第2章 冒険者時代

第11話 噂の男

 オレはその日、気楽に狩りへ出て、アルーの大軍に轢かれた。

 慢心といのだろうか?


 だけど草原の遠く、ポツポツと点在している奴らが、人を見た瞬間。固まりになり向かってくるなど知らなかった。

「俺には常識を持った仲間が必要だな」


 事故後、謎物質の服と、謎物質の体は平気。

 自分で作った鞄が粉々、燻製肉などが踏み潰されてもう食えない。


 だがまあ、一匹は倒したからいいだろう。


「……」

 どうやって持って帰ろう。


 来た瞬間に殴った奴。

 全長で三メートル超え。

「重さ、どのくらいかな?」

 地球じゃ、セメント袋二つ持っていた。

 今は二五キロだが、あの当時は四〇キロだった。


 八〇キロならいけるが、目の前にあるのは小山のような存在。

「近くに人影なーし」

 指さしをして、確認をして、絶望のあまり座り込む。


「オレはバカだ、せめてユキが居れば、そりでも作って引かせれば」

 ユキは今、抱き枕になっている。


 ダメ元だが、担いでみる。

 眉間を殴ったために、止まったときの加速度が脳を破壊したのか、鼻や口から色々出てきているが。顔を躱して背負うべし。


 なんとか持ち上がった。

 後ろ足は引きずるが、それで町まで帰った。


 その日オレは伝説になった。

 コイツって、一トンくらいあるらしい。

 そいつを背負って帰るバカ。

 だが普通じゃできない。

 でも、伝説の内容は別件もある。


 ギルドの解体場のおっちゃんにも、呆れられて説明を貰った。

「いいか坊主、この裏手にな、荷車の貸し出しがある。一日銀貨一枚だが、返却をすると銅貨三枚は返ってくる。そうすりゃ後ろ足も傷が付かず高値で買い取れる。コイツは皮も良い値で売れるんだ。しょうもないところケチるな、まあ普通ならやろうとしてもできんがな……」

 呆れられた。


「はい、ありがとうございます」


「ほいよ、買い取り伝票だ。受付へ持っていけ」

「ありがとうございます」

 オレは疲れたが、金貨が手に入る喜びで、少し踊りながらカウンターへ行った。


 伝票見せると、ベルトーネさんは驚いてくれて、金貨を貰う。

 後ろ足が傷ついていなかったら、もっと多かったようだ。


 しばらく宿代わりとして、自由に使っていいというのでギルドマスターの家へと帰る。


 戻ると、ヴァレリーは流石に起きていた。


「起きたか」

「帰ってきた。よかった。お前のご主人様に、捨てれていなかったぞ、よかったわねぇ」


 ユキはおとなしくモフられているが、顔は迷惑そうだ。

「飯を食いに行って、ついでに何か買ってこよう。それにギルドマスターって何時に仕事が終わるんだ?」

 そう聞くと首をひねられる。


「さあ、わかんないけど、マムの店でよく会うよ」

「マムの店?」

「昨夜の店」

「パン屋じゃないのか?」

「違う。店の名前は誰にも教えてくれないけど、みんながマムの店って言うからマムの店」

「まあいい。いい加減服を着ろ」

「はーい。ああっ出てきた、拭くもの」

 一気に浄化をする。


 ついでにユキも浄化する。


 とりあえず、店に行きつつ、ヴァレリーに冒険者に何が必要かを聞く。

「ええと、武器? と強きこころざし

「おお、それは大事そうだ。だけど…… 今日アルーを狩ったんだが重くてな」

「えっ??」

「アルーだアルー」

「ああ、アルー美味しいよね」

 なんだろう、話がかみ合わない。

 昨日ので、脳みそが壊れたのか?


「それで、アルーを狩ったんだが、その場合は荷車とかを借りろと言うんだが、何に引かすんだ。近くに居たら、荷車ごとあの突進で壊されるよな」

 そう話すと、ヴァレリーが固まってしまった。


「えっ。アルーの突進? 罠じゃなくて?」

「ああ、あんなに遠くから、俺を見つけてくるとは思わなかったぞ」

「ええと他の人の話よね」

 なんだろう目の前で喋っているのに、とことん話がかみ合っていない気がする。


 結局道具類の話はできずに、店に着いてしまった。


「いらっしゃい」

「こんちわ、帰りに一個買いたいんだけど」

「昨日の鞄はどうした? あの不細工な素人が作った様なやつ」

「失礼だな、オレの手作りだ」

「悪い事は言わねえ、買え。ほらあの向こうに店がある」

 そう言って教えられる。


「店売りなら、壊れないかな」

「そりゃ、素人が作ったのとは違うさ」

「アルーに踏まれても大丈夫かな?」

「そりゃ無理だが、そんな状態で生きている奴は居ないから問題ない」

「今日踏まれて、鞄を壊されたんだ」

 そう言うと、ピタッと動きが止まる。


 しばらく考えた後、納得するように聞いてくる。

「ああ、狩るための岩から落としたのか、そりゃ災難だな」

「狩るための岩?」

「アルーを狩るには、穴を掘って落ちるのを待つか、崖の上から通り掛かった奴をヤリで攻撃しかないだろう。まともに対峙するなんて、オーガでもしねえぞ」

「ああ、結構痛かったよ。そうか、普通はそんな方法で……」


「ちょっと待て、正面からぶつかったのか?」

「ああ、痛かったよ。正面の奴をぶん殴ったから、なんとか一匹倒せた」

「それって本当か?」

「嘘ついてどうするんだよ、ギルドに買い取って貰ったから今あるぞ」

 うーんと悩んだ後、走って行ってしまった。


「店、どうすんだよ」

「女将さんに言おう」

「そうか、そうだな」

「それで、アルーを狩りたいの?」

「だから、狩ったちゅうねん……」


 そうその日、アルーを狩るために、正面に立った馬鹿がいたと噂になった。

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