第6話 絶望と少女
少女の名前は凛という。私から見たら凜はかわいらしい少女である。
「せっかくの休暇期間なのに、勘弁してくれ」と凛に言い、
続けて「なんの用?」と聞くと、
「端的に申し上げますと、貴方様がいなくなった後、無意識のうちに周りの人たちに対して無差別に害を及ぼそうとする呪いが広がってしまいました。私たちもなんとかしようとしましたが、全く手が出せませんでした。どうにかしていただけないでしょうか。」
私はそれを聞くと、急いで、窓から外の様子を見る。
ああ、もう手遅れかもしれないな...。外の様子はそう判断せざるを得ない状況だった。
街は無人で、静まり返り、どこか不気味な雰囲気が漂ってる。街路樹や建物の壁には、いくつもの戦った痕が残っていた。数日前とは思えない状況だった。
「さっきはごめんね、伝えてくれてありがとう。やるだけやってみるよ」
それだけを凛に伝えると、窓から出て町に出かける。結界をはり、誰も入れないようにしておいたのでこの屋敷はたぶん安全だろう。
とにかく被害の状況を確認して、解決策を早く見つけなければ。
おそらく歩いて見る時間はないので、少し疲れるが飛ぶしかないだろう。
そんなわけで町を飛びながら状況を確認していると、公園で戦っている人たちがいた。人数も少なそうなので、「呪い」について調べられそうだ。
近づいてみると、その戦いはあまりにも過激なものだった。小柄な小学生同士の戦いのはずなのに、戦いは大人のプロレスのようだった。そして、あれは身体強化か...??
明らかに小学生とは思えない身体と筋肉をしていた。また、こちらが何度声をかけても聞く耳をもたなかった。目の前の敵しか見えていないのか。
いろいろと能力を駆使してみたが、その「呪い」は治すことができず、彼らには悪いが、身動きをとれないようにしておいた。
あきらめて、屋敷に戻ると、凜が玄関で待っていた。「おかえりなさいませ」といい、最初にいた部屋に案内してくれた。「だめだった。」と伝えると、凜は窓から見える景色を見た。そして私も。
しばらく私たちは炎と血で赤く染まった町を見ていた。「もうこの世界も寿命ですね。」と悲しげな少女の声。どうしてこんなことを私たちがしなければいけないのか、誰か教えて欲しい。
私は、この世界で一番偉い人間だった。人間の世界でいう、首相と大統領のことである。
しかし、何万年と続く激務に疲れてしまい、数十年ほど人間界で神は経験できない「青春」や「学園生活」というものを楽しむために休暇をとろうとしていた。自分が神であると知っているとなんだか優越感をもってしまうので、凛に記憶を一旦リセットしてもらうことにして、数十年経ったのちに凛が強制的にこっちの世界に戻し、記憶を戻す。護身のために能力を使えるという記憶は残してもらっていたが。
休暇計画はおおよそ順調に行っていたが、一つだけ問題点が生じた。学校で発生していた連続殺人事件である。真相はわからなかったものの、何とか丸く収めることができていた。しかし、こっちの世界でこんなことが起きていたなんて...。
やれることは全てやった。もう解決策は「世界を壊す」か「全員殺す」かしかない。そんなことを部屋のソファに座って悩んでいると凛がコーヒーを作ってくれた。
口火を切ったのは私だった。
「なあ、凛はなんでそんなに落ち着いているんだ?」
「無論、ろん様がなんとか解決してくれると強く信じているからです。」
「でも、なんとかできそうにないぞ?」
「絶対にろん様ならなんとか解決できます。今までも様々な危機を乗り越えてきたじゃないですか。自信を持ってください。」
「...凛は私がいなくなったこと、怒ってる?」
「いえ、ろん様のせいではないですから。」
「そうか」
沈黙が続く。重々しい雰囲気である。
「なにか解決策は他にありませんでしょうか。」
凛にそう質問されたが、正直言ってもう無策である。せめて呪いの元がわかればなんとかできるかもしれないが。
「なあ、呪いの元ってどこかわからないか?」そう凛に質問する。
しかし、返事は返ってこなかった。振り向くと、凜はカプセルのようなものに閉じ込められていた。
それに近づこうとしたとき、左からナイフが勢いよく飛んでくる。なんとか間一髪よけられたが、不意打ちだったので危なかった。
そして、「よっ、ぼっち」と声をかけられる。
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