超大型スタンピード
またスタンピードが起きた。
ミシエラは魔獣の大森林にあるだけに、実はもう六回目のスタンピード。
今までは小規模で魔獣は千匹程度だったんだけど、今回は桁が違った。
ざっと見た感じ、一万は越えてると思う。
ミシエラとメトニッツの定期便は、遠くからミシエラ周辺に魔獣がいないことを確認してから近付くから問題無いんだけど、今回は町を囲む魔獣が多すぎて、すぐには殲滅できそうにない。
さすがに何日も定期便が止まるのは困るよ。
これまでのスタンピードでは魔獣罠フル稼働で対応してたんだけど、さすがにこれは多すぎる。
だから私が討伐に出ようかと思ってたんだけど、町の人から陳情が来た。
住民全員が、何日かかけてレベルアップすることはできないかってお願いなの。
町の人は現在レベル7になってるんだけど、魔法の便利さに慣れちゃって、魔力不足を感じてた。
ミシエラは十段の楕円ウエディングケーキみたいな構造だから、上下の移動は徒歩なら階段。
町内循環魔導車バスも運行してるんだけど、待ってるのが面倒。
だから住民たち、魔法で階段の無い場所を飛んで移動してるんだよ。
でもさすがに、飛んだり仕事に魔法を使ったりすると魔力が足りなくて、階段まで大回りしなきゃいけなくなるの。
どうやらそれで不便を感じてたみたいで、こんなに魔獣がいるなら、何とかレベルアップに使いたいってことなの。
みんなすごいよね。
普通スタンピードで魔獣に町を囲まれたら一刻も早く魔獣を殲滅したいはずなのに、一気に殲滅すると魔獣がもったいないとか思うんだから。
いくらミシエラには魔獣が入って来れない構造だからって、さすがに魔獣に慣れ過ぎじゃない?
でもそうなると、困るのは定期便。
人の移動は危ないから止めるにしても、物資は搬入したい。
そこで登場するのが私。
私ならメトニッツまで飛べるし他次元庫も使えるから、物資の搬入は可能。
だけどさすがに魔力だけで飛ぶと片道分しか魔力が持たないし、毎日魔力枯渇はさすがに辛い。
そこで考えたのが、荷物の途中受け渡し。
定期便がミシエラ近辺を遠くから確認するための小高い丘があるので、そこまで私が飛んで物資を受け取るなら毎日物資の搬入は可能になる。
フランツも悩んでたけど、兵士さんや受講者たちまでレベルアップを望んじゃったから、結局全住民レベルアップが始まってしまった。
フィリーネパパさんだけじゃなく、私、フィリーネ、フランツ、光の矢の扱いが上手い兵士さんたちで、罠を使って全住民をレベルアップ。
でも魔獣が多すぎてトラップドアが閉まらないもんだから、積み重なってく死骸は他次元庫持ちが檻の外から回収。
魔獣罠エリア、人がごった返して通路が満員電車みたいになってたよ。
それにさ、夜はガウガウうるさいの。
九層十層は農産物エリアだから魔獣まである程度距離はあるし、住宅は石造りだから防音性も高くて助かったけど、一万も集まるとあんなにうるさいんだね。
騒音もだけど、やっぱり魔獣が多すぎだ。
結局魔獣殲滅までに十日も掛かっちゃったし、受講者以外全員が三レベルアップしちゃったもん。
本来なら増えた魔素をきちんと制御できるようになってからレベルアップすべきなんだけど、町の住民たちは魔導師や魔導機器作りするわけじゃないから、とりあえず魔力が増えればOK。
複数レベルアップにだけ気を付けて、三日日に一回くらいのペースでレベルアップ。
兵士さんは二年くらい魔素制御訓練し続けてるしこれからも制御訓練は日課だから、三レベルアップならそのうち制御できるようになるだろう。
問題は受講者たち。
まだ魔素制御訓練初めて数か月だから、二つ上げるのが限界だった。
それでも四倍に増えた魔素の制御に、かなり苦しんでたね。
誰一人、もうひとつ上げてほしいなんて言わなかったから。
だから事前に忠告したのに、なんだか町中がお祭りみただったから気分に当てられたんだろうね。
結局講師陣も三レベルアップしちゃったけど、兵士さん同様長く魔素制御訓練してるし、魔素制御が重要だって身に染みて分かってるから何とかなるだろう。
あ、全員レベルアップじゃないな。フィリーネはひとつ上がったけど、私は上がってないや。
町の住民のほとんどが若者だから、なんか牛追い祭りみたいなノリになってたけど、魔獣への危機感が薄れてるようで怖い。
魔獣の殲滅済んでから最下層の外壁チェックしたら、硬い安山岩なのに表面があちこちボロボロになってたよ。
少しは危機感持たせられるかと思って、補修部隊に住民をローテーションで手伝いに付けた。
石壁に刻まれた深い爪痕がいっぱい残ってたから青い顔してたって報告あったので、少しは危機感戻ったかな。
補修材の安山岩と補修面を溶融させて傷を埋めるから補修に何日もかかったけど、十日も魔獣に囲まれたままにしちゃったんだから仕方がない。
壁厚、1.5mにしておいてよかった。
「アカリ、住民たちが自発的に募金を集め、外壁の補修代にと持って来たぞ」
「ありゃりゃ。補修に駆り出したから、その労力だけで良かったのに」
「住民の代表に平身低頭して謝られた。次からは、レベル上げしたいなんて我儘は言わんそうだ」
「おや、お灸が効きすぎたか。でもまあ、魔獣への危機感思い出してくれて良かったよ」
「深い爪痕だけじゃなく、補修中に魔獣に襲われるのが堪えたみたいだ」
「ああ、壁無しで魔獣と対峙したから、外壁のありがたみが分かったんだね。そっちは考えてなかったよ」
「補修材はタダだし補修作業も兵の訓練の一環だから余分な金は掛かってない。しかも魔核と魔獣素材で、スタンピード対応の収支は大幅な黒字だぞ。この金、どうする?」
「う~ん…。お城でお見合いパーティーでもする?」
「何だそれは?」
「この世界って、平民でも親が結婚相手連れてきたりすること多いでしょ。だけどここの住民は親元を離れて独立しちゃってるから、自分でお相手探さなきゃいけない。だから探しやすいように庶民向けのパーティーで男女ペアの遊びとかしてして、男女を交流させるの」
「ああ、貴族のダンスパーティーみたいなものか。ありだな」
「趣旨を話して、お城のメイドちゃんたちに企画させてみよう。監修は私がするから」
「定期開催にするのか?」
「受けが良ければね。ここって収穫祭とかもないから。もちろん夫婦で参加もOKだけど、男女での遊びは未婚者限定」
「分かった。任せていいか?」
「うん」
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