あなたの答え

「はーい、今日の課題お前らちゃんと出したかー?」


先生は、列順に前から課題を集めて歩いた。みんながすらすらと出していき、俺の番がやがてやってきた。



「あ、健一か。お前、ちゃんとやってきただろうな?」



ここまでは一歩も止まらず、生徒のことを見ることもせずに足を進めてきたというのに、俺の前で止まって、そんな信用のかけらも感じないようなことを言ってきた。



イラついたので特大のドヤ顔をかまして、昨日終わらせたばかりの課題を積み重なったワークの山に雑にのせてやった。



「なに!?やってる!?まさか、そんなこと………」



「ふっ、」



「ドヤ顔してんじゃねえよこれが普通なんだわ。」



「いてっ、」

「ぶつなよせんせー!!」


ツッコミ強いんだから参っちまうなー、、まあとりあえず、何とか課題は終わった。



でも、問題はそこじゃ………



「はい先生、お願いします!」



美咲、何なんだよ、昨日の。他のやつに勉強教えて。俺に教えてくれるんじゃねえのかよ、


先生ににこやかに笑いかける美咲。きっと今回の課題も完璧、あっという間にこなしたんだろう。


俺はあんなに急いで答え見ながらやったのに、美咲は楽しそうに他のやつとやってたのかな………



「あ、言い忘れてたけど答え見てやった奴はすぐわかるからなー。」



ドカアアアン



「えっ!?」



その言葉に驚いて体が勝手に起き上がってしまったのか、膝が思いっきり机の裏側にあたり、大きな音をたててしまった。



「お前、写したな。」



「あ、」

 ◆

放課後

「はああ、健一よ。お前には心底呆れる。」


深いため息が、職員室にいる先生の目線を一気に寄せ付け、状況はまるで公開処刑のよう。



「先生にドヤ顔で課題を出したのにも関わらず、堂々と答えを写していた。しかもそれを隠してきた。」


ドンッ!!



「うっ!」



「ふざけるんじゃない!!お前は頭がおかしいのか!舐めたことをするのもいい加減にしなさい!」



あーなんかもうもはやどうでもいい。はよおわんねえかなー。


先生の怒りが頂点に達した時から、あまり記憶はない。もはや怒られているのもどうでもよくなったのだろう、いわゆるヤケクソ。



ガラガラ


「失礼しましたー。」



長い長い説教を終え、職員室から出ることができた。時刻はすでに本来の下校時間から1時間以上も過ぎており、この学校にいる生徒は間違いなく俺だけになった。


昨日とは比べ物にならない遅れだ、部活も委員会もテスト期間だから無いし、さすがに今日は誰も残っていないだろう。



美咲も、帰っちゃったかな。



「なんか元気出ないな。俺、どうしたんだろ。美咲のことはわざわざ急ぐ必要ねえだろ、釜野があんだけ言ってんだし、他のやつのことなんて、見てないよな。」



階段を降りて昇降口が見えてきた、照りつける太陽によって昇降口すらも少し眩しい。でも、今日はいつもと少しだけ違った。



「え、影?」



誰かが立っていた。人影が確かにそこにあった。はっきりとだ。


でもおかしい、先生はみんな職員室にいるし、生徒は絶対俺以外とっくに帰っている。


誰だ?



階段を完全に降りて、昇降口と並んでいる人影、いや………人が見えた。



「遅いじゃん、ずーっと待ってたんだよ、私。」



「み、さき………?」


目の前が一気にぼやけた、もやもやが視界を覆う。それと同時に、頬を冷たい何かが通ったのを感じた。



「何で泣いてるの!?大丈夫?そんな酷いこと言われた?」



「泣いてねえ、」



「泣いてるよ笑」



靴を脱いで美咲が俺の方に近寄って笑っていた。



「そんな笑うことじゃ………」



「ほら、撫でたげる!泣き止んで!」



「俺、さあ。ごめん、あんなこと言って。」



「え、けんちゃんが怒らない??」

「やば!呼び方、、」



「その呼び方も本当は嬉しいよ、大好き。」



「え?え!?」



「美咲だけだよ俺にその呼び方してくれるの。」



「照れるじゃん、やめてよ笑」



「俺は、俺は!!」



言う、全部言わないと、ダメだ、!



「美咲と同じ大学に行きたい………し、ずっとずっと、一緒に勉強したい。」



「え、え!まっ、て!それって笑」



「ずっと小さい頃から好きでした。」

「もう嘘なんてつかない、これが本当の俺の答え、だめかな?」



「じゃあ、早く靴履いて!ほらっ、行こ!海の見えるところに!」


「お、ちょっとまっ!」



手を繋いで俺をあの渚まで引っ張っていく。その背中は、小さい頃から見てきたあの背中だった。


本当はもっと早く伝えられたはずなのに、ずっと俺が意気地なしで、勇気もなかったから、こんなに長引いちゃったんだよな。



「もっと早く言えば良かった、ごめ、」



「私も大好きだった、ずーーーーーーっと、前から!勉強なんて1人じゃまったく出来ないのに、けんちゃんとやったらすごい楽しかった、もっと一緒にやりたいからもっと頑張れた!」



「俺のおかげ………?」



「うん、そうだよ、私がずっと100点取れたのはけんちゃんのおかげ。」



水平線がくっきりと見える、そんな場所。走ったせいで息切れを起こして、うまく会話がしづらい。



「今、回ばっかりは、負け、たな。私。」



「それ、、どうい、う?こと?」



「先に言われちゃったから、私の言いたかったこと。」

「100点だよけんちゃん、ありがとう、私の問題解いてくれて。」



俺における問題の正答率は0か100。必ずどっちか。今回の課題みたく答えを写していれば100点だ。


でも、答えがついていない問題は適当に答えを書くから、0点だ。



「恥ずかしいから、早く勉強しよっか笑100点目指そー!!」



口が裂けても、その時言うことはできなかった。俺はずっと前から、美咲の気持ちに薄々気付いていたってこと。



「テストに答えついてたらなー、、」



「ついてるわけないじゃん笑」



俺はまた、答えを写しちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

渚に浮かぶあなたの答え 学生作家志望 @kokoa555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画