第3話

***



 そして再会は、唐突だった。



 大学二年生で学内オーケストラのコンサートマスターという大役を任された春は、まだ涼香の演奏を胸に音楽と生活を共にしていた。深い人付き合いが苦手なのも相変わらず、しかしそれは音楽への熱い想いで補えている感覚があった。



「今日も春はこれ終わったらオーケストラか」

「そうだね、年末までずっとこんな感じ」



 大学二年の秋学期初日、授業ガイダンスのために訪れた大講義室。友人と言葉を交わしながら楽器ケースを肩からおろす。気を許せているかは別として、春の周りにはいつも人が集まる。

 教授の話が始まる数分前、一瞬だけ背中の方から熱い視線を感じた春。会話を続けたままそれとなく後ろに目を向けた。



 広い部屋の一番奥、肩くらいまでの黒髪の女子学生が、静かに俯いている。

 周りには知り合いらしい存在もなく、ただそこに座っている。視線がなぜか、彼女に惹きつけられる。



 ……あの子のこと、知ってる気がする。



 長いこと見つめ続けるわけにもいかず、無理矢理引き剥がした視線。それでも春の頭の中は、ガイダンス中もずっと彼女に感じた既視感を追っていた。


 きっとどこかで会ったことがある、そんな懐かしい感覚があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る