第14話 下賜された現金
「王子のご恩に報いるために、私の終生変わらずの忠誠を誓います」
「本郷様。
これで本郷様も仲間になりましたね。
それで、これが雇用の条件になるそうです」
通訳をしてくれている葵さんが俺に手渡してきたのは一枚の紙に書かれた俺の雇用に関する条件であった。
当分の間は、俺はあのクルーザーの船長として仕えることになる。
驚くことに年棒で1千5百万だそうだ。
この年棒って大手海運会社の外国航路の船長と同じくらいか。
それだけでも驚くことになるのだが、このほかに移籍するための契約金までもが下賜されるとか。
それに、移籍のための契約金として10億円だって。
どこのプロサッカー選手かよって言いたくなった。
……、下賜?
下賜ってなんだ。
そんなことを考えていると、葵さんが声をかけてくれた。
「いきなりの大金ですから、税金等面倒になりますね。
もし本郷様がよろしければ、タックスフリーのパナマにある殿下の会社に資金を預かりますが」
「は??
資金?
あ、ああ10億円のことですね。
できればお任せしても……」
「わかりました」
葵さんはそういうとローレン殿下や王兄殿下に対して何やら話している。
俺の件で相談しているようだが、何を話されているのかわからないだけにちょっと不安。
というよりもジェラシーか。
俺だけのけ者って感じで、ボッチ感がたまらない。
とりあえず俺の転職は先の宣誓で終わったようで、一旦部屋に案内された。
案内してくれたのはあの二人のメイドのうちの一人だ。
俺と一緒に日本まで来てくれたメイドさんは、お休みか何かのようで、今回はもう一人の人が部屋まで案内してくれる。
いい加減あの二人の名前くらいは覚えようか。
さんざん世話になっているのに、考えたら名前を聞いていない。
今度機会があれば聞いておこう。
しかし、名前を知らないが俺専属で世話をしてくれるメイドの一人が部屋まで案内してくれる。
俺は期待してしまうが、もう俺のことを接待する必要もなくなっただろうからあり得ないか。
しかし、俺の予測を見事にうれしい方向で外してくれた。
すぐに部屋に案内されるとそのまま一緒に風呂に入り、息子をこれでもかというくらいに接待してくれた。
さすがにその後のベッドは無かったけど、十分に堪能させてもらった。
風呂を出た後に部屋でまったりと賢者タイムを堪能している時に、俺は夕食に呼び出された。
以前にお邪魔させてもった時と同じようにテーブルを囲んで食事が振舞われる。
今回は俺と一緒に日本からきているドードンさんも一緒だった。
その食事の席で、この後すぐに豪華クルーザーで帰国する旨を伝えられた。
さすがに勘弁してほしかったが、俺には拒否権は無い。
先の宣誓で完全に殿下の部下になっている。
しかも、今回の移動には王兄殿下の他にドードンさんもご一緒するからちょっとした人数になる。
数日の移動だと食事の問題もあるが、そのあたりについても問題ないようにすでに準備がされており、殿下たち要人の他にメイドさんやコックさんも乗り込むことになっているそうで、すでにメイドさんやコックさんたちにはクルーザーに乗り込んでもらい準備も済ませているそうだ。
ちなみに操船についても俺一人ではさすがに危ないかと思われたのかブルガン王国から女性軍人を数名連れてきているので、彼女たちを頼むとも言われた。
そういえば、俺はあの宣誓で船長になったばかりだ。
なので、船長としてとりあえずブルガン王国までの間、俺の部下として扱われるらしい。
その部下になる女性たちの紹介は、食後に船上で行うと言われた。
ここまで葵さんの通訳で聞きました。
一応ローレン王子も王兄殿下も英語で語りかけてはくれているけど、さすがに人を見る目があるようで、きちんと間に通訳を入れてくれる。
うれしいけど、この配慮には来るものがあった。
学生時代、少なくとももう少し英語の勉強をしておけばよかったと、この時には反省している。
多分この反省もすぐに忘れるだろうが。
食事の後に俺はあのメイドさんと一緒に部屋に戻されて、着ている服を着替えさせられた。
海軍提督の制服をいじった船長服を用意したとかで、急ぎ仕事なので、この件が落ち着いたらきちんと船長用の制服も準備するとまで言われているが、俺の用意されている服だけでもかなり豪華なもので、十分ではと思うのだが、ローレン王子たちには気に入らないようだ。
着替えも済ませ、部屋の中には俺一人残されている状態で待たされる。
食後2時間くらいしたころ一人にされてからだと1時間は立っていないだろうか、俺についてくれている二人のメイドさんが、今度は豪華客船のクルーのような制服を着て俺の前に来ている。
彼女たちが英語で言うには俺に船に来てほしいとのことだ。
俺は部屋を出て、船に向かう。
途中で葵さんとも合流して一緒に船に向かった。
ちょっぴり嬉しかったのは内緒の話だ。
葵さんも俺と一緒に船でブルガン王国に行くそうだ。
俺の通訳としてのようで、正直申し訳なく思ったが、英語ですらやっとの挨拶程度しかできない俺では必須の人員だ。
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