第9話 夜空ノムコウ



 元旦の払暁。

 深夜からの初詣客への応対を終え 仮眠を取るために 咲良の自宅へと向かう2人。

 巫女服は 既に私服に着替え ジャンパーと手袋はしているものの 厳冬期の一番寒い時刻。お互いを温め合うように 寄り添いながら 東向きに参道を行く。



「毬乃 眠くない? 大丈夫?」


「ちょっと眠いけど まだ 大丈夫。徹夜勉強で慣れてるし……」



 少し肩を竦める咲良。



「わかってる。効率悪いって言うんでしょ? アンタが 教えてくれるようになってからは してないわよ。……まぁ アンタには ホントに感謝してるわ。勉強だけじゃなくて 他のことも いっぱい教えてもらったし」



 眠気と疲労が 少し心に靄をかけ 素直に気持ちを吐露する毬乃。



「わたしも 感謝してるよ。毬乃といると ホント 退屈しないしさ」


「退屈しないってナニよ? なんかムカつくわね」


「そうやって すぐ怒るとこも 好きなんだよね。素直な毬乃が好き」


「口悪いって思ってんでしょ?」


「まぁ そこは否定しないけど」



 参道の終わり 下りの階段が始まるところで 2人が歩みを止める。

 遠くに見える星崎岬の先の海が うっすらと黄金色に輝き始めている。

 その上に広がる東雲しののめ暁光ぎょうこう



「綺麗……」



 しばしの沈黙の後 咲良が口を開く。



「ねぇ 毬乃。来年も また 一緒にはつ日の出 見れるといいね」


「……やっぱ アンタとは 気が合わないわね。アタシは 咲良とはつ日の出 見るもんだって 思ってたのに」



 毬乃は 新年の光を浴びて紅く染まる 恋人の顔を見上げる。



「……うん。そだね。ゴメン。 見よう」



 2人は 目を見合わせ小さく笑うと 曙光射す石段を 手を取り合って下りていったのだった。



 

 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る