12話「貴族を殺して血を舐める」
「武装召喚、魔剣……いや、ショートソードで充分だな」
右手に魔力を集めたあと武装召喚を発動させると、俺の手には街で売っている粗悪な品質をした安価な剣が具現化した。これは元々俺が持っていた剣ではなく、たった今街の武具店から魔法を使用して拝借した物である。
なんせこんな大勢の前で魔剣を使うことは自らの正体を明かすことになり、聖剣を使おうとしても魔族の体では拒否反応が出て柄を握った瞬間に手が崩壊するからだ。
「くっ、あははっ! 先程の聖剣技法を弾いた時は肝を冷やしたが、どうやらまぐれのようだな」
「粗悪なショートソードか。随分と平民に相応しい武器じゃぁないか」
「おいおい、あの平民はわかっているのか? ここはお遊戯会を発表する場所じゃねえってことをよ」
俺がショートソードを武装召喚した所をしっかりと見ていたのか、観客席から貴族達の汚い声と共に思いつく限りの罵声や暴言のような言葉が次々と闘技場へと注がれていた。
けれどよく見れば他の観客達、そう平民達は皆一様に真剣な顔つきをしていて口を開くような素振りは一切見受けられない。恐らく俺が三人の貴族を相手に何処まで戦えるのかという事に意識を向け過ぎて一種の集中状態なのであろう。
そして観客席から響き渡る貴族達の言葉を皮切りに先程まで恐怖に怯えていたオズウェル達が途端に、
「な、なんだ。ただのショートソードか……。まったく平民風情が調子に乗りやがって!」
「俺達の聖剣技法をどうやって防いだのかは知らないけどさー。そんな鈍らで戦えると思ってるの~?」
「聖剣とただの鉄の塊とでは大きな差が生まれる。故に平民が何をしようと僕達に勝つことは絶対にありえないッ!」
次々と自身の気持ちを鼓舞するようにして観客席側の貴族達と同様の言葉を吐き捨てていた。
しかし貴族共というのはこうも単純な生き物なのだろうか。
少しばかり周りの雰囲気に流されやすい気もするが、こういう馬鹿達が上に立っていてはイステリッジ王国の先も長くないだろうという事だけは手に取るように分かるな。
「聖剣と鈍らじゃぁ勝負にすらならないが……奴が技法を弾けるほどの力を持っているのも確かだ。……くそが、もう下らない遊びは辞めだ。一斉に攻撃を仕掛けて奴を殺すぞ。恐らく剣技の方は素人同然の筈だからな。貴族剣技を使用せよ!」
神妙な顔つきで左手を自身の顎に当てながらオズウェルは呟くと、驚く事に彼は馬鹿と言えるほど馬鹿ではないようで冷静に事を考察すると中々に良い手を発案していた。
確かに俺は常軌を逸した力を有しているが剣の扱いは苦手の部類であり、正直剣技のみで戦われると面倒だと言える。だがそれでも相手の苦手な分野を見抜いて、それで攻めてこようとするのは妙策とし褒めるべきだろう。
「「了解ッ!」」
パウモラやティレットもオズウェルに言われて剣技のみで戦うとこを了承する。
「ふっ、良いだろう。お前達の剣技を見せてみろ。その五体が壊れるまでな」
俺の弱点を見抜いた褒美として魔力を使わずして戦うことにしてやろう。
これは決して相手への手加減などではなく、オズウェルに対しての褒美としての意味だ。
「かかれ! 二人ともッ!」
「「うらぁぁぁっ!」」
パウモラとティレットが聖剣を構え直してオズウェルの合図と共に走り出すと、彼らは再び左右から猛進してくる作戦のようである。
多分だが同時に二人が貴族剣技とやらを仕掛けて、俺が攻撃を防ぐ事で生まれた僅かな隙にオズウェルが止めを刺しに来る算段なのだろう。
「――だがな。俺はお前達に一つ謝らないといけない。魔力を使わずとも元々の身体能力が常軌を逸していることをな」
ショートソードを構え直して静かにそう呟くと、ティレット達との距離は既に二メートルほどにまで近づいていた。
二人とも表情は獰猛な狼のようで実に良い。
先程までの闘気の感じられないものよりかは断然マシだ。
そして俺がまず最初に殺るのは陽気な男で印象が強いパウモラで次にティレットだ。
最後は……言わずとも分かるだろう? 俺は好物を最後に食べる主義なのでな。
前菜共には早々に退場してもらうことにする。
それに殺る理由としては明確なものはないが、強いて言うのならばサツキを不快にさせた者は皆平等に始末するだけだ。償う方法はたった一つ自らの命を終わらせる事のみ。
「さて、まずはお前の命を貰うとするぞ。パウモラという男よ」
視線を奴に合わせて僅かに足を一歩前へと突き出すと次の瞬間には、土煙や足音を一切立てずに彼の懐へと潜り込んで心臓部へとショートソードを貫かせた。
「ぐばぁつ!? ……な、なにがおこ……ったんだよ……」
パウモラは自分の身に何が起こったのか理解できていない様子で、口から血の塊を吐くとそのまま命という名の細い糸が切れるように背中から地面へと倒れた。
「なっ!? しゅ、瞬間移動だと……!」
隣からはティレットの驚愕の声が聞こえてくると同時に、先程まで騒ぎ立てていた観客席が今では静寂に包まれていた。見れば全員が目を見張るようにしてパウモラに視線を向けている。
「ふっ、そう驚く必要もない。あれは瞬間移動ではなく、ただの走るという一般的な行為に過ぎん」
ティレットが漏らした言葉に返答を与えると、人族の者から見ればそう思うのは無理はないだろう。だがあれは普通に小走り程度の感覚で近づいて剣を貫かせたに過ぎないのだ。
まあ本物の瞬間移動も使えないことはないが、こんな有精卵共に見せるのは些か勿体無い。
「くそくそくそっ、コイツは本当にただの平民なのか!? よくもパウモラを……っ! 聖剣技法――」
「駄目だな。感情に呑まれていては動きが単調となり、相手に隙を見せるのと何ら変わりはない。死して学ぶといいぞ」
パウモラの時と同様に小走り程度の感覚でティレットの元へと近づいて目の前に姿を現すと、そのままお留守となっている足元を薙ぎ払うようにして体制を崩させた。
「くあっ!?」
すると奴は受身は疎か為すすべもなく背中から地面に倒れ込む。
「ではな。ティレットという男よ」
「ま、待ってくれ! 殺さないでくれ!」
剣を心臓部に突き立てられてティレットは命乞いをしてくると、既に瞳は戦いに怯えた負け犬のようなものへと変わり果てていた。先程までの獰猛な狼のような勇猛果敢さは見る影もない。
「なんでもするから許してくれ! そ、そうだ。僕が父上と母上に掛け合って、お前に貴族の爵位を与えるように進言する! だから頼む、殺さないでくれ!」
聖剣を手放して完全に戦闘を放棄するとティレットは必死に命を救うように懇願してきたが、それを見て俺は段々と苛立ちが底から込み上げてくる。
目の前で友を殺されたというのに一矢報いる覚悟も見せず、ただ自らの保身に逃げるこの男に容赦の必要はない。悪戯に言葉を述べて生き恥を晒すことすらも癪に障る事だとし、俺はショートソードの刃先を奴の腹に押し当てながら横一直線に切込を入れた。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”ッ”!?」
するとティレットが断末魔のような叫び声を上げると共に、腹部の裂け目から大量の血飛沫と腸のような物が飛び出してくる。色合いも赤黒く醜くて食べても美味くはなさそうである。
「済まないが命乞いをする奴の言葉は信用に値しない。そもそも三流貴族のような家系の者がそんな力を持っている訳もないだろう」
そう言いつつ彼から勢い良く放出される血を眺めていると頬に飛び付いた血が流れ落ち、口元へと垂れると舌先で舐め取り味を確認したが最悪だ。まるで雑草を汚水で煮詰めたような味である。
「いや……だ……死にた……くない……」
ティレットは段々と目から光を失っていくと、ついに事切れたのか動かなくなった。
「ふむ、逝ったな。これであとはお前だけか。ではメインディッシュを頂いて、この決闘も終わりとしよう」
彼が死亡したことを確認すると敢えて最後まで生かしておいたオズウェルへと視線を向けて歩みを進める。
こうして仲間が次々と殺されていく光景を目の当たりにして、奴の恐怖心はもはや最高潮となっていることだろう。あとは屠られることが生まれながらに決定している家畜のように殺すだけだ。
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