初めての嫉妬心
「お!健一じゃん!おっはっよっと!」
「わっああ!あっぶねえな………」
後ろから凄い勢いで走ってきて、俺の肩に手を乗せて派手な挨拶をかましてきたそいつ。そいつの名前は、俺の同級生でクラスメイトの釜野。
「まあまあそんなカッカしないで。ちょっとしたsurprise《サプライズ》さ!」
「地味に発音いいのやめろよきしょくわりぃ。あと、怒ってはねえよ。」
釜野は、学校でもなかなかに有名な天才。大学に入って留学生になりたいだとかなんとか言ってる。そのため、英語を猛勉強してるらしいけど、実力は実際のところよくわからない。
「またまた塩対応なんだから。あー、、っと。ところで君のgirlfriend《ガールフレンド》は?」
「え?いや、そんなんいねえよ。………はいはい、そういういじりね、俺はどうせ彼女いない歴イコール年齢ですよ、たく、俺が1番わかってるっての。」
俺がため息まじりにそんな御託を並べていると、釜野は俺にとんでもないことを言ってきた。
「え、えええええっ!?まさかまだ付き合ってない!?」
「だからそんな人いねえって」
「いるでしょ!健一には美咲ちゃんが!!」
「はっ?釜野、ガチで何言って………」
「鈍感男子きたあああああっ!1番腹立つタイプだなこりゃ。」
「知らねえよそんなん。」
「とにかく、ちゃんと向き合って。これはもう立派な恋愛!わかってる?」
釜野が英語を使わずに、日本語だけを使って訴えてきている………。なんだ?それほど緊急事態?おかしいのか?俺って。
「今からでも遅くない、告白しよう。」
「えっ!?なんで俺が!俺、まだ一言も好きなんて………」
「いいからいいからっ!思い立ったが吉日!」
「よくわっかんねえやつ………俺もうさき学校行くぜ。」
「Strike while the iron is hot!Strike while the iron is hot!Strike while the iron is hot!」
「………」
◆
「はー、やっと終わったぜ。」
放課後の誰もいない教室で1人、俺は残ってやり忘れていた課題を行っていた。この課題の担当はなかなか怖い先生で、忘れたなんて言ったらどんな説教をされるかわからない。
それなのに関わらず俺は課題を完全に忘れており、提出前日にこれに気付いて、慌てて今日の放課後に残って全てを終わらせる羽目になってしまった。
「まあいいや、終わったし。帰ろっと。」
誰もいない廊下を通る、たったそれだけなのに、なんだか特別感があって大きな足音を立てながら昇降口まで向かった。
でも、その大きなステップがたった一つの声で一瞬にして止まった。
「え?美咲の声………?今日、部活も委員会もないし他の友達と帰ったはずじゃ?」
その声のある場所に徐々に近付いていくと、どうやらそこは普段人がいない図書室。図書委員会も困るくらいに利用者が少ない図書室に、いったいなんの用があるのか。そんなことがなんとなく気になって健一はこっそりと中を覗き込んだ。
「え、?」
「ここね、えっとーこうすると!ほらっ!出来たでしょ!」
「ほんどだ、すごいね!美咲ちゃん!」
横に長いテーブルに、2人だけで固まって椅子に座って勉強をしている。その片方こそが美咲。しかしもう一方は、
「あれ、他クラスの男子だよな………関わり、、あったんだ。」
キーンコーンカーンコーン
チャイムのだるそうな音が校内に響き渡ったと同時に、それを合図にして2人も椅子から立ち上がってお互いに帰る準備をし始めた。
「やっべ、帰んねえとバレるっ!」
さっきまでは堂々と音を立てて廊下を通っていたと言うのに、今度はやけに神経質になりながら音を立てないように気をつけて昇降口まで向かった。
なんとかバレずに済んだのか、2人が後から追ってきたりとなんらかのリアクションは取られなかった。
「はあ………なんだ、この気持ち。なんで俺、元気ねえんだろ。」
確かにバレはしなかった。でも、何か心に大きな穴が空いたような、とにかく謎の落胆をしたんだ。原因もわからない落胆を。
原因を探しながら1人、ゆっくりといつもの帰り道を歩いていると、ふと、朝の釜野との会話を思い出した。
「とにかく、ちゃんと向き合って。これはもう立派な恋愛!わかってる?」
釜野のあの真剣な眼差しに、決して嘘は感じなかった。別に心が読めるわけじゃないけど、嘘じゃなく全て本当のことを言ってるとはっきりと断言できる。
「でもじゃあなんで他のやつと勉強?俺のことが好きなら俺を誘うだろ、普通。」
「あっ………」
さっきまで目の前にあった家たちが曲がり角を曲がったところでちょうど綺麗に無くなって、見えてきたのはくっきりとした海、その前にある渚だった。
「俺が昨日、あんなこと言ったからだ………」
「好きだ、美咲のこと、好きになっちまってる。」
「明日もう一回、勉強教えてもらおう。」
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