17話「幼馴染は帰り道を貴族達に襲われる」
俺の目の前でサツキがオズウェル達に聖法により拘束されると、どうやら奴らの目的は彼女を犯すことらしい。その理由としては多分だが俺に完膚なきまでに叩きのめされた事で貴族の威厳が消失し、その腹いせとしてサツキを襲うことで鬱憤などを晴らそうとしているのだろう。
「実に低俗の者が思いついきそうな安直な行動だな。しかしサツキに手を出すとはよほど奴らは死にたいようだな。まったく少々面倒だが証拠と呼ばわれる場面を抑えるまでは静観するのみ」
オズウェル達が聖法を発動させて維持しながら彼女のもとへと近づいていくと、俺としては奴らの醜態を射影機と呼ばれる魔道具を駆使して撮影し弱みを握る事を考えている。
そうすれば金輪際面倒な事は全て消えて逆に俺がオズウェル達を使役できるからだ。
「まあその間はサツキに苦しい思いをさせる事になるが、あとでしっかりと事情を話して謝るとする」
そう呟きながら視線を直線に向けて様子を伺いつつ右手で指を鳴らすと、左手には射影機と呼ばれる魔道具が出現して魔力を流し込み、いつでも撮影できる準備を整える。
この魔道具の使い方は非常に簡単で子供でも操作可能である。
まず射影機に自身の魔力を流し込み撮影するための燃料を補充させると、次に射影機を対象物に向けて右側に付いているボタンを押すだけなのだ。そうすればいとも簡単に、その場の風景や人族や魔族が記録して保存されて後に一枚の紙となって具現化するのだ。
けれど本来この魔道具の使い方としては思い出を一枚の紙にして永久に保存するものであり、これは俺が魔王をしていた頃に配下の者が意気揚々と作り上げた物の一つであるのだ。
恐らく今のような使い方をしているところを見られようものなら悲しまれることは必須であろう。
「だがそれでも今はこれを使うこと自体が最適解であるのだ。すまんな。魔道具開発部門のエルメダよ」
本来の使い方を無視して人族の醜い場面を抑える為に使用することに対して申し訳なさが生まれると、この射影機を開発した者の名前を呟いて謝罪念を抱くと共に今度使うときは本来の目的で扱う事を静かに心中で誓う。
「ははっ、流石に勇者の証を持つ者でも三人掛りで拘束されては何もできまい」
前方からオズウェルの汚い声が聞こえてくると、その周囲にはサツキを取り囲むようにしてパウモラやティレットも仁王立ちして視線を胸元や太ももに向けているのが容易に分かった。
「貴様ら……っ! これは一体なんの真似だ! 今すぐにこの聖法を解除しろ!」
全身に絡みう合う鎖を自力で解こうとサツキは聖力を体に漲らせて聖法を発動させようとしているようだが、オズウェル達の使用した聖法には聖力封じが施されているのか上手くいかないようである。
それに三人掛りで拘束されているのも痛手と言えるだろう。
サツキほどの実力者であれば貴族に引けを取ることはなく、一体一であれば確実に瞬時に拘束を解いて相手を倒していただろう。
「おっと、そんなに騒がないでくれよ。人が来てしまうだろ?」
そう言うとオズウェルは人差し指に聖力を込めて横に軽く振るう。
「……ッ!?」
するとサツキの口は途端にチャックが閉じたように開かなくなり声を出すことが不可能となっていた。これも聖力封じの鎖を受けているせいで簡単に解除できないのだろう。
個々の聖法が弱いものであったとしても数で優れば中々どうして驚異となりうるものだ。
「よし、これで騒がれても問題はないな。……にしてもこの女を見ていると何故だろうな。あのブラットとか言う平民の顔が鮮明に蘇り苛立ちが烈火の如く湧き起るようだ」
彼女を黙らせたことで周囲の人間に気づかれる心配がなくなると、オズウェルは静かに怒りを顕にし始めて俺の事が相当気になるらしい。
ならば一々サツキに手を出すのではなく直接俺を叩けばいいだけのことなのだが、小悪党という者は何故か周りの者に手を出したがる性質があるようだ。
これは魔族も人族も共通して言えることだが迷惑極まりなく恥ずべき行為である。
「ん”ん”っ”!」
口を開く事を封じられながらも彼女は声を出そうとすると唸り声のようなものを出していた。
「チッ、見れば見るほどアイツの顔を思い出して怒りが溢れ出る。ああクソが死ね! あの平民風情がよくも貴族の俺達に泥を被せやがったな!」
等々オズウェルの怒りの許容値が上限を突破したのか声色が完全に怒りのそのものに染まると、暴言を吐きながら地団太を踏んで貴族がどうのこうのと未だに名誉のことを気にしている様子である。
「……だがな、俺はずっと考えていたんだよ。どうすればあの平民を絶望させてやれるかってな。そうしたら最高の復讐を思いついたんだ。サツキも知りたいだろ? それはな、つまりお前を犯して子を孕ませればいいってことだ」
地団太を踏んで冷静な思考を取り戻したのか急にオズウェルの声が低くなると、なにを考えているのか本当に俺には理解が及ばないのだが奴らの真の目的はサツキを強姦することらしい。
まったく、なにをどう考えれば一体そういう結露に至るのだろうか。
貴族とはこれほどまでに自身が追い詰められると頭がおかしくなる生き物なのだろうか。
「……ッ”!?」
しかしその言葉は十五歳の少女には衝撃的過ぎる言葉であるのか、サツキは一瞬にして青ざめた表情を見せると全身が小刻みに震え出していた。
「見たところお前とブラッドは仲が良いようだからな。であるならば確実にアイツの絶望に満ちた溢れた顔も拝めて、俺は勇者の証を持つ女を手に入れる事が出来て一石二鳥という訳だ。くははっ」
誰も聞いていないのだがオズウェルがべらべらと自身の行動目的を正当化させるように話し始めていくと、最後は笑みを浮かべているのか両手を顔に添える仕草を見せながら笑い声が周囲に木霊していた。
「ッ……下衆共が!」
貴族三掛りで力を封じられているのにも関わらずサツキは無理やり口を僅かに開かせると、依然として体を震わせながらもその言葉を吐き捨てて睨みを利かせていた。
やはり彼女ほどの実力者であれば下等な貴族風情の者たちの聖力では抑えきれないのだろう。
しかしその言葉を最後に再び口を閉じられてしまい喋る事は不可能となるが、今後の鍛え方次第では貴族や魔族に力を封じられようとも己の潜在能力のみで解除するこは可能となるだろう。
とどのつまり脳筋気質のサツキは全てを自身の力業のみで解決するこが容易であるということ。
「チッ、成り上がり貴族が! 黙っていろ!」
正論を言われた事で怒りが瞬間的に爆発したのか右手で拳を握ると、そのままサツキの頬に目掛けて振るうオズウェル。
「……っ”!」
その刹那、鈍い音が前方の方から聞こえてくるとサツキは拳を諸に受けても睨みを辞めることはなく、ただ只管に眼光を奴に向けて浴びせていた。
そう、これこそが彼女の強さであり揺るぎのない鋼のような芯の太さであろう。
「ちょっとオズウェル~。やる前から傷物にしてどうすんのさー。俺にそういう趣味はないよー?」
パウモラが気の抜ける声でオズウェルの行動に静止を呼び掛けるが、表情はとてもそうとは言い切れずに口の端からは涎が絶え間なく流れ出ている。
「はっ、なにを言うか。お前が一番この状況を楽しんでいるのだろう?」
鼻で笑いながらオズウェルは反応すると妙に含みのある言葉を口にしていた。
「……ふふっ、やっぱり気づいちゃう?」
「当たり前だ。まあ御託はこれぐらいにして、そろそろ復讐を実行するとしよう」
オズウェルが彼の下半身に視線を僅かに向けると全てを察したような声を出して、復讐という名の強姦を俺の目の前で行うと両手を広げながら宣言をしていた。
だがまだだ。まだ動く訳にはいかない。
決定的な証拠を抑えるまでは、ただ闇夜に潜むカラスのように見守るのみである。
「よっしゃ、やっとこの時がきたぜぇ! へへっ、興奮が収まんねぇよ!」
涎を手の甲で拭いながらパウモラは懐から折りたたみ式のナイフを取り出すと、刃を出してサツキの方へとゆっくりと近づいていくが、奴の瞳は今や玩具を甚振る卑劣な色を宿しているのを見逃すことはなかった。
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