畜が吠えているだけだとし無視して残りの眼球も抉り取ると見事にパウモラの両目部分は空洞となり、そこから血が溢れ出ては最後に全身の力が抜けるような素振りを見せて体重が一気に増加して重くなった。
とどのつまりパウモラは気絶している状態ということだ。
人とは意識が無い状態に陥ると体全体が急激に重くなる傾向にあるのだ。
「チッ、実につまらん男だ。最後ぐらい威勢良く立ち向かう精神を見せてもいいものを」
最後の最後で一番退屈な終わり方を見せたパウモラに失望の念を抱くと、もはやこの男に興味という感情が湧くことは一切なく、ただの肉袋と化したゴミとして認識すると、この光景を呆然と見て立ち尽くしているオズウェルの足元へとゴミを放り投げ捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます