第2話 期待と失望
●マンタローの自信
翌日、お急ぎ便で自称IQ180超えの
天才薬学博士『グレーゾーン・灰谷』がネットで販売する
怪しい魔法の秘薬『タイジュウカルクナールαβγ』1カ月分(30錠)が
マンタローの自宅アパートに贈られてきます。
「ひひひひっっ!!やったぜ!!
おおっっ!!立派なパッケージじゃねえか!?
流石グレイゾン博士!!いや、グレーゾーン・灰谷博士か……」
「まっ、そんなことはどうだっていい!!
これを毎日1錠づつ飲んでいけば、
100㎏超になってしまったオレの体重がガンガン減って、
1ヵ月後には70㎏弱のスリムバディが手に入るんだ!!」
「さっそく1錠飲んでやる!!水といっしょにゴクンってやつなんだろ!?
よし、ゴクンッッ!!おおっっ!!
なんだか全身が活性化したような気がするぜ!!」
マンタローは天にも舞い上がった気分で、
鼻歌を歌いながら笑い転げます。
「うひひっ!!これで痩せられるんだ!!
魔法の秘薬『タイジュウカルクナールαβγ』さえあれば!!」
「でも、本当に大丈夫なんだよな!? 副作用とかないんだよな!?」
マンタローは不安になりましたが、すぐに気を取り直すことにします。
「まっ、いっか!!副作用なんて無いに決まってらぁ!!」
そして翌日……出社前にマンタローは体重計に乗ってみました。
「99.8㎏か……まあまあだな!!
このペースなら明日は98㎏か!!いや、95㎏だな!!」
「フッフッフッ……この魔法の秘薬を迷うことなく選んだ
慧眼の持ち主である、このオレはやっぱ天才なんだよ!!」
「『タイジュウカルクナールαβγ』を1ヵ月飲み続ければ、
100kg超の冴えないこのオレもスリムナイスガイになるんだ!!」
マンタローは上機嫌で出社しました。
「おはようございます!!」
「おお、マンタロー!!どうしたんだ!?
今日は妙に上機嫌じゃないか?」
「はい!!実は、今朝体重計に乗ってみたら、
99.8kgだったんですよ!!」
すると、ヤマダ課長が大笑いしました。
「ワッハッハッハッハ……それは良かったじゃないか!!
でもな、マンタロー。そう簡単には痩せられないぞ!!」
「フフフ……何をおっしゃいますやら!?
ヤマダ課長!?オレは生まれ変わったんですよ!!」
「そう、1カ月後には70㎏弱のスリムナイスガイが、
ヤマダ課長の瞳に映っているんです!!」
「だから、ヤマダ課長!!1カ月後のオレが
スリムナイスガイであることに、もう疑いの余地はないんです!!」
すると今度はハナちゃんもケラケラと笑います。
「ウフフフ……マンタローさんったら、 大げさなんだから……
ところでその自信の根拠は何かしら?」
「それは、これです!!」
マンタローはスマホで『タイジュウカルクナールαβγ』の
販促ページを表示しました。
「なになに……『タイジュウカルクナールαβγ』を1ヵ月間服用すれば、
100kgの肥満体だった人が30日で70㎏以下に!!」
「300kg超の絶望的肥満体でも6ヵ月服用を続ければ、
60kgまで痩せてスリムなナイスガイに!!」
「この魔法の秘薬『タイジュウカルクナールαβγ』は副作用も一切ナッシング!!
さあみんな、買った!!買った!!買った!!
今なら1カ月分が半額の¥298,000と超お得だよっっ!!」
販促ページを目の当たりにしたヤマダ課長もハナちゃんも
懐疑的な表情になりました。
「マンタロー……オマエ……それは一体、何の広告だ!?」
「えっ?ヤマダ課長もご存じないんですか!?
IQ180超えの天才薬学者グレーゾーン・灰谷博士が開発した
魔法の秘薬ですよ!!」
「『タイジュウカルクナールαβγ』は1ヵ月間服用すれば、
100kg超の肥満体が30日で70kg以下に!!」
「300kg超の絶望的肥満体が6ヵ月間服用を続ければ、
60kgまでスリムに痩せるんですよ!!」
「マンタローさん……それは流石に荒唐無稽ね!!」
「そうだぞ!?マンタロー!!
そんな魔法の秘薬なんて、存在するわけがないだろう!?」
「ハハハハッ!!
2人とも、イモムシが蝶に変貌するが如く、
スリムナイスガイへと進化を遂げる
このマンタローをこの1ヵ月間、とくとご覧あれ!!」
「きっと、このオレの余りの変貌ぶりに腰をぬかすことでしょう!!
フヒャハハハハァァ~~~~ッッ!!」
「う~ん……このマンタローの変貌ぶりは異常だな……」とヤマダ課長。
「ええ……そうね……まるで別人みたい……」とハナちゃん。
●魔法の秘薬『タイジュウカルクナールαβγ』
2人の心配をよそに、マンタローは毎日ウキウキ気分で出社していきました。
そして、2週間があっという間に過ぎ去りました。
「おかしい……オレの体重が増えている……
確かに、コンビニスイーツは止められない……
だが『タイジュウカルクナールαβγ』はキッチリ続けている……」
「101㎏……101㎏……101㎏……そうか!!
『タイジュウカルクナールαβγ』の効果が顕著に表れるのは
3週間後ということなんだな!?」
「なるほど、そういう事だったとは……
IQ180超えの天才薬学博士グレーゾーン・灰谷が
開発した魔法の秘薬だからな!!」
「まあ、確かに2週間では瘦せないよな。
マンタロー、安心しな!!『タイジュウカルクナールαβγ』は3週間目から
効果が顕著に表れるってことなんだろう!!」
「ああ~~そうか……オレは勘違いしてたのか……
ヒヒヒヒヒッッ!!ちょっと気落ちしたから、憂さ晴らしに
コンビニスイーツ10,000円分を胃袋に流し込んで仕切り直しだぜ!!」
そして……3週間が過ぎ、
マンタローの体重は102㎏に増量していました。
「102kg!!まだ効果が無いだけだ!!
そうだ!!まだ服用してたったの21日だ!!
きっと効果が表れるのは25日後ってことなんだよ!!」
「このオレがスリムで健康的なナイスガイになれる日も近い!!
フフ……やはりこのマンタローさまは天下無双だぜ……」
「ウッシッシィィ~~ッッ!!『タイジュウカルクナールαβγ』さえあれば、
100kg超のデブからスリムナイスガイに転身できるってんだぁぁ~~っっ!!
参ったかこのヤロ~~ッッ!!」
ついに『タイジュウカルクナールαβγ』を服用しつづけて1ヵ月。
マンタローは絶望のどん底に叩き落とされます。
「ひゃ、103㎏だとぉぉ!?30㎏の減量どころか3㎏の増量だとぉぉ!?
アウアウアウアウッッ!!このマンタローの体重が103kgだとぉぉ!?」
「な、なんでなんだぁぁ~~っっ!?どうしてなんだぁぁ~~っっ!!
オレは『タイジュウカルクナールαβγ』を1ヵ月飲み続けたんだぞぉぉ!!」
●マンタローの発狂
翌日出社したマンタローは心ここにあらずです。
ハナちゃんもヤマダ課長も、マンタローを心配して声をかけます。
「お、おはよう……マンタローさん……」
「おお、マンタロー!!ずいぶん顔色が悪そうだな?
それに心なしかさらに太ってしまったようだが……」
すると、マンタローは堰を切ったように叫びだします。
「どうしてなんだよぉぉ~~っっ!?
オレは魔法の秘薬『タイジュウカルクナールαβγ』を
1ヵ月飲み続けたんだぞぉぉ~~っっ!?」
「そっ、それはわかっているわ……」と、
ハナちゃんは気まずそうにマンタローを宥めます。
「おい、マンタローが痙攣しながら大絶叫しているぞ!!」と、
ヤマダ課長が慌てています。
そして、マンタロー無念の咆哮が㈱モブザコ企画の入った
バタービルディング一帯に響きわたります。
「ン゛ッ゛ン゛ッ゛ン゛ッ゛ン゛ッ゛!!
ン゛ッ゛ッ゛ボォ゛ォ゛ォ゛ォ゛~~~~ン゛ッ゛ッ゛!!」
「マンタロー、一体どうしたんだ!?」
「マッ……マンタローさん!?だ……大丈夫?
痙攣しながら駄々っ子みたいに絶叫しちゃって……」
「ングゥゥ~~~~ッッ……
だっ……大丈夫なワケあるかぁぁぁぁ~~っっ!!」
「なぜなんだぁ~~っっ?
どうしてオレはこんなに太っているんだぁぁ~~っ!?」
「それに『タイジュウカルクナールαβγ』を
1ヵ月飲み続けたのに ぃぃぃぃ~~~~っっ!?
どうして効果が無いんだよぉぉ~~っっ!?」
マンタロー悶絶痙攣発作を起こして救急車で病院に運ばれました。
「マンタローさん!?一体どうしちゃったのよ!?」
数日後、心配したハナちゃんがお見舞いに駆けつけてくれます。
「マンタローさん大丈夫!?
悶絶痙攣発作はおさまったかしら!?」
「うるさいっっ!!ハナちゃん!!
オレは天才だっっ!!そして、スリムナイスガイなんだぁぁ~~っっ!!」
マンタローは咄嗟に叫んでしまいました。
しかしすぐにハッとなり謝罪します。
「ああっ……スミマセン……」
そして、マンタローは再びベッドに横たわり天井を見つめます。
「……オレってやっぱ、ダメダメなポンコツ人間なんだなぁ……」
とボソリとつぶやきました。
「そうだ、マンタローさんの幼馴染で親友の
タナシンさんって方も来てくれたのよ!!」
「タナシンって……オレの親友で芸術家の?」とマンタロー。
すると、マンタローの旧知の親友『田中慎一郎(たなかしんいちろう:30歳)』こと
タナシンがマンタローとの久々の再開に、照れくさそうに近づいてきました。
●タナシンの登場
「マンタロー!!大丈夫!?相変わらずブクブク太っちゃってまぁ……
少しは痩せたらどうなの!?」
「ホラ、お見舞いにキミの大好物である
コンビニスイーツを30,000円分も買ってきてやったぜ!?
ま、芸術は核爆発だ!!ってなノリでついついね……」
「マンタローはティラミスが大好物だったよね!?
ホラホラ、遠慮なくさっさと食べちまいなよ!!
スイーツと言えども、賞味期限があるからね!!」
「食べにくいならボクがキミの喉に、
無理やりティラミスをねじ込んでやってもいいんだぜ!!」
すると、ハナちゃんも面白そうにマンタローの口に
スイーツをねじ込みます。
「マンタローさん、タナシンさんもあたしも、
あなたのことを心配しているのよ!!
スイーツを食べてガツンガツン体力を回復しちゃいなさい!?」
マンタローは大きな口に放り込まれたスイーツを頬張りながら
涙目でこう言いました。
「もおらめらえらいりょ!!(もう食べられないよ!!)」
「ダメだぜ!?マンタロー!!
弱音ばっか吐いてちゃ、ダイエットは成功しないぜ!!」
「ダイエットは、長い道のりなんだから、
まずはしっかり食べて英気を養わなくちゃ!!」
すると、ハナちゃんも頷きながらこう言いました。
「そうそう!!それにマンタローさん、
あなたは勘違いしてるわよ!?」
「マンタローさんは痩せたんじゃなくて太ったのよ!!
だから真のダイエットが必要なのっっ!!」
タナシンも続けます。
「いいかい!?マンタロー!!
『タイジュウカルクナールαβγ』なんて
魔法の秘薬は存在しないのさ!!」
「そう……あれは巧妙に謳った詐欺師の常套句でただの偽薬なの……
要するに、マンタローさんはハメられたってワケ!!」とハナちゃん。
そして、タナシンが「コクコク……」と相槌を打ちます。
「ええええぇぇ~~っっ!?マジでぇぇ~~っっ!?」と、
マンタローは病院で絶叫します。
案の定、マンタローは看護師さんに
「病院内で絶叫しないでくださいね!!
お静かに願います!!」と、注意されてしまいます。
タナシンは少し間を置いてマンタローにこう言いました。
「ホラ、『タイジュウカルクナールαβγ』の販促ページは
とっくに消滅してるんだぜ!?やっぱ詐欺だったんだよ!!
マンタロー、試しに消費者センターに問い合わせてみろよ!!」
マンタローは汗だくになって動揺してしまい、
消費者センターに問い合わせてみることにしました。
「そんなバカな!?IQ180超えの天才薬学博士
『グレーゾーン・灰谷(45歳)』がただの詐欺師だったなんて……
オ……オレの30万円が……」
「さ、さらに入院費用と今月の家賃でオレの貯金が……
ウググググググゥゥ~~ッッ!!」
つづく
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