規格外すぎて認知されなかった元底辺配信者、超人気配信者を助けたらバズり過ぎて、話題の人になってしまう
一本橋
第1話 アルバイト帰り
バァァン!
放課後のアルバイト帰り。凄まじい音と共に、空から無数の赤黒い塊が降り注ぐ。
「い、いやああああああ!」
近くに落ちたそれを目にすると、女性は途端にぎょっとしたような悲鳴を上げた。これを皮切りに、周囲から次々と
好奇心に追われて無意識に視界に入れるが、すぐに後悔することになる。
…………人?
「──っ!!」
理解すると同時に悪感が襲い、とっさに目をそらす。
なぜならそこには、臓物を撒き散らして上半身だけになった死体があったのだ。周りではあまりのショックに腰を抜かす人や、嘔吐する人が所々目立っている。
身なりからして恐らくは探索者と呼ばれる、ダンジョンで探索を生業とする人達で間違いないだろう。
しかし、ここは地上。ダンジョンではない。
──が、すぐ目の前には地上とダンジョンを繋ぐ入り口がある。考えたくはないが、何らかの魔物によってここまで飛ばされてきたとするのが妥当だろう。
それを裏付けるかのように、ゲートと呼ばれる扉が破壊されており、その先には暗闇が広がっていた。
「な、なあ! 何かヤバくないか?」
異変に気付いた中年のおじさんが喚きたてる。
そして、咆哮が町中を響き渡る。
「グオオォォォォ!」
窓や標識などが小刻みに揺れる。
不穏な空気に包まれ人々は固唾を呑み、声の方をただひたすら見守った。
現れたのは探索者らと思われる人影で人々は安堵する──のだが、それもつかの間。
彼らの背後には無数の魔物が迫っていた。
「は、氾濫だ! 魔物がくるぞ!!」
先頭を走る探索者が開口一番にそう叫んだ。
「ひいいいいい!」
「うわああああああ!」
「嫌ァァァァ!」
たちまち混乱が広がり、辺りは逃げ惑う人々でごった返す。
そして、その中には一際大きい魔物が見える。黒く輝く鱗に覆われ、爬虫類を連想させる体に鋭い爪と牙。
ダンジョン下層のボスにして、いままで多くの探索者を屠ってきた存在。
──黒龍!
普段は自分の縄張りである階層から出ることのないダンジョンボス。それは黒龍も同じ。
しかし、現実に今こうして僕は黒龍と対峙している。確かなのは、黒龍が魔物を率いて氾濫を起こしたという事。
次々と人々が魔物に襲われていき、虐殺が始まる。地上では
一方の黒龍は、被害の拡大を恐れてか迎撃を試みる探索者らにより、絶え間ない攻撃を受けていた。
しかし、効果は今一つのようでかすり傷すら負わせられずにいる。それに加え、道中で魔力の殆どを使い果たしているか、大規模な魔法による攻撃が行われる気配が一切ない。
これでは全滅するのも時間の問題。
一応、僕も探索者の端くれ。せめて武器さえ持っていれば戦いに参加出来たというのに。見ているだけというのは何とももどかしい気持ちにさせる。
カッ!
黒龍が大きく開けると、口の中がギラギラと強烈に輝き出す。これは炎の息吹きを吐く為の予備動作。
「た、退避ぃぃぃぃ!」
探索者らが慌てて背を向け、逃げ出すが時既に遅し。黒龍は「ゴォォォォォ」という音と共に勢いよく息吹きを吐き出した。
「い、いやだ! 死にたくない死にたくない!!」
必死の逃走も虚しく背後から迫りくる炎に追い付かれ、たちまち灼熱に晒され全身を包み込まれていく。
「あぎゃあああああ!!」
「ひぎゃああ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「ぎゃあああ!」
探索者らの全身を焼かれる悲痛な叫びは、まさに地獄絵図そのものだった。彼らだったものは原型を留めるどころか、塵一つ残さなかった。
かろうじて難を逃れた探索者らは、今ので完全に戦意を喪失してしまい、その場に立ち尽くしていた。
ギロリッ。
「ひっ…………」
黒龍の殺気に当てられた紫髪の少女は、手の力が抜けて剣を落とす。それと同時に耐え難い恐怖で足が強張り、思うように動けなくなってしまう。
:こっちみてるって
:逃げて!
:頼むから誰か助けてやってくれ!
:ヤバいヤバいヤバい
:死なないで!
;逃げろって!!
ふと、視界の隅に探索者が残したてあろう剣があることに気付く。
これなら倒すことは出来なくとも、あの人を助けるくらいは──!
そう思った頃には既に剣を握っており、黒龍の方へと走り出していた。
黒龍との間には大勢の魔物が
ここは多少強引にでも正面突破するしかないと判断し、絶えずに襲いかかる攻撃の中を掻い潜る。
もう目の前で人が殺されるのは見たくない。
それに、これは決して無謀な戦いという訳でもない。次の息吹きまでは約五分のクールタイムが存在するはず。その間は尻尾と牙による近接攻撃のみ。
黒龍に一撃食らわせて、怯んだ隙にあの人を連れて逃げる!
ただ問題は、その一撃にこの剣が耐えてくれるかどうか。そればっかりは神頼みだ。
少女は後退りをしようと足を動かすが、すくんでバランスを崩してしまい、地面に尻を打ち付ける。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」
堪えていた涙を流して必死に命乞いをする少女だったが、黒龍の尾が迫ると死を悟ったのか、無念そうに顔を歪ませて瞳を閉じた。
間に合え──!
瞬時に筋肉を限界まで駆使して足へ溜め込み、大きく踏み込む──。
アスファルトを抉り、風を切り裂く速さで少女の前に躍り出た。
即座にありったけの力を剣へ注ぎ込み、黒龍の尾目掛けて振り下ろす──。
バキッ!
黒い鱗に亀裂が入った瞬間、分厚い肉を刃が断ち切る。
「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
黒龍の悲痛な叫びが鳴り響く。
それと同時にパキンと音を立てて刃が粉々に砕けた。
「え? あれ、私生きてる?」
:え?
:!?!?!?!?!?
:ん?
:何が起こったん?
:はああああああ!?
:斬った!!?
:!!!!!
:助かったのか?
「失礼します」
「え? ええっ!?」
状況が飲み込めずに呆然としている少女を抱え、急いでその場から離れる。
「グオオォォォォ!!!!!」
チラッと振り向くと、黒龍は憎悪のこもった眼で睨みながら口を大きく開けていた。
光を輝かせるや否や、間髪を入れずに息吹きを吐き出す。
正面には立ちはだかる大勢の魔物。背後には塵すら残さない炎。
進んでも地獄。引いても地獄。
「ひいっ!」
情けない声を漏らした少女を余所に、僕は迷わずに突き進む。
「ギギャー!」
「ガギャア゛ア゛ア゛!!」
当然、魔物達が黙って通してくれるはずもなく、容赦ない攻撃が休む間もなく降りかかる。
ビュン!
身を屈めると、すぐ頭上を刃が掠めた。
それに続けて豚頭が棍棒を勢いよく振りかざし、これを横に飛び避ける。
「ギギャア゛!?」
棍棒が力強くアスファルトに叩き付けられると、その場にいた小鬼が巻き添えを食らって潰された。
これを好機と捕らえ、棍棒へ飛び乗って豚頭の頭に登ると共に、そこを踏み台にして空高く天を翔て包囲を抜ける。
:えええ!?
:何だこの美少女!??
:すげー避けるじゃん!
:!!!!!
:つーか、さっきのヤバくね?
:うおおおおおお!!
:同接10万いったぞw
:神回不可避
:よくやった!
「いやああああああ!!」
あまりの高さからか、すぐ近くで少女に叫ばれてしまい耳が痛い。
無事に着地し、後ろを振り返る。
黒龍は意外なことにも深追いをせず、踵を返してダンジョンへと戻っていくようだ。魔物もそれに続いてぞくぞくと引いていき、こうしてダンジョン氾濫はひとまず落ち着いた。
ホッと一安心し、お姫様抱っこしていた少女を下ろそうとする。
──が、何故だか首を力強く抱き締められており、中々離れてくれない。体勢が体勢ということもあり、少女の豊満で柔らかな胸がギュウウと僕に押し付けられている。
僕だってこれでも一応、思春期の男の子だ。変に意識してしまわないよう、気持ちを押さえつける。
「あ、あのー。離してくれませんか?」
「あっ! す、すいません! 怖かったので、つい……」
ボッと赤面すると、少女は慌てて僕を解放してくれた。
今まで気にしなかったが、改めて見ると綺麗な艶のある紫髪に整った顔立ち。出るところは出て、絞まるところはきちんと絞まっている抜群なスタイル。
それに、女の子特有の甘くて良い匂いがしてくる。
モデルさんや、アイドルをやっていますと言われても納得してしまう美貌の持ち主だ。
そういえば、さっきから少女の周りを漂ってるドローン。これって、確かダンジョン配信専用のめちゃくちゃ高いやつじゃなかったっけ?
だとしたらこの人も配信者なのかな?
かくゆう僕も、前に配信をしていた事があったけど、その時はビデオカメラで取ってたっけ。だから、手ぶれも酷かったしめっちゃ画質悪かったんだよね……。
「あ、あのぉー」
ジーっと見入っていると、少女が照れ臭そうに頬を掻いた。
「あっ、ごめんなさい!」
無意識とはいえ、失礼なことをしてしまった自分を心の中で叱る。
……にしても、この人。どっかで見たことがあるような──?
うーん、思い出せないな……どこかで見たことがあるはずなんだけど。まっ、そのうち思い出すでしょ。
ふと、スマホが振動していることに気付き、慌てて見ると母や妹から不在着信の通知がズラッと並んでいた。
──って、やばっ! これって、たぶんどころか絶対心配してるよね……。
「あの、先程はありがとうございました!」
少女が律儀に深々と頭を下げて、感謝の意を表してくる。
「いえ、当たり前の事をしただけです。怪我とかは大丈夫ですか?」
「は、はい! おかげさまで」
「それは良かったです。それじゃ、僕はこれで」
「あっ、待って!」
待たせている家族のために、足早にその場を後にする。途中、何か聞こえた気がしたが、気のせいだろうということでそのまま帰った。
「行っちゃった……」
一人取り残され、少女はポツリと呟いた。
規格外すぎて認知されなかった元底辺配信者、超人気配信者を助けたらバズり過ぎて、話題の人になってしまう 一本橋 @ipponmatu
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