咲良と毬乃の或る日のポートレート
金星タヌキ
Sakura to Marino no Aruhi no Portrait
第1話 らいおんハート
4月の朝の
あるものは 速足で あるものは 友人同士 たわいもないお喋りに興じながら 校門への通学路を登っていく。
県内屈指の名門女子校 私立
女子中高生や女子大生が行き来する 華やかなイメージから付いた通称は〈
黒いボレロタイプのブレザーに 真っ白の丸襟のブラウス。
赤い紐タイに これまた黒のジャンパースカート。
スカート丈は しっかり膝まで。
2つ折りのクルーソックスに黒い革靴。
学園創立時から変わらない古風なデザインの制服姿。
髪ゴム 髪留めは 黒か茶色のみとの校則は有れど そこは年頃の少女達。
様々に工夫を重ねて 自分らしく 可愛らしい髪型を 日々 考案し錦坂の華やぎに色を添えていた。
ポニーテールにハーフアップ。
ショートカットやサイドテール。
三つ編みにしたり 編み込みにしたり……。
思春期らしい自己主張と流行と同調圧力の 微妙なコラボレーション。
そんな中
首上ぐらいの短めの髪を 右耳は隠し 左耳は露出させた
特に目を惹くのが 髪の内側の部分を彩る
他の少女達より頭1つ高い長身と白皙の肌に よく似合ってはいたが
そして もう1つ目を惹くのが 肩から担いだギターケース。
ケースの形から察するに アコースティックではない……どうやらエレキギターらしい。
「
「
聖心生らしからぬ 尖ったファッションながら 友人は多いらしく 長い脚で緩い坂道を登っていく彼女に にこやかに手を振ったり挨拶したりする少女達が 一定数 見受けられる。
ファンなのだろうか? 少し遠目に憧れの眼差しを向ける一群の女生徒達の姿も。
彼女の名前は
軽音部所属の高校3年生。
昨年こそ 生徒会長率いる急造アイドルチームにグランプリを譲ったものの 例年文化祭で行われる人気投票では 常に上位に食い込む
その端麗な風姿と 爽やかで気取らない発言 それでいて 自分のスタイルを貫く反骨心には 女子生徒ばかりではなく 職員室にまで応援団があるという
因みに髪の色は〈先天性の色素異常〉ということで 学校から特別に染髪許可を得ている。
とは言え パートカラーを入れる必要はないワケだが……。
咲良が緩い坂道を登りきって 校門の前へと着く。
レンガ造りの校門の内側には 数名の生徒と生徒指導の教員の姿。
「三岡さん おはよう」
「おはよ。センセー」
「オススメしといた Newluminousの新曲 聴いた?」
「聴いた 聴いた~。けっこう よかったよな アレ。
「でしょ? 〈桜―Vermilion ―〉でやったら カッコいいと思うんだよね」
赤色のジャージに肩下までの髪を無造作に束ねた教員は 市崎
体育科の教師で 4年(高等部1年)D組の担任。
生徒指導担当の教員の1人であり 蛇蝎の如くというほどでは ないにしても 生徒達から それなりに恐れられている市崎も 咲良にはタメ口で話されても 注意もしない。
その様子を 呆れた様子で見つめる女生徒が1人。
かなりクセの強い縮れ髪を ガッチリと結った三つ編みの2つおさげ。
度は弱そうな大きなレンズの
上腕には風紀委員会と白地に赤で書かれた腕章。
ヤレヤレというように 小さく左右に首を振り ブツブツと独り言を呟いたあと 咲良の前に 立ちはだかる。
「おはようございます 三岡 咲良さん。先生と朝の御挨拶も結構ですけど その服装は 校則違反のように見えるんですけど……」
「おはよー。
「おかげさまで。貴女が もう少し 規則や規範意識というものの意味を考えて下さるようになると 少しは気分良く暮らせそうですが……。…その足元の靴って 編み上げブーツじゃありませんか?」
「カッコいいっしょ? 昨日も言ったけど ルミナスで 見つけたんだよね」
「校則 二十一条の服装規定に『革製の黒のローファーを履くこと』って あるのはご存知ですよね?」
「うん。確か 昨日の朝 森園から 聞いた気がする」
「……そう。昨日の朝 今年に入ってから4回目でしたけれど この場所で 説明したハズですよね? ……しかも 貴女が 早口で乱暴な口調だと 解らないっておっしゃるから 懇切丁寧に ゆっくりと」
「うん。ゆっくり喋ってくれたし 分かり易かった」
「なのに なぜ 今日も 貴女はブーツなんて 履いてらっしゃるんでしょうね?」
「このブーツ 黒いし 革製だし だいたいオッケーって感じじゃん?」
「だいたいとか そういうハナシしてるんじゃないですよね? 校則違反だって言ってんですけど?」
「森園 口調が なんか早くて乱暴な感じなんだけど?」
「……コホン。そのブーツ
「だから 森園は 黒い革製の靴が好きなワケでしょ?」
「違います。誰も 私の好みの話なんてしてません! 私は 校則違反は許さないって 言ってるんです。だいたい その髪の色の件にしろ ソックス代わりに黒タイツ穿いてきてる件にしても 私が 口を酸っぱくして 風紀委員会で取り上げて 問題提起したのに 後出しで〈先天性の色素異常〉だとか言って許可取ったりして……。市崎先生は ともかく 私は納得してないですからね?」
「このブーツも その言い訳で なんとかならない?」
「なるワケないッ……です。……そもそも 貴女 校則や規範ってなんだと思ってんですかっ?」
「ん~~校則? ……そうだなぁ 森園を からかうためのオモチャ?」
「――――――ッ。三岡 咲良ッ! アンタ いい加減にしなさいよッ! 人が下手に出てりゃ 調子乗って~ッ! 今日という今日は 絶対 許さないんだからッ!」
森園 毬乃の顔色が真っ赤になると同時に 三岡 咲良がニヤッと笑い校舎に向けて駆け出す。
慌てて 追いかける毬乃だが 運動は得意ではないのか みるみる引き離される。
「泣く子も黙る 風紀委員長 森園 毬乃に 毎朝 楯突くってのも 勇気あるし スクールカースト最上位 学園の王子様 三岡 咲良に 毎朝 噛みつくってのも 勇気あるよな~。お互い心臓 強いわ。らいおんハートだね……」
走り去っていく学園の朝の風物詩を眺めながら 市橋 美羽は 独り呟くのだった。
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作中に登場するバンド〈Newluminous〉は FFの香さんの
『えな ─愛しい君へ─』
https://kakuyomu.jp/works/16817139556618491028
に登場するバンド名を ご本人の許可を得てお借りしています。
この場をお借りして お礼申し上げます。
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