遭難してるよね? 動くしかないか

理由はさっぱり分からないけど、現状は森の中で迷子の幼女。

どう見ても遭難状態です。


元の状態に戻れるなら……いや、それは現状より良くないかも。

あの衝撃と痛みは、どう考えても大怪我確定。

瀕死状態に戻るより、今の方が健康なだけましか?


そうなると現状遭難状態だから、魔法使えたとか喜んでる場合じゃなくて、さっさと行動方針決めなきゃヤバいぞ。


普通は遭難したら、その場を動かないのがセオリー。

だけどそれは、救助が来ることが大前提。

この状況で、救助って望めるの?


あたりはぐるっと三百六十度、木、木、木。

しかもみんな巨木だし鬱蒼とした森で、視界は50mくらいしか通らない。

上方向も樹高の違う木々の葉が重なり、空なんて視認できない。

足元のコケに足跡付いてるんだけど、私がさっき動いた分の足跡だけ。


……テレポート? ワープ?


さっき魔法なんて使えちゃったんだから、そんな不思議現象もありなのか?

ただ、魔法知識の中に転移魔法は無いみたいだけど。


……さらなる悲報っ!

音に集中してみたら、鳥らしき鳴き声に混じって、なんか野獣の遠吠えっぽいのがかすかに聞こえた! 猛獣とかいるの!?

猛獣がいるとしたら、地表より木の上の方が安全か?

ライオンやヒョウ、熊なんかは木に登れたはずだけど、発見されない可能性を信じて木に登るか?


高く登れたら、もう少し周囲の状況も分かるかも。

幼女ボディだけど魔法知識に身体強化なんてのもあるから、登れそうな木を探してなんとか登ってみよう。


……歩くのすら身体強化が要った。

地面は平らな部分がほとんど無く、アップダウン激しい上に埋まった岩もあちこちにある。

そしてこれでもかと、埋まった木の根の出っ張りだらけ。

しかもみんなコケに覆われてるから、気を抜けばコケる(駄洒落じゃないよ!)。

幼女ボティにこの環境はきつすぎる!


身体強化しつつ根性で周辺を探索した結果分かったことは、この森の植生がおかしいってこと。


縄文杉みたいなゴツゴツしたぶっとい幹の木があるかと思えば、ジャイアントセコイアみたいな超大木もある。

なのにあちこちにヤシやでっかいシダ類も生え、ジャングルみたいな様相。

バナナとリンゴが隣り合って生ってるし、ドリアンとブドウも並んで実ってた。

バラとヒマワリも一緒に咲いてるし。


しかも見たことない数々のへんてこな形状の植物やキノコ。

まるで植物の見本市みたいな森。

みんなでかくて、キノコなんて私が座れそうなサイズ。



そして見つけたバオバブっぽい木。

これまたでかい。

幹の直径は多分20m超えてそうだし、高さも100m近くありそう。


気温は、多分体感的に25℃前後。

なのに寒地植物や熱帯植物、乾燥地の植物まである。

ほんと植生無茶苦茶やん。


まあいいや。

魔法なんてものがある世界なんだから、ここはこういうファンタジーな異世界だと思おう。

きっと何でもありで、地球の常識なんて通用しないんだ。


このバオバブっぽい木、上が避難場所にできるかもだから、とりあえず登ってみよう。

なんか直径5cmくらいのツル(ほんとにツルか?)が枝からぶら下がってるから、頑張れば何とか登れる…はず。


………

……


私、頑張った。

身体強化使って何とか木の上まで登ったよ。

すげー疲れたけど。


木の頂上部はウネウネデコボコしているものの、何とか立って歩ける。

幹が太いから、一軒家くらい建ちそうな広さ。

しかも周りぐるっと放射状に枝が伸びてて葉も茂ってるから、下からは見えなさそうだ。


それに幹には枝や手がかりも無くてつるつるだから、登って来れるのはツルを登れるサルか人間くらいじゃないか?


うん、昇り降り大変だけど、一時避難場所として使えるな。


で、肝心の視界なんだけどさぁ……。


森、大木、森、森、大木、大木、森、大木……。

森と大木しか見えん!

しかも大木率高めだから、遠くまでは視界が通らない。

でもまあ、あたりぐるっと森っぽいのは分かったよ。トホホ。


…人工物なんも見えんし、空がうっすらオレンジ色になって来てる。

野獣がいそうな夜の森をさ迷うなんて、絶対無理。

よし、今日の頑張りはここまでにして、ここで野宿しよう。

頭上にもある程度葉が茂ってるから、夜露も避けられそうだし。


そうと決まったら、まずは夕食。

今日の夕食は、メロンサイズ…いや、もうスイカサイズに近いリンゴ(?)一個。でけえよ。


あちこち探索してる途中で見つけ、その辺に生えてたツタっぽい植物でリンゴ(らしきもの)をぐるぐる巻きにして、身体にたすき掛けにして何とか持ってきました。

かなり重かったけど、食料と水分は確保したかったんだ。


探索途中、地面に落ちてた中で、きれいそうなのを拾って匂いを嗅いだら、ちゃんとリンゴっぽかったよ。

見た目はおいしそうな赤リンゴ…直径20cm以上あるけど。


え? 落ちてるのじゃなくて木に生ってるのを魔法で落とせ?

やったよ! やってみてダメだったんだよ!!


エアカッター?

そんなのただの風だったよ!


ウォーターカッター?

1mも行かないうちに、水撒いただけみたいになったよ!


ストーンブリット?

小石しか生成できなかったし、全然当たんなかったよ!


念動?

ピクリとも動かんかったわ!


身体強化でジャンプ?

1mくらいしか飛び上がれないし、そもそも木がでかすぎて、果実生ってる場所が遥か上だよ!


どうやら魔法には発現可能領域みたいなのがあるようで、私の周り1m弱しか発現してくれなかった。

しかも自分から離れるほど魔力? 喰うみたいで、力抜けそうになる。

さらに、私から離れると制御も難しくなって、思った通りの魔法にならないし。


そんなわけで、落ちてるリンゴ拾ってきました。


拾った時に爪で表面傷付けて果汁を舐めてみたら、すごく甘くておいしかったよ。

蜜入リンゴよりおいしかったから、ちょっと果汁吸っちゃった。

だけど毒とか怖かったので果汁ちょっとで我慢したけど、今も身体に異常が出てないから食べられる気がする。

でもまだちょっと怖いから、食べるの少しだけにしておこう。


魔法で生成したお水でリンゴの表面を洗い、服でごしごし。

でかいから小さな口では齧りにくかったけど、何とか齧ってみたらめっちゃ甘かった。


なにこれ? 高級蜜リンゴ? いや、そんなレベルじゃないぞ。超うめー!!


あまりの美味しさに、気付いたら1/4くらい食べちゃってた。ケプ。

これ、毒とかあったらヤバいかも。


……まあいいや。すごく美味しかったから、毒は無いことにしよう。

お腹がいっぱいになって眠くなり、だんだん思考するのが面倒になって来たんだよ。


ちょうど今の私サイズな窪みを見つけたので、猫みたいに丸まったら寝てしまった。

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