第二話

 夜。二十二時頃、布団に入る前の水分補給の際に、私は睡眠導入剤を水で飲む。

 そして布団に入るのだが、一時間くらい眠れない状態が続いた。

 その後一応眠れるのだが、三~四時間くらい経ったら目が覚める。それからは、朝の六時に目覚まし時計が鳴るまで、断続的にうとうとするだけだった。



 そんな、よく眠れない夜を過ごしつつ、私は平日にがるしぇに通った。

 通うと言っても、私は屋良さんに言われた通り、本当にただ「いるだけ」だ。屋良さんが、私の後見人になるための書類記入などをしてくれたり、お米を研いだり炊飯器に入れたり、拝田さんが、屋良さんのパソコンを借りて、何やらマウスをぽちぽちクリックしていたり、根室さんが丸テーブルに突っ伏して寝息を立てていたり、別の丸テーブルで射手園さんがもくもくとお手玉を作っていたりする中、

「…………」

 私は、一番隅っこの椅子に座って、手持ち無沙汰ぶさたにしているだけだ。他の人たちが自分の用事をやっている中、私はどうしたらいいか分からないのだ。

 お昼には、冷凍のおかずを湯煎ゆせんで温めたものや白ご飯で昼食をとる。それ以外の時間を、私はスマホでネットサーフィンして潰した。

 そんな日々を過ごしていると、やっぱり寂しくて、夜にはよく眠れないことが続いた。



 とはいえ、それも変わっていった。

 まず、屋良さんが私の後見人になるための手続きを終えてから、ある日。拝田さんが、

「すみれ。暇ならちょっとこの曲聞いてみ?」

 と、なれなれしく話しかけてきながら、パソコンにつないだイヤホンを差し出してきた。

 確かに、屋良さんや根室さんや射手園さんに比べて、私は暇だ。だから断れず、私は言われた通りにイヤホンを耳に差し込み、その曲とやらを聞く。

 なんと言うか……うん。一応綺麗な響きはあるが、いまいち単調な曲だった。

 その感想に困りながら、イヤホンを外した私が「えーと……。どう言ったらいいかな……」と言葉を探していると、拝田さんは、

「つまり、感想に困る曲ってことかよ。……もういい! あたしには作曲の才能がないんだ! この趣味飽きた!」

 そう言いながらパソコンを操作し、作曲に使っていたらしいアプリを、ためらいも見せずに削除した。

 確か彼女は、一週間くらい前に作曲したいと言っていたはずだ。だから私は思わず、

「飽きるの早っ!」

 と突っ込んだ。それに対して拝田さんは、

「いいんだよ。本当にあたしに向いてる趣味を早く見つけたいから、向いてない趣味はとっとと見限ったほうがいいぜ」

 と答える。私は、それを否定する気力も湧かなかったので、

「うん……。拝田さんに本当に合った趣味、見つかるといいね……」

 と、適当に彼女に合わせた。それに彼女は、笑顔を返しながら、

「おう! 応援ありがとな! それと『ダイヤ』でいいぜ、すみれ!」

 と言う。だから私も、

「……分かった、ダイヤちゃん」

 と、拝田さん改めダイヤちゃんに答えた。



 その日のお昼ご飯の後、

「ふあぁ……」

 と、根室さんがあくびをした。そしていつも通り、仮眠用枕に顔を伏せて寝る――そうしようとしたところで、彼女は私のほうを向く。軽く驚いている私に、根室さんは手招きして、

「すみれちゃんも、よく昼ご飯食べた後昼寝してるよね。よかったら、私と一緒にどう?」

 と、私を誘ってきた。私は、少し戸惑ってから、

「……じゃあ、ご一緒させてもらいます。根室さん」

 と答えて、彼女に近づく。根室さんは手をひらひら振りながら、

「『歩夢』でいいよ、すみれちゃん。昼寝仲間なんだから堅苦かたくるしいのはなし」

 と言って、自分が使っていた仮眠用枕を私に差し出してきた。

 私は、根室さん改め歩夢さんの隣に椅子を持ってきて座る。そして、スマホで二十分のアラームをセットしてから、仮眠用枕に顔を伏せた。

 それから私はいつの間にか眠っていて、そしてスマホの振動で目を覚ます。仮眠用枕から顔を上げると、相変わらずダイヤちゃんはパソコンに向かって何かしていて、屋良さんはそれを見守っていて、射手園さんはミサンガを作っている。それから歩夢さんは、

「すー……。すー……。すー……」

 相変わらず眠っていた。

「歩夢さん」

 私は彼女を揺すり起こして、仮眠用枕を返す。それを受け取った彼女は、

「ありがとー……。やっぱりこれがなきゃね……」

 と言って、再び仮眠用枕に顔を伏せて、寝息を立てだした。

 私が少し呆れていると、屋良さんが近づいてきていて、

「おはよう、すみれ。よく眠れた?」

 と話しかけてくる。私は「はい」と肯定の返事を返してから、

「私はすっきり寝てすっきり目覚めたんですけど……。どうしてこの人、いつも寝てばかりいるんですか?」

 という疑問を、屋良さんにぶつけた。彼女は苦笑いしながら、

「歩夢さんは、会社勤めだったんだけどさ……。その会社ってのがブラックで、長時間労働や過剰な叱責しっせきが当たり前だったんだってさ。そのストレスから逃れるために、歩夢さんは眠りすぎる癖がついちゃったんだ。会社を辞めて無職の今でも、その症状は治ってない」

 と説明する。それを聞いて私は、

「へえ……。辛い経験をした人なんですね……」

 と同意した。うなずいた私の肩をぽんぽん叩きながら、屋良さんは、

「そう。そんな人でも、ただ入り浸るだけでいい。それがこのがるしぇだ」

 と言った。



 さらにその日の午後。商店街の百均で買い物するために、私が早めに荷物をまとめて上がろうとしていると、

「すみれちゃん、もう帰るの?」

 と、射手園さんが話しかけてきた。私が「はい。えっと……射手園さん」と答えると、

「『晶子』でいいわよ、すみれちゃん。それより、これいらない?」

 そう言って、射手園さん改め晶子さんは、ミサンガを差し出してきた。編みかたはなんと言うのかよく分からないが、青と白のシンプルなカラーリングのもの。それを見て私は、

「……ありがとうございます。もらっておきます、晶子さん」

 と答えながら、素直にそれを受け取る。晶子さんは笑顔を作って、

「帰り際で悪いけど、聞きたいわ。すみれちゃんは、どうしてがるしぇに来ることになったの?」

 と尋ねてきた。確かに帰り際で間が悪いなあと思いつつも私は、母子家庭で育ったことや、家事が忙しくて不登校になったこと、それから中卒無職になったらお母さんを亡くして孤独になったことを説明する。それを聞いて晶子さんは、

「まあ。辛かったわね。私の話もしていいかしら?」

 と聞いてきた。私が「いいですよ」と答えると、

「私は地元を出て、主人の稼ぎで専業主婦をやってたんだけどね……。主人に先立たれて、子供たちも独立して海外に出ちゃってたから、一人になっちゃったの」

 と、晶子さんは説明する。私がうんうんとうなずいていると、屋良さんが入ってきて、

「そこで彼女は、孤独な女性の居場所はないかと検索して、このがるしぇを見つけたわけだ」

 と、説明を引き継いだ。それを聞いて私は、

「よく分かりました。それじゃ上がります……」

 と言って、がるしぇを出ようとする。しかし、屋良さんが何かを期待する顔で自分を指差しながら私のほうに身を乗り出してくるので、私は「何ですか?」と尋ねた。彼女は、

「今日一日で、すみれはがるしぇ利用者の名前呼びコンプリートしたじゃん。だから私も……」

 と言う。私は「みんなのこと、よく見てるんですね」と答えてから、

「……じゃあ、好美さん」

 と、彼女の下の名前を呼んだ。屋良さん改め好美さんは、「うんうん。もっと呼んでくれていいんだよ?」と調子に乗るが、

「呼べる時に呼びます、好美さん。じゃあ帰ります」

 と私は答えて、好美さんをずっこけさせ、晶子さんの笑いを誘った。



 そんな調子で私はがるしぇに通い続けたのだが、問題も発生した。

 余計なモノが溜まってきたのだ。

 一か月もがるしぇに通った頃だろうか。朝、いつものごとくエレベーターからがるしぇに入ると、

「おはようございます……」

 とあいさつしつつ、私はがるしぇの室内を見回して軽くため息をついた。丸テーブルのほとんどは花瓶やプラモやダンベルや手芸品などで埋め尽くされ、一つだけ空いた丸テーブルを共有して、歩夢さんが寝て晶子さんがかごを作っている。足元にも鉢植えなどがたくさん置かれ、好美さんがそれらを苦労して避けながら歩いていた。

 それらのほとんどは、ダイヤちゃんが持ちこんだものだった。この一か月ほどでも、彼女はフラワーアレンジメントやプラモや筋トレや観葉植物などの新しい趣味にはまって、そして投げ出してきたのだ。

 私が来たことに気付いた好美さん、ダイヤちゃん、歩夢さん、晶子さんが口々にあいさつするのに対し、

「来て早々あれですけど……。最近、いらないモノが溜まってきてませんか?」

 と、私は周りのいろいろなモノを指差しながら突っ込んだ。

 それを聞いて、まず好美さんが、

「うん……。それはうすうす思ってた」

 と、渋い顔をしながら答えて、ダイヤちゃんも、

「そうだな、言われてみればいらないもんばっかだな」

 と、他人事ひとごとみたいに言い、歩夢さんは、

「んー……。確かに、今の状態じゃ昼寝しづらーい……」

 と言いつつ、仮眠用枕に顔を伏せて寝て、晶子さんも、

「そうねえ、手芸するスペースに困っちゃう」

 と言った。

 みんな、いらないモノばかり溜まっているということには合意ができたようだ。それを受けて、好美さんがぱんと手を打ち鳴らしながら、

「よし! じゃあ今日から、思い切って片付けをしようか!」

 と宣言する。そして、

「とは言ったものの、何から始めるか……」

 と戸惑いながら、頬を指先でかいた。私は一つため息をついてから、

「そうですね……。これだけ多くのモノがあるんだから、ただ捨てちゃうのはもったいないです。まずフリマアプリをダウンロードしませんか?」

 と提案する。

 好美さんが「いいね、それ!」と同意してくれたので、私たちは、主にモノを持ちこんでいるダイヤちゃんと晶子さんに、スマホへフリマアプリをダウンロードさせた。そして、それぞれ自分が持ちこんだモノを売らせることにする。

 途中、

「花や観葉植物も売れるんだ……。ダイヤちゃん、それも含めて全部売っちゃって構わない?」

 と尋ねる私に、

「おう! 構わねえぜ! もう飽きたからな!」

 とすぱっと答えるダイヤちゃんに、私は呆れたり、

「まあ、ミサンガとか千円くらいで売れるのね。フリマアプリ教えてくれてありがとうね、すみれちゃん」

 とお礼を言ってくる晶子さんに、私は、

「それは晶子さんの努力の結果で、私は大したことしてません……」

 と謙遜けんそんしたりした。

 その後私たちは、不要品の写真をダイヤちゃんと晶子さんに撮らせたり、配送方法を調べて、段ボール箱や梱包材こんぽうざい緩衝材かんしょうざいなどが必要だということを知ったりする。

 それから、大量にある不要品一点一点の写真撮影や、発送に必要な資材の調達に、(寝てばかりいる歩夢さんを除いて)私たちは追われることになった。そんな日々が数日続いてから、

「なんだか最近、皆さんに労働させちゃって申し訳ないな。それで、前から考えてたんだけど……息抜きにピクニックでも行かないか?」

 と、梱包の途中で手を止めて、好美さんが提案した。それに対して、

「いいぜ! 写真撮影と梱包にも飽きてきたとこだ!」

 と、ダイヤちゃんが真っ先に同意する。好美さんに揺すり起こされて、その提案を聞いた歩夢さんも、

「いいねー……。外でお昼寝も悪くないかも……」

 と同意してから、再び仮眠用枕に顔を伏せて寝た。晶子さんも、

「そうねえ。私もインドア派なつもりだけど、たまには外に出るのもいいわね」

 と同意した。

 最後に、返事をしていないのは私だけになる。(歩夢さん除く)みんなの視線が集まる中、

「……わ、分かりました。行きましょう、ピクニック」

 と、私がおずおずと同意すると、それを聞いたみんなも顔をほころばせた。



 好美さんが、ピクニック当日のスケジュールを考えてから、数日後。私たちは昼前から、がるしぇ近くのバス停からバスに乗り、市内の観光名所の山へ向かった。

 バスの中で、

「そうだ、今度はカメラをやりたくなってきた! 今日はスマホしか持ってないけど、じゃんじゃん写真撮るぜ!」

 と、ダイヤちゃんが相変わらず彼女らしいことを言って、歩夢さんは、

「すー……。すー……」

 と、バスの中でも相変わらず寝ていて、晶子さんは、

「あの山に行くのは、主人と最後に行ってから十年ぶりくらいかしら。楽しみだわあ」

 と、思い出話をした。

 そして、山頂近くの公園に着いてから、私たちはバスを降りる。

 それからお昼が近かったので、各自持参した昼食――私は栄養補助スナック、好美さんはミックスナッツ、ダイヤちゃんはコンビニの新商品のパン、歩夢さんはコンビニ弁当、晶子さんは手作り弁当――を食べて、腹ごなしに思い思いに過ごした。私はベンチでぼんやりしていて、ダイヤちゃんは、食後だというのに元気にスマホで公園や山頂の写真を撮りまくっていて、歩夢さんは木漏れ日を浴びながらベンチで寝ていて、晶子さんは、ベンチで好美さんと世間話する。

 その腹ごなしが終わってから、私たちはモノレールで山頂まで登った。そして山頂の展望台の屋上にも上り、市内の景色を一望したり、好美さんに集合写真を撮ってもらったりする。

 それから、ロープウェイで山のふもとまで降りてから、現地解散した。

 帰りのバスの中で、チャットアプリにメッセージが入ったので見てみると、好美さんが撮ってくれた集合写真が送られてきている。

 それを見て、思わず頬をゆるませている自分に、私は気づいた。



 その日の夜。

 布団に入る前に、少しでも眠気を誘うために私は常夜灯だけをつけた部屋でのんびりするのだが――その夜はうとうとして、早く就寝時間が来るのを願いながら、私は舟をこいでいた。

 そして就寝時間が来たら、気力を振り絞って用を足して水分補給をして、それから布団に入った。その後すぐに、眠りにつく。

 その夜、睡眠導入剤を飲み忘れていたのに気づいたのは、翌朝目覚めてからだった。



 そんな日々を、四か月ほど過ごして、秋になった。

 だいぶ片付いてきたがるしぇで、ある日好美さんが、

「がるしぇの半年記念パーティーをやろう!」

 と言い出す。

 自分が撮った写真を満足げに眺めていた(写真の趣味は彼女にしては長続きした)ダイヤちゃんも、好美さんの声を聞いて顔を起こした歩夢さんも、冬に向けてマフラーを編んでいた晶子さんも、そして片付けをしていた私も、

「「「「パーティー?」」」」

 と声をそろえた。それに対し、

「そう。今年春に開所したばかりのがるしぇだけど、半年続いただけでも立派だと思ってさ。そこで、がるしぇの今後の発展も願いつつ記念パーティーをやりたい。どうかな?」

 と、好美さんは尋ねてくる。

 それを聞いて、まずダイヤちゃんが、

「おうよ! パーティーをきっかけに、今度こそ一生ものの趣味見つかるかもだしな!」

 と言いながらガッツポーズして、次に歩夢さんが、

「いいねー……。寝てばかりじゃなく、にぎやかなのも悪くない……」

 と同意してから枕に顔を伏せ、それから晶子さんが、

「いいわねえ。楽しそう」

 と前向きな返事をして、それから私も、

「……いいですね。やりましょう、パーティー」

 と同意した。

 好美さんが、ぱんと手を打ち鳴らしながら「決まりだな!」と言ってから、私たちはパーティーの企画に移る。当日のスケジュールや、お菓子や飲み物の買い出しなどの役割分担が(ダイヤちゃんがあれもやりたいこれもやりたいと横槍を入れてきたこと以外)、スムーズに決まった。



 それから一週間後、パーティー当日。好美さんはがるしぇ代表なのでがるしぇに留まっている必要があって、歩夢さんは寝ているので、私とダイヤちゃんと晶子さんの三人が買い出しに行くことになったのだが、

「すみれ、晶子さん……。ダイヤを頼む」

 と、好美さんが神妙しんみょうな顔つきで頼んできた。それに対して、私と晶子さんは、

「はい……。できるだけ目を光らせておきます……」

「分かったわ。心配しないで」

 と、それぞれにリアクションして、一方当のダイヤちゃんは、

「それじゃあたしが頼りないみたいじゃんか、好美!」

 と突っ込む。彼女に対し、好美さんも私も、

「いや、頼りないってわけじゃないんだけどさ。君はちょーっと活動的すぎるというか……」

「うん……。元気が有り余ってるのは悪いことじゃないんだけど、今日はちょっと抑えて欲しいかなーって……」

 と、フォローのようなことを言って、晶子さんだけは、

「予算の範囲内でなら、好きな物買っていいわよ、ダイヤちゃん」

 と、大らかな態度を取った。

 その言葉に覚悟を決め、私は二人と一緒にがるしぇを出る。

 そしてがるしぇの近所のドラッグストアで、案の定ダイヤちゃんは、あれも買いたいこれも買いたいと言って、いろいろなお菓子やジュースをかご一杯に詰め込んできた。それを私と晶子さんが、好美さんからもらった予算の範囲内に収まるように、必要最小限のものだけに減らした。

 私たちは、コーラやサイダーやりんごジュースやオレンジジュース、それにスナック菓子各種を買って、ついでに百均で紙コップを買って、がるしぇに帰る。

 それからいつも通りお昼を食べて、少しゆっくりしてから、パーティーが開幕した。

 まず冒頭、好美さんが、

「皆さん、本日はがるしぇ半年記念パーティーにお集まりいただき、ありがとうございます。『孤独な女性の居場所を作りたい』と思って始めたこのがるしぇですが……」

 とあいさつしかけるも、

「ごたくはいいからとっとと飲み食いしようぜ、好美!」

 と言ってダイヤちゃんが、飲み物のペットボトルやお菓子の袋をぽんぽん開けていって、台なしになった。

 その後好美さんが、

「皆さんの、がるしぇでの一番の思い出は?」

 と話題を振る。それを受けて、まずダイヤちゃんが、

「ギターだろ、作曲だろ、写真だろ……? いろいろありすぎて、一つに決められねえな」

 と言って、次に(飲み物やお菓子を飲み食いし続けることでどうにか起きている)歩夢さんは、

「……昼寝」

 とうとうとしながら言って、それから晶子さんが、

「そうねえ。がるしぇで過ごす一日一日が大切な思い出だから、一つに決められないわね」

 とにこやかに言って、一方私は、

「……がるしぇに初めて来た日、ですかね。未だに、ダイヤちゃんのギターが忘れられなくて……」

 と言った。

 それらを聞いて、好美さんも優しい笑顔を浮かべながらうんうんとうなずいたり、引きつった笑みを浮かべたりと、表情を忙しく変える。

 それからダイヤちゃんが、最近はまっているというひもを使ったマジックを披露ひろうすることになったのだが、

「これをここに通して、これを引っ張って……。あれ? こんがらがっちゃった! もういい! あたしはマジックに向いてないんだ!」

 と言いながら、ぐちゃぐちゃになったひもを放り捨てて、みんなの笑いを誘った。

 その後ビンゴゲームをして、私が一番にビンゴになって景品のお菓子詰め合わせを当てるも、

「私、お菓子食べませんけど……。そうですね、お母さんへのお供えにもらっときます」

 と言って、お菓子をもらうことにした。

 さらにその後、少しみんなで歓談かんだんする時間を作ってもらう。まず好美さんが、

「次は何やりたい、ダイヤ?」

 と尋ねると、ダイヤちゃんが、

「あたしがそんなにころころ趣味変えてることを、当たり前みたいに言うなよ! あたしはあくまで、一生ものの趣味を探してるんだからなっ!」

 と抗議して、その大声に起きた歩夢さんが、

「私が起きてる間、ダイヤちゃんの趣味が同じだったためしがほとんどない……」

 と突っ込んでからまた寝て、それを受けて晶子さんが、

「まあまあ。多彩な趣味を楽しめるって、楽しくていいじゃないの」

 と言いながら笑って、私も、

「うーん……。ダイヤちゃんのおかげで、フリマアプリへの出品のこつは掴めたかな……?」

 と、一応ダイヤちゃんをフォローした。そうした声を聞いて、ダイヤちゃんは、

「みんな言ってくれるじゃんか! あたしが本当の趣味を見つけるまで、待ってろよっ!」

 と減らず口を叩いて、みんなの笑いを誘う。

 そんな調子で、がるしぇ半年記念パーティーはお開きとなった。



 パーティーが終わった後は、みんなで片付けをする。

 みんなで余ったお菓子や飲み物を冷蔵庫にしまったり、空のペットボトルやお菓子の袋や紙コップを捨てたり、あと私がダイヤちゃんに、マジックで使おうとしたひもについて「これも捨てちゃっていいの?」と尋ねて、「いいぜ!」と快諾かいだくされたりした。

 その途中、好美さんのスマホに電話がかかってきて、彼女は渋い顔をする。

 好美さんは、私たちからちょっと距離を置いてから、電話に出た。だから、彼女の話す内容が、

「お世話になっております。……んの件、どうなりました?」

「ですから……。……考え直してはいただけないでしょうか」

「……分かりました。失礼します」

 と、断片的に聞こえてきた。

 通話を終了した後、好美さんが私たちに近づいて来て、

「皆さん、パーティーの余韻よいんに浸ってるところ申し訳ない……。残念なお知らせがあります……」

 と告げる。

 続けて、彼女はこう宣言した。

「がるしぇは来年三月で終了します」

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