第10話 ダイナマイト



「ご馳走様でした」



 折り目正しく背筋をピンと伸ばした正座の毬乃が手を合わせる。

 隣で胡坐をかいたジーンズ姿の咲良が黙って茶碗を母親に差し出す。

 


「お粗末様でした。お茶れるわね」



 咲良の茶碗に白飯をよそおいながら 三岡家の家刀自いえとじが答える。

 三岡家の食卓。

 夏も冬も何度か食事を共にしたので 毬乃もある程度 顔馴染みになっている。



「じゃあ 食器下げますね」


「あら いいのよ。お客さんは座ってて」


「でも 泊めていただくのに 何もしないのも……」


「森園さんは 本当にちゃんと躾られた いいお嬢さんねぇ。咲良なんて 食べても食器放ったらかし。……末っ子だからって甘やかし過ぎたわ」



 黙ったまま タクアンと一緒に白飯を掻き込む咲良。

 2月の末 もう直ぐ卒業という時期。

 咲良は 卒業旅行に泊まりでスキーへ行こうと提案したのだが「まだ高校生なのよ?」という毬乃の反対で規模を縮小して 三岡家でのお泊まり会に落ち着いたのだった。


 

「……ん。食べ終わったし お風呂行ってくる」


 

 立ち上がり居間を立ち去ろうとする咲良を母親が咎める。



「ちょっと! お客さんに1番風呂 使ってもらいなさいっ。咲良は 森園さんの後よ……。ほんとうにごめんなさいねぇ。どうぞ 先にお風呂使ってちょうだいね」


「スミマセン。気を使っていただいて……」


「いいのよ。場所わかるかしら? 咲良っ 案内してあげて」


 

 ………。

 ……。

 …。


 

「いいお湯でした。ありがとうございます」



 毬乃が ドライヤーを当てた縮れた髪の纏まりを気にしながら居間へと戻ってくる。

 風呂上がりの毬乃は ライトグリーンの格子柄のパジャマ。

 大きめの前留めボタンが可愛いらしいデザイン。

 

 

「あら。もう上がったの? 咲良 次 お風呂行ってきて。……そうだ 森園さん。お布団はどこに敷こうかしら? 客間がいい? それとも 咲良の部屋かしら?」


「できたら咲良さんの部屋でお願いしたいです。せっかくだし 色々 お喋りしたいですし……夜遅くまで うるさかったら ごめんなさい」


「大丈夫だと思うわよ。咲良の部屋 座敷の横の 昔お爺ちゃんが使ってた部屋をリフォームしたから 結構 私達の部屋から遠いし。まぁ でも あんまり夜更かしはダメよ?」


「はい。気をつけます。あの お布団 アタシ運びます。どこに取りに行けばいいですか?」


「あら 悪いわねぇ……」


 

 ………。

 ……。

 …。



「……なんだってさ。朱音のハナシだから たぶんホントだよ? 信じられる?」


「ウソでしょ。いくら長谷部さんの話でも限度ってモノがあるわ」



 咲良が 風呂から上がった後は 咲良の自室で いつ尽きるとも知れぬお喋り。

 咲良は 自分のベッドに寝そべり 毬乃は 床に敷いてもらった布団に座ったり転がったり。

 23時過ぎに照明を ルームランプだけにしたものの あっという間に1時間が経っている。



「あれ? もう こんな時間……そろそろ寝る?」


「……うん。でも その前にさ……」



 毬乃が 上目遣いに咲良を見る。

 そう言えば 今日は まだキスしてなかった。

 咲良が 毬乃の布団に降りる。



「ライト消して?」



 唇を合わせながら 咲良が腕を伸ばし ライトの光量を絞る。

 部屋の中が闇に包まれると同時に ボタンを外す 微かな着擦れの音。

『えっ?』と思う間もなく 毬乃の右手が 咲良の右手を いつもはキッチリと着込まれたブラウスの下に隠された豊かな膨らみへと誘導する。

 咲良が初めて触れる柔らかくてズッシリと重い丸い膨らみ。



「まっ 毬乃っ?」



 慌てて 距離を取ろうとする咲良の首にしがみつく。

 クセっ毛少女の名前通りゴム毬のように弾力のあるバストが 咲良の胸に押し付けられ 形を変える。

 咲良の耳許で 毬乃が囁く……咲良が今まで聞いたことのない上擦った声で。

 


「さっ 咲良っ アタシ… アタシそのつもりで来たからっ。もっと もっと色々教えて欲しいっ。……アタシ 咲良にされるなら ホント どうなってもいいの……。ねぇ だからお願い。いっぱい いっぱい 教えて……」


「まっ 毬乃……っ ……んんっ」



 何か言おうとする咲良の口を毬乃の唇が塞ぎ 形の良い唇の間に毬乃の濡れた舌が挿し込まれ 咲良の口腔を蹂躙していく。

 生まれて初めて味わう舌同士が絡み合う感覚に 咲良が混乱する間に 毬乃の手が蠢き 互いのパジャマのボタンを外し 肌の露出してる面積を増やしていく。

 そして 肌同士が触れ合う面積も……。


 

 ………。

 ……。

 …。



 隣で人のモゾモゾと動く気配で意識が覚醒しはじめる。

 柔らかな 女性の肌が自分の肌に触れる感覚が 昨日のことが 夢でなかったことを教えてくれる。



「お おはよう。毬乃…さん」


「おはよう 咲良。昨日は ゴメンね。咲良が あんまり可愛い声で哭くから 歯止め効かなくなっちゃって……さ」


「わ わたしこそ きっ 昨日は 変な声 いっぱい出しちゃってごめんね。でっ でも 毬乃さんのせいで わたしのせいじゃ……」



 毬乃が 咲良の真っ赤になってる耳に唇を寄せて囁く。



「アンタ『ボクって言ってるのは演技』とか言ってたけど ホントに感極まったら〈ボク〉って言うんでしょ? 昨日 最後の方 ずっと〈ボク〉って言ってたわよ? 覚えてる?」


「……しっ 知らないっ」


「ふうん……? そーなんだ? じゃあ もう1回確かめても いい?」



 毬乃の指が 咲良の白い肌に伸びる。



「やっ ヤメテっ。おかしく おかしくなっちゃうから……。ちゃんと言われた通り〈さん〉付けで呼ぶようにしてるじゃん。だから これ以上 イジメないで……」


「イジメなんて人聞きの悪い。教えてあげてるだけじゃない。でも まぁ アタシ 嬉しいのよ。何でもできて 何でも知ってる 咲良が ホントに知らないんだもん。アタシが これから い~っぱい教えてあげるからね」


「お お手柔らかに お願いしたいです……」


 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る