第11話 世界に一つだけの花



 4月の朝のうららかな日差しの中 緩い坂道を登っていく少女達。

 あるものは 速足で あるものは 友人同士 たわいもないお喋りに興じながら 校門への通学路を登っていく。


 県内屈指の名門女子校 私立〈聖心館せいしんかん女子学園〉前の坂道。

 女子中高生や女子大生が行き来する 華やかなイメージから付いた通称は〈錦坂〉。

 

 黒いボレロタイプのブレザーに 真っ白の丸襟のブラウス。

 赤い紐タイに これまた黒のジャンパースカート。 

 スカート丈は しっかり膝まで。

 2つ折りのクルーソックスに黒い革靴。

 

 学園創立時から変わらない古風なデザインの制服姿。

 髪ゴム 髪留めは 黒か茶色のみとの校則は有れど そこは年頃の少女達。

 様々に工夫を重ねて 自分らしく 可愛らしい髪型を 日々 考案し錦坂の華やぎに色を添えていた。

 ポニーテールにハーフアップ。

 ショートカットやサイドテール。

 三つ編みにしたり 編み込みにしたり……。

 思春期らしい自己主張と流行と同調圧力の 微妙なコラボレーション。



 中高生達の登校の波が終わって20分ほど経つと 今度は1限に向かう女子大生達が 錦坂を彩る。

 黒の制服ばかりだった中高生とは違い 大学生の服装は実に様々。

 まるで 生花店に並んだ色とりどりの花といった風情。


 その中に 固い蕾が一気に花開いたようなあでやか女性が1人。

 いや 隣を歩く長身の女性も 凛とした華やかさを持った鮮やかな美女。



「……あの日さぁ なんで ピアスしてなかったの?」


「朝さ あかりさんと毬乃さんのこと話してたんだよね『スッゴい口煩い風紀委員長がいてさ~』みたいな感じで」


「その頃から 気にしててくれたんだ?」


「まあね。恋愛感情じゃなかったと思うけど。で その日の朝に あかりさんが『服装検査あるなら ピアス止めといたら』みたいなこと言ったの。それで つけなかったんだと思う」


「それなのに 編み上げブーツは履いてたの?」


「うん」


「いい加減なヤツねー」


「ホント ホント」



 咲良の相変わらずのテキトーな返事に ジト目でツッコム毬乃だったが 咲良は気にする様子もない。

 諦めた毬乃は 話を続ける。

  


「でも その偶然がなかったら アンタ アタシに告ってないでしょ?」


「……たぶんね」


「なんか 偶然とか運命とか あんのね~」


「取りあえず あかりさんに感謝だね」


「確かに。今度 会ったらお礼言わなきゃね」


 

 咲良の横顔をじっと見つめる毬乃。



「何? なんか顔についてる?」


「ううん。そーじゃなくて 前々から思ってたんだけど アンタの その小さな青い花のピアス カワイイわね」


「おっ? 毬乃さんも 遂にピアス穴 開ける気になった?」


「うーん。 痛いのヤなんだけど アンタとおそろにできるなら ちょっといいかもね……色は赤系がいいけど」


「いいじゃん。ペアピアスしようよ~。でもさ これって わたしの手作りなんだよね。世界に一つだけの花のピアス。稲荷町のお店で作ったの。毬乃さんも 欲しいなら 一緒に作りに行こ?」


「ええ いいわね。案内してくれると嬉しいかも」


「わかった。なら4限 ダルいしサボろ? そしたら午後 時間取れるし」


「ハァ? そんなこと許されるハズ無いでしょ!? ……相変わらず不良なんだから」


「じゃあ 土曜日に行く? デートって感じでさ」


「そうしましょ。最近 デートしてなかったし。午前中 稲荷町のそのお店行って 午後は そうねぇ……ふふっ。久しぶりにアンタが〈ボク〉って言うのを聞きたいかも?」



 そう言いながら 長身の恋人の表情を見上げる毬乃。

 咲良の顔色は その名の通り 心なしか桜色。



「この間も 可愛いかったな~。アンタが〈ボク〉って言うの聞くとゾクゾクすんのよね。……やっぱ 1限から サボっちゃおっか?」


「はっ はぁッ? ふっ 不良過ぎるでしょ……毬乃さん。じゅ 授業は 出なきゃダメだし」


 

 三岡 咲良の顔色が真っ赤になったかと思うと 大学の校舎に向けて駆け出す。

 森園 毬乃がニヤッと笑い 慌てて追いかけるが 運動は 相変わらず得意ではないのか みるみる引き離されていく……。



「……あの 2人 卒業しても 追いかけっこしてんのね~。仲の良いこと」



 一部始終を高等部の職員室から眺めていた 市橋 美羽は 独り呟くのだった。 



 

 


                       ~Fin~ 


  



 

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