第33話 カレンさん
「ああ、やられたことには同情するが、命の危険が無ければひとまず良しとするしかないか。
しかし、納得がいかないな……」
「ええ、司法の手でしっかりと処罰をさせましょう。
どちらにしても、警察も救急も駆けつけるはずですし、何より警備会社も来ているはずですから今更隠しようがありませんしね」
「ああ、日本の官憲に期待しよう」
「あ、連絡が入りました。
アプリコットが車で向かっているようです」
「早くないか。
いくら何でも東京にすらついていないだろうに」
「ええ、途中で別れて彼女の服など手配していたようです」
「それは気が利くな」
「もうじきここに来るようですので彼女を待ちます」
連絡があってから1時間後にアプリコットが到着した。
「ありがとう、本当に助かる」
「遅くなりすみませんでした。
途中、あの別荘によって、その後の状況を確認しながら足のつきそうなものを回収してまいりました」
「回収?」
「ええ、現場に残った情報部員がお嬢様の私物の他にそこの彼女の私物も回収しておりましたので、預かってきました」
「それなら、彼女の身元は分かるかな」
「ええ、それはすぐに確認しました。
名前が藤林カレン22歳、この春東京都の教員として採用されているようですが……」
「どうした?」
「それが変なのです。
どこの学校にも配属されていないようでして。
現在調査させておりますからすぐに判明するでしょうが、とりあえずどうしますか」
「下世話な話になるが、頂いた以上、放っておくわけにもいかないだろう。
連れて帰るよ。
都の職員ならば都内か近くに住んでいるのだろう」
「ええ、住所も判明しておりますから手の者に調査に向かわせております」
「偉く手際がいいな」
「ええ、現場に彼女の私物も持ってきてはおりますが、残っていないとも限りませんから。
彼女のことが判明しますと警察が動いてきます。
その前に情報だけでも抑えませんと安全上の……」
「ああ、わかった。
彼女の意識は?」
「朦朧としておりますが、起きてはいるようです。
しばらくはこんな感じでしょう」
「あの薬の影響でしょうね。
直に良くなりますよ。
私の時もそうでしたから」
「念のために医者を呼んでおきます」
「医者?
大丈夫か」
「ええ、私たちの身内の様なものですから」
「全く手際がいいな」
「殿下が襲われる前からお嬢様がたを日本に逃がす計画があり、その一環として人員も集めておりました」
「それは良かった。
彼女、カレンさんといったか。
服は着れそうか?」
「私どもが手伝えば。
本当は風呂に入ってもらった方がよいのですが……」
俺が何度も彼女に対して吐き出したから、彼女の股間からは白い液体のようなものが垂れていた。
それを丁寧にマリーさんが処理している。
「すみませんね。
俺が代ろうかと言ってもね~」
「ええ。
もうしばらくお待ちください」
それから30分、俺だけが風呂に入り身支度を整えた。
流石に女性の着替え、それもただの着替えではなく後処理を含む着替えで、かつ意識が朦朧としている以上流石に席を外した。
アプリコットさんが乗ってきたレンタカーを使って俺たちは東京に戻っていった。
高速を使っても4時間はかかったのだが、その時間は決して無駄ではなかったと俺は思う。
意識がが朦朧としていたカレンさんの意識も徐々にしっかりとしていくのが俺でもわかるレベルで、家に着いた時には自分の足でしっかりと歩けるようにまで回復していた。
もしこの段階で逃げようと思えばできないことはなかったように思うのだが、俺たちに助けられたという気持ちがあるようで、素直に俺たちの言うことに従ってくれる。
家では手配してある医者も待機しており、簡単に見てもらった。
手配している医者は諜報の世界でもたびたびお世話になっている人のようで、例の薬についても知見を持っており、明日病院で精密検査をするように言い残して家から出て行った。
このままカレンさんを解放するわけにもいかないので、カレンさんには家で泊まってもらうようにしてもらった。
家族は妹さんが一人きりと報告で聞いていたのでカレンさんに聞いたところ春から連絡を取っていないとのことだ。
俺がもらった資料では同居となっていたので詳しく聞いてみるとこれまた運の無い。
時系列的にカレンさんのこの度の不幸を示すと、下記のようになる
三月末 例の病気で隔離される。
指定のホテルで軟禁生活が始まる。
四月初旬 病気のせいか免疫に異常が出たために指定のホテルから病院に入院
四月末日 退院するも、その足で拉致される。
拉致された理由は不明。
7月まであの別荘で監禁生活。
その間、やくざに最低限の食事は世話されたのだが、乱暴はされていない。
自分が監禁生活中に続々と女性が送り込まれており、カレンさんと同じように生活を強要された。
以上がカレンさんの口から聞かされた顛末だ。
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