第4話

「散歩行ってくるね」



 ある夜、玄関から家族に声をかける。夜の散歩は春の大切な日課だった。

 月が綺麗な夜には、探し物が見つかる。月が満ちる頃、見つけたかったものに出会える。小学生の頃、何かの本でそう読んだ春は、満月の日にはいつもより長めに散歩をしていた。


 そしてこの日はちょうど、月が完璧な形を成す夜だった。




 静まり返った街の中を歩く。見慣れているはずなのに知らない道に迷い込んだかのような、夜の魔法。春は大きく息を吸って空を見上げ、月光の眩しさに少しだけ目を細める。思わず溢れたため息。

 あの月が満ちる頃、こうして何かを見つけようと歩き続けてきた春。今日こそは、何かを見つけられるだろうか。




 少し歩いた先、散り始めた葉っぱたちの絨毯が敷かれた遊歩道。春はその落ち葉の色になぜか急に心を奪われ、視線を落としたまま歩み続ける。カサカサと儚い声がする。これもまた、音。

 するとその時。



「あ、すみませ、」



 急に目の前から高い声が聞こえ、春は慌てて顔を上げた。

 立ち止まった足、今にもぶつかりそうな距離にひとりの女の子。突然現れたその存在に、思わず目を見開く。



 彼女が、この前のガイダンスで見かけたあの子だったから。しかもそれだけではなく。



「……え、ねえ大丈夫?」



 ぽろぽろと、泣いていたから。

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