そそそ、そんなぁ……
買い物を済ませて自宅に戻り、分体のままアンジェリカをお膝抱っこして愛でまくってしまった。
「姉様、私は抱っこされるのうれしいけど、どうかしたの?」
「アンジェリカが町の人たちと仲良くなってて、うれしくて泣きそうなのよ」
「姉様たちが教えてくれたんだよ。町は楽しいところなんだって。私、姉様たちが領都に行っちゃってから、寂しくて我慢出来なかったの。だけど私はエルヴィーノのお姉さんだから、いっぱいお世話してあげたかったし母様のお手伝いもしたかったから領都には行けないの。だからせめて姉様たちと一緒に行ったお店にまた行きたくて、お屋敷の人にお願いして一緒に行ってもらったの。そしたらね、お店の人が『買い物に来てくれてありがとう』って頭を撫でてくれたんだよ。私、アカリ姉様が頭を撫でてくれたことを思い出して、なんだかうれしくなっちゃって。あちこちのお店の人たちがみんな優しくしてくれるから、お外は姉様たちがいなくても楽しいところなんだって分かったの」
「…アンジェリカは、以前は知らない人やお外が怖かったでしょ?」
「……うん」
「私はアンジェリカにお外の楽しさを知ってほしかった。だけど怖いって気持ちはすぐには無くならないから、何度もお外に連れ出して慣れてもらおうと思ってたの。でもお仕事で領都に行くことになっちゃって、それができなくなった。だからアンジェリカがまたお外を怖がってるんじゃないかって、すごく不安だったの。だけど今日一緒にお買い物して、アンジェリカはひとりの時も頑張ってたんだって分かったから、私はうれしくて仕方ないんだよ」
「…前はね、お屋敷で働いてる人もちょっと怖かったの。だけどアカリ姉様に魔法を教えてもらってお手伝いできるようになったら、みんなすごくうれしそうにいっぱい褒めてくれるの。だから怖い人たちじゃないんだって分かって、安心できたんだよ。お外も、人形遊びでいろんなお店があるって知って、見てみたくなった。姉様たちと一緒なら怖くないからって出て見たら、ものすごく楽しかったの。それに、チンピラさんも出て来たけど、盾魔法と呼び笛あったら大丈夫だって分かったの」
「…どうしようマーガレーテ。アンジェリカが可愛すぎて辛い」
「全くの同意見ですが、それはお姉様もでしてよ」
「え、私?」
「姉様の本体、すごく可愛いよ?」
「あー、うん、ありがとう。でも、本体だとアンジェリカを抱っこできないんだよなぁ…」
「わたくしが二人とも抱っこしますから、お姉様は本体に戻ってくださいまし」
「え、何その解決方法。全然解決になってないんだけど?」
「先ほどからお姉様はアンジェリカを独り占めしているではないですか! わたくしだって、抱っこしたいのです!!」
「あ、ごめんなさい。じゃあ本体に戻るよ」
「では、失礼して」
「え、何で私? 今の話の流れだと、アンジェリカを抱っこするんじゃないの?」
「順番です」
「いいなぁマギー姉様。私はアカリ姉様を抱っこできないの」
「大丈夫。五年もすれば抱っこできるようになりますよ」
「あ、そうか! アカリ姉様は精霊様だから、このままなんだ!!」
「いや、アンジェリカ。私だって五年も経てば、さすがに少しは成長するから」
「ええー!? アカリ姉様成長しちゃうの?」
「精霊も成長するからね。私だって、いつかは分体みたいなお姉さんになりたいんだよ」
「本当に成長してしまうのですか?」
「フィリーネだって百五十年くらいで人間の十年分くらいは成長したんだよ。私だって……あれ? 私って、三年近く精霊樹の果実食べてる。成長…するのか?」
「お姉様、精霊様は、本当に成長するのですか?」
「……やばいかも。精霊になりかけなら成長するけど、私ってばすでに完全に精霊化しちゃってる。精霊って、神力蓄えて巨大化はするけど、寿命は永遠だから老化や成長はしないんじゃ……」
「お姉様、成長している自覚はございますの?」
「……」
「私、大人のアカリ姉様も大好きだけど、子どもの姉様はもっと好きだよ」
「……ちょ、ちょっとだけ待って。精霊の仲間に念話させて」
「はい、お待ちしてますわ」
【ジョセさーん! 今、念話できる?】
【あら、アカリ。大丈夫よ。また薬でも必要なの?】
【いや、ちょっと聞きたくて。私って療養中に初級精霊になっちゃったけど、ひょっとしてもう身体は成長しない?】
【今更何言ってるの。完全に精霊化して、身体が成長するわけないじゃない】
【そんな!? …私、このままなの?】
【おそらくね。アカリは水の大精霊が神力と魔力を込めた水を二年近くも飲み続けたのよ。多分細胞が濃い神気に慣れすぎて、現状で神気圧縮状態のはずよ。だからもう、巨大化もしないんじゃないかしら】
【そんな~】
【あなた、だからあの分体を作ったんじゃないの?】
【それは……。遅いだけで成長はすると思ってたの】
【精霊化した後も本体が成長するのは樹木の精霊だけよ。動物が成長するのは、精霊化の途中までって教えたじゃない】
【なんてこった…】
【今更気付くなんて…。困った子ね】
【あう…。ありがと。教えてもらってたのに、自分の事と結び付いてなかったよ】
【大丈夫?】
【…まあ、なんとか】
【そう。あまり落ち込まないようにね】
【うん、分かった。前にも連絡したけど、もう少ししたら帰るね】
【ええ、待ってるわ】
【うん、それじゃあね】
「お姉様、先ほどの表情は…」
「うん、自分で気付いてなかっただけ。私ってば、もう本体は成長しないみたい」
「…私は姉様が子のままだったらうれしいけど、姉様は悲しいの?」
「いや、多分びっくりしてるだけ。精霊化途中に遅くはなるけど成長はするって聞いてて、その時のイメージのままだったみたい。完全精霊化後の話もちゃんと教えられてたのに、自分もそうだって気付いてなかったんだよ」
「姉様は、いつでも大人になれるのに?」
「あー、うん。分体は作り物だから、本体もそうなりたかったの」
「大人の姉様も、ちゃんと姉様だよ」
「そうですわ。大人のお姉様は、人としての部分を強く感じます」
「あ、そうか。大人のアカリ姉様は人だけど、子どもの姉様は精霊様って感じがする」
「そうなんだ…。二人にとっては、分体は人としての私か。なんだか二人に教えられた気がするよ。分体はただの作りものじゃなくて、人としての私なんだ。うん、納得した」
「大人のお姉様はわたくしの憧れですけど、今のお姉様はアンジェリカと同じで愛でられるお姉様ですわ」
「子どものアカリ姉様は、私と同じなの?」
「そうですわ。可愛すぎて、抱きしめたくなりますの」
「えー、アカリ姉様の方が可愛いよ」
「それは無い! アンジェリカの方が可愛いから!」
「わたくしにとっては、二人とも可愛らしすぎです!!」
「「そうかなぁ」」
「自覚の無いところまでそっくりではないですか! 二人そろって首を傾げないでくださいまし! わたくしの理性が崩壊しそうですわ!!」
「わきゃ!」
マーガレーテが私を抱っこしたままソファーのアンジェリカも抱っこしようとして、三人が密着体勢に。うむ、これはありだな。
しばらくソファーの上でじゃれ合ってて、お昼の支度が遅れてしまった。
でもまあいいか、すごく幸せだから。
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