第2話 セロリ



さくちゃん また あのセロリ女 煽って遊んでたの?」



 長谷部はせべ 朱音あかねが シンセキーボードの打ち込みをしながら 視線を上げずに三岡 咲良に話しかけてくる。

 高校棟東側の地下にある軽音部の防音スタジオ。

 水曜日の放課後前半は 咲良と朱音の2人で作るロックユニット〈桜―Vermilion―〉の練習時間。



「セロリ女?」


「風紀委員のチリモジャ眼鏡」


「ああ 森園 毬乃。で なんで 森園がセロリ?」


「健康には いいかもだけど クセ強すぎ」


「なるほどね~。まぁ クソ真面目で アク強い感じは セロリっぽいかも」


「咲ちゃん ああいうのが好み?」



 長谷川 朱音は 長いストレートの黒髪。

 痩せ型 長身で 咲良と似た雰囲気だが もう少し落ち着いた印象。

 咲良とは 聖心館中学時代からの付き合いで 咲良をロックの道に誘った張本人でもある。

 

 

「……えっ? いいや 全然。知っての通り わたし 女の子に興味ないし。そりゃ〈桜―Vermilion―〉の情宣で 王子様キャラやってるけど アレ演技だって 朱音 知ってるっしょ?」


「王子様キャラが 演技かどうかは知らないけど 咲ちゃんが ファンの言い寄ってくる女の子達に興味無いのは 知ってる」


「でしょ?」


「でも 咲ちゃん あのセロリ女に自分から ちょっかい掛けに行ってるじゃん?」


「そーかな?」


「そう思うけど。だいたい 人の名前 覚えれない咲ちゃんが 名前 覚えてるだけでも 大事おおごとだと思うな」


「森園 クラス一緒だし 席がわたしの後ろなんだよね」


「私 中1の時 咲ちゃんの1コ前の席だったけど 冬休み前でも〈ハセガワさん〉って呼ばれてたけど?」


「そーだっけ? 覚えてないや」


「まぁ そうでしょうね。……っと 最後が#Dっと。打ち込み終わり。咲ちゃんは ギターのチューニング終わってる?」


「あ。うん。もちろん」


「『わだち』の後半 言われた通り ちょっとテンポ落として ベース音を目立たせてみた。1度合わせてみる?」


「了~解」


 

 〈桜―Vermilion―〉は 2人組のロックユニット。

 咲良がヴォーカルとリードギターを担当。

 それ以外の全ての音源をシンセキーボードを駆使して朱音が担当し なおかつコーラス部分も朱音が歌う。

 朱音の高い音楽能力と咲良のカリスマ性が人気の秘密。

 演奏する楽曲も J-Rockを中心に その時々の流行曲をレパートリーに加えている。

 そんなお手軽さも 人気の理由なのかも しれなかった。


 一瞬の静寂。

 朱音のシンセキーボードが チッ チッ チッっとリズムを刻み始める。

 狭い防音室内に 朱音の奏でる前奏が響き その上に咲良のギターが重なる。

 放課後 後半までの1時間。

 真剣勝負の時間帯がやってきた。




◤◤◤◤◤


作中に登場する楽曲〈轍〉は FFの香さんの

『えな ─愛しい君へ─』

https://kakuyomu.jp/works/16817139556618491028

に登場する楽曲名を ご本人の許可を得てお借りしています。

この場をお借りして お礼申し上げます。

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