メトニッツ探検隊 4/5

応援の兵士さんたちが来て居合わせた人に事情聴取してるのを、離れた席で眺めてたら…。


「アカリ姉様、〇女って何?」

「う。…あのくそ司祭め、変な言葉使いやがって」

「お姉様も、今の発言はよろしくございませんわ」

「あ、しまった…」

「アンジェリカ、〇女というのは女性を貶す言葉なので、わたくしたちが使ってはいけない言葉ですわ」

「ふ~ん、分かった。町では時々聞くけど、さっきのアカリ姉様の言葉も?」

「そうだね。さっきは私が悪かったよ。アンジェリカやマーガレーテには似合わない言葉だから、使わないでほしいな」

「はーい」

「でもお姉様、詳細までは聞いていなかったのですが、肉片ですの?」

「そこまではしてないから!」

「飛剣魔法を使ったとおっしゃっていましたわよね?」

「…はい、そうです」

「同行の兵が青ざめたとはお聞きしましたが、誇張があったとしても、使った結果が肉片と評されるような魔法をわたくしに習得させたのですね?」

「……はい」

「お姉様を責めているわけではございませんわ。わたくしが実際に手にしているものの威力を実感してしまって、少し恐ろしくなっただけですわ」

「…なんかごめんね」

「わたくしは、そのような魔法を持たねばならぬほど狙われる存在ですのね」

「あの時点ではね。だけどフランクリンが頑張って他国の魔導師を指導してるし、私たちも頑張ったから領内に新型魔導機器の魔法陣を作れる人も増えて来てる。だから今はそれほどじゃないよ」

「魔導機器の件が無くとも公爵家の継嗣ですから、狙われるのは宿命みたいなものですわ。しかも今なら小隊規模の襲撃でも退けられるようですから、むしろ安全性が格段に上がっていますわね」

「じゃあ私も、もう魔導機器作り覚えてもいい?」

「え、アンジェリカも作りたかったの? 代官屋敷には、大抵の魔導機器を送ったよね?」

「うん。お屋敷が便利になったって、みんな大喜びだったよ。でも私は、お人形さんのお部屋に可愛い明かりの魔導機器を作りたいの」

「おお、それは考えてなかったな。各町への魔導技師の派遣って、マーガレーテの担当だったよね。どうなってたっけ?」

「まだレベル上げが完了していませんので、国からの認定を得るのはもうしばらくかかりそうですわ」

「そうなると、アンジェリカがメトニッツでたったひとり、魔導機器を作れる存在になっちゃうね。年齢的にも、それはマズいかも」

「そうですわね。わたくしとお姉様のような仕事地獄を、アンジェリカに体験させるわけにはまいりませんわ」

「え、いっぱいお仕事しなきゃダメなの? エルのお世話や母様のお手伝いができなくなっちゃう」

「そうだね。だから専門で魔導機器作れる人が来るまで、もうちょっとだけ我慢した方がいいね」

「うん、そうする。あとね、マギー姉様に質問。教会って、女神様にお祈りするとこじゃないの? 領都の教会はここと一緒?」

「本来はアンジェリカの思っている通りなのですが、どういうわけか教会本部の人間は、自分たちには女神様の後ろ盾があるとでも思っているような傲慢な者が多いですわ」

「えー。ここの教会にいるシスターさんたちは、みんな優しいのに」

「領都でもそうですよ。それに領都教会の司祭様は、さっきのとは違ってちゃんと優しいですよ」

「そうなんだ、良かった」

「何か心配だったのですか?」

「だって女神様にお祈りする場所に意地悪な人がいたら、みんなお祈りしに行かなくなっちゃうもん。それだと女神様が寂しいでしょ?」

「アンジェリカ、偉い! そうやって他の人の事を考えられるアンジェリカが、私は大好きだよ」

「そうですわ。わたくしも、優しいアンジェリカが大好きです」

「えへへ、そうかなぁ」

「アカリ様、ご歓談中に申し訳ございませんが、ご報告いたします。居合わせた者たちから聴取した結果、アカリ様のお話し通りの証言が取れましたので、あの司祭は不敬罪確定。詐欺的な言動もありましたので、そちらも調査します」

「そう、ありがとう。ご苦労様」

「お疲れさまでしたわ」

「お仕事、お疲れさまー」

「とんでもございません。こちらこそお引止めしてしまい、申し訳ございませんでした」

「あら。忠実に職務を遂行されたのですから、謝罪などしてはいけませんわ」

「ありがとうございます」

「ただ一つ気になったのですが、あの司祭はなぜ教会ではなく食堂などであのような事をしたのかしら?」

「…申し訳ありませんが、まだそこまでは分かっていません。あの司祭は一か月ほど前に赴任して来たのですが、天使様ご降臨に湧くここの教会で毎日のように教会建て替えの喜捨を募っているとの報告がありまして…。最近では住民があの司祭を嫌って、教会から足が遠のいていました」

「ああ、それでか。住民からの喜捨では思ったほどのお金が集まらず、教会に足を運ぶ人が減り続けたことに焦りを感じたのね。そこで貴族や裕福な商人相手にここの教会が聖地として認定されるから建て替えの費用を求めていると吹聴し、大口の喜捨と他地域への情報拡散を狙ったってとこか」

「…尋問で確認しておきます」

「アホだよねぇ。もし天使様が教会にご降臨なさったりしたら、その場所は可能な限り保存するのが当然じゃない。その場所を壊しちゃう建て替えなんてもってのほかなんだから、建て替えにかこつけて喜捨金くすねるつもりだったんじゃない」

「あ、確かに」

「もし大口の喜捨金が集まったら、喜捨金に受取証など出しませんから、掠め取っても分かりませんわね」

「ま、あとの捜査は兵士さんたちにお任せするよ」

「はっ! 了解であります。ご協力、ありがとうございました」

「そうですわね。ではアンジェリカ、お姉様、参りましょうか」

「「はーい」」


元々買い物しすぎて予定が遅れてたのに、アホ司祭のせいでさらに時間を食ってしまった。

そろそろマルシェに行って食材買わないと、夕食が遅くなるな。


なにせお料理覚え始めたばかりの二人がいるから、下拵えも怪我しないようにゆっくりだし、説明しながらだと調理にも時間が掛かるんだよね。


よし、マルシェで食材買い漁るぞ。

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