第2話 保健室
(2人の靴音が聞こえる。ガチャっと鍵を開ける音がしてガラガラガラとドアが開いた)
「さあ、保健室のベッドでね・て?」
「なぁにを慌ててるのかなぁ? 疲れてるんでしょ? 体を休めるにはやっぱりベッドが1番じゃない?」
「んもうっ、そんなに両手をブンブン振って、慌てなくても大丈夫」
「生徒会長の私が、疲れた体癒してあげるから」
「そんなにやだぁ? でも、嫌がってるふうには見えないけどなぁ、顔、耳まで真っ赤になってるよぉ」
「もう、こうなったら、えいっ!」
体を押されてベッドになだれ込む。ベッドのシーツが擦れる音が聞こえる。
「ねぇ、知ってる? ふくらはぎは『第二の心臓』なんだって。疲れたりするとここがむくんだりするんだよ」
足をマッサージする音。バタバタと足がベッドの上で暴れる。
「なぁに? くすぐったいの? ……違くて? ……痛くすぐったい? ああ、けっこうお疲れだね~」
「じゃあ、これはどうかな?」
さらに足の動きが激しくなる。
「ふふふ。そぉんなに効くんだ、ここ。我慢してる君の顔もかわいいねぇ。足は激しいけど声は出さないように我慢してるのかなぁ?」
「文化祭は体力仕事のところもあったから、あちこち教室に行って足もくたくただねぇ。よぉし、次は反対のふくらはぎだよぉ」
足の動きがさらに激しくなる。
「うわっ、こっちの方が疲れてるみたい。あっははは、我慢しないでいいってば」
「……それにしてもさ。君って見かけによらず足の筋肉しっかりしてるんだね。けっこう硬いし、触ってて気持ちいいかも」
「君さえよければ毎日マッサージしてあげようか? この感触、癖になりそう」
「さぁて、次は胸のマッサージだよぉ。ここをしっかり押すことでリンパが流れやすくなって老廃物が出しやすくなるんだって」
「なぁに、腕を胸の前において〜。恥ずかしがってないで。ほら、いくよっ」
ぐっぐっと胸筋が押される。
「ここも効くの? 疲れすぎて体が敏感になってるのかなぁ? ちょっと、手で顔隠してないで見せてよぉ」
「そうそう。ただマッサージしてるだけなんだから。そんなに恥ずかしがるってことは、何か別のこと考えてるんじゃない?」
「ふふ。冗談だよぉ。そんなにビクビクしないで」
「よぉし、後は肩と首周りと頭だね。そっちに周るからちょっと待ってて〜」
生徒会長がベッドの上を移動する。シーツが擦れる音がして、声が一気に近くなる。
「はいっ。なにって、膝枕だよ」
「……『遠慮します!』じゃなくて、膝に頭乗せないと上手くマッサージできないでしょ? ほら、は・や・く!」
またシーツが擦れる音。体を少し上に持っていく。
「そう、偉いね。じゃあ、まず肩ね。あちゃ〜肩もけっこうガチガチだねぇ。しっかりほぐしていかないと」
「肩はね。やっぱり、緊張したりすると硬くなるよね」
「うんうん、緊張した? 全校放送でアナウンスもしてたもんね。体育館のステージの司会もしてたし。よしよし、お疲れ様だねぇ、本当に」
「顔が緩んでるよぉ。少しでもリラックスしてきたのかなぁ? じゃあ、ここ、鎖骨の下のとこ」
また足でジタバタする。
「あっはは、痛いんだ! いいよ~痛がるってことは効いてるってことだから! ここもね、リンパの流れを良くするのに大事なとこ、ぐりぐりいっちゃうよ~」
「効く? 効くねぇ。痛いけど我慢して〜終わったら絶対気持ちよくなってるから」
「よぉし、どお? すっきりしたでしょ。そしたら後は頭の付け根と頭、最後に耳をやっちゃうよ~」
髪を触る音、頭がゴリゴリする音が聞こえる。
「すっごい硬いね! 全身の血流が良くないぞ〜普段からちゃんと運動してる? してない? じゃあ、このあと一緒に夜の運動しちゃおうか?」
「ふふふ。『どんな運動ですか?』って、普通の運動だよ。体育館に移動してさ〜」
「……さて、耳だね。ここは痛くないから安心してね。眠くなったら寝ちゃってもゼンゼン大丈夫だよぉ」
「ところで私の国にさぁ、スウェディッシュマッサージってのがあるんだけど知ってるかな?」
「……知らないよね~。少しオイルを使ったマッサージなんだけど、運動した後に体を整えるのにはちょうどいいんだ〜私も向こうにいたときにはよくやってもらってたけど」
耳元に顔が近づき、囁かれる。
「君にやったらちょっとエッチかもねぇ。ほら、保健室で──2人きりで──オイルを体に塗って……なんて、血流少しは良くなったかなぁ?」
耳元から顔が離れる。
「耳はね。全身の血の巡りを良くするにもいいんだよぉ」
「よし、疲れが取れたところで体育館へGO!」
次回、体育館編!
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