第4話

寒い気がする。

そういえば、空調設備の音も聞こえない。

暖房も止まった?

まさか、朝までこのままなんじゃないか?

いや、年始の初売りは三日後なので、最悪、三日間もこの状態のままだ。

どんどん寒くなっていく。パニックになった。

「すいませーん、誰かいませんかー?」と叫ぶが、なんの応答も変化もない。


しばらくの間、おーい、おーいと叫んでいると、自分が急に馬鹿らしくなって冷静を取り戻せた。

寒さをしのぐにはどうしたらいいか、セージに尋ねようとして、バッテリーが切れていることを思い出した。

スマホが使えないことで、助けを呼ぶこともできない。

けれども、逆に、あけましておめでとうのメッセージが既読にならないことを心配した親や友人が警察に連絡してくれるかもしれない。


しかし、そうしているうちにも温度はどんどん低下し、本当に凍死するんじゃないかと思い始めた。

もう誰にも頼らず、もちろんAIにも頼らずに自分でなんとかするしかない。

いつの間にか暗闇に目が慣れて、館内の様子がよく見えるようになっていた。

時計は既に24時を回っている。

エスカレーターから身を乗り出して、下を見てみる。

吹き抜けになっているので、飛び降りると一階まで真っ逆さまだ。絶対死ぬ。

かといって今いるところは四階と三階のちょうど中間なので、上の階に飛び上がることも難しい。

万策尽きたか?


ふと、かすかに物音がすることに気づいた。

さっきまで無音だったのに、なんだろう?

音がする三階フロアの方に目をこらすと、なにかが動いていて、どうやらこっちに近づいているようだ。

どんどん近づいてくる。

しめた! 業務用のおそうじロボだ。


「おーい、聞こえるー?」

オレはその車椅子くらいの大きさの箱形ロボットに呼びかけた。

『なにかご用ですか?』

掃除ロボットはエスカレーターの前で停止してそう応える。

ああ、助かった。オレは心底ほっとした。

「一階の更衣室にある私物ロッカーから、モバイルバッテリーを取ってこれたりする?」

『できません』

「どうして?」

『ハンドラがありません』

「半ドラ?」

『ロボットアームのことです。そのため、私はものを掴むことができません』

「ああ、なるほど。そういうことね」

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