第15話 数ある省力装置の真価

 あ、今度の移動にはドードンさんがいるから最悪の通訳はどうにかなるが、やはりドードンさんと葵さんと比べるべくもなく葵さんと一緒の方が断然うれしく思うし、仕事もはかどるような気がする。


 俺は葵さんに案内されるようにクルーザーの操舵室に入る。

 操舵室にはすでに軍服のような制服を着たこれまた中東美人が4人も待っていた。


 彼女たちが俺と一緒にクルーザーを操船してくれるという。

 みな英語が堪能なので、会話は英語でなら問題がないと言われたが、肝心の俺がその英語での会話に問題がある。

 葵さんは笑顔で、その後も続けてくれた。

「本郷様。

 できる限り私もここに詰めますから、心配しないでくださいね」

 だって。

 すっかり見抜かれていた。


 とりあえず、彼女たちと挨拶を交わして操船について話し合う。


 彼女たちはブルガン王国の軍人で主に沿岸の警備艇勤務だったらしい。

 彼女たちが沿岸警備で乗り込んでいた警備艇は、このクルーザーよりも小型の船であったようだが、一般的な船の操船についてははっきり言って俺以上に経験がある。


 問題があるとすれば、この船にこれでもかというくらいに取り付けられている自動化装置の扱いくらいだろう。


 すでに俺が日本に行っているときに、このクルーザーの操船マニュアルは全員が読破しているし、俺の編集したあの映像も何度も見ていると聞いた。


 そのうえで、嵐の最中の操船についてしきりに聞いてくる。

 彼女たちの目は下種を見下すようなものは一切見られず、尊敬の感情すら見受けられるのは俺の錯覚だろうか。


 彼女たちは俺以上に操船の経験はあるが、あれほど酷い嵐の中の操船はしたことがないという。

 対して俺はというと大きくない船であの嵐の中を安全に操船できる技量は素晴らしいとすら言っていたので、俺は葵さんの力を借りて彼女たちの誤解だけはその場で解いておいた。


 自己紹介が互いに終わるころに殿下たちが乗り込んできて、船はセーシェルを離れた。


 割と今回は急ぎと言われたので、今回は高速巡航速度で向かうことにした。

 俺もこのクルーザーの耐久試験に立ち会ったわけではないので、この船の本当の性能のことを理解しているわけではないが、カタログ上では高速であっても巡航であるのならば燃料満タンから空っぽまで運転していても問題ないとある。


 セーシェルからブルガン王国まで巡航でも3日で行ける距離だ。

 高速ならば二日で行けるし、何より燃料も十分に間に合うレベルだ。


 さすがに外海をいくら巡行速度であっても高速巡行ならば船外のフロントデッキを使用は避けてもらった。

 とにかく船が揺れる。

 何せ外海を航海するにはこの船は小さい。


 ローレン王子も王兄殿下も俺の判断を了承してくれたので、十分にセーシェルから離れたところで高速巡行で船を走らせた。


 今回の操船は主に殿下たちが連れてきた女性たちに任せて、俺は各種の装置の使い方を説明するに留めている。


 その際、特に喜ばれたのはソマリア沖に近づいたときのレーダー関連装置の説明をしていた時だ。


 半径10kmを監視しているレーダーで商業航路を走行中の船舶はその航路が表示され、それ以外は三色の色分けがされている。

 青、黄、赤の三色だ。

 そう、身元不明のレーダー画像からその船の航路軌跡を追って、最新のAIで漁船の漁中の動きか、それとも海賊船の獲物探索の動きかを判断して色分けしている。


 偽装されればわからなくもなるが、明らかにおかしな動きをしている船については赤色で表示して注意喚起をしてくる。

 このクルーザーのように要人が乗っている船にとってはこれほどありがたい機能はない。


 常にレーダーに人が張り付いて監視をしていれば、わかることだが、その手間すらも省力化してある。


 何より、商業航路走行中の船以外についは避けるのがベターなので、見つけ次第よける航路を取っている。

 10kmも前から発見できればこの船ならば安全だ。

 何よりこの船が真剣に逃げればまずこの船に追いつくことのできる船は無い。


 10kmもの距離をとれるので、ミサイルくらいしかこの船を攻撃できる手段も限られてくる。

 魚雷ですら、最新の魚雷の射程距離など知らないのでいい加減なことは言えないが、第二次大戦中は数キロだったと記憶しているからまず問題はないだろう。


 もっとも潜水艦からの攻撃については、対潜水艦用の船ではないので無理だが、そこまで要求されるクルーザーは、少なくとも俺は知らない。


 そんなこともあり、ローレン殿下はこのクルーザーを気に入ってくれたようだ。


 何せ実際に襲われる立場にあるようだからね。


 丸二日なら俺が徹夜をすれば問題はないけど、4人が交代で操船にあたるようにシフトを組み、常に操舵室には二人がいるようにして、俺は夜には船長室で寝かせてもらった。


 何かあればすぐにでも起こしてもらうようにはお願いしてある。


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