第10話 衝撃

 朝ギルドへ行くと、あいつらがいた。

 そう『日の昇る先』とか言うチーム。


 そして、周りを見て、何か納得をする素振りを見せる。

 ああ横に、ヴァレリーが居ないからか。


 ヴァレリーは起きられなかった。

 なんか俺の体は、変らしい。

 彼女に言わせると繋がった瞬間から、極上の快楽が波のように押し寄せるらしく、初めてだったからよく分からないけれど、とにかく駄目で起きられないらしい。

 そうずっと、もうだめしか言えないようだ。

 ユキを枕に寝ている。


「おい、ヴァレリーはどうした?」

「ギルドマスターの家で痙攣をしながら寝込んでいる。それでどうも、あんた達のチームから抜けさせると言っていたぞ、ギルドマスターが」

「ああ良いさ」

 あっさりと答えたのは、オッリという大剣使い。


 でだ、後ろから出てくる。

 ぬっと出てきた盾使い。

「昨日の約束を覚えているだろうな?」

 そう言ってすごんでくる。

 見下ろされるのはちょっとむっとくる。


「約束など何もしていない」

「馬鹿野郎、彼女に近付くなと言っただろう」

 この台詞、なぜか小声になるサンカリ君。


 だから俺は、大声で聞いてみる。

「ベルトーネさん。サンカリ君が君と喋るなというので、困っているんだが。どうすればいい?」

 聞こえたベルトーネさんは立ち上がる。

 サンカリ君は真っ赤になり、なぜか俺にパンチを放つ。


 身長差により、打ちおろしの右ストレート。

 試しに右拳を額で受ける。

 昔何かで読んだ。見えていれば我慢できると。


 重い感じのゴンという音と、それに混ざった、ミシッという音。

 そして、いくつかの悲鳴と、ヤジ。


「おお、やりやがったぁ」

「やっちまえ」

「いいぞぉ」

 サンカリ君のファンじゃ無く、気のせいか俺の方が嫌われていたようだな。


 だけど、なぜかサンカリ君が、泣きそうな顔になる。

 やっぱり俺の体はおかしいようだ。

 衝撃はあったが、痛みはない。

 少ししか。


「ぐわああぁ、指がおれたぁ」

 ちらっと見る。

 ベルトーネさんは、きちんと見ているな。


 昨夜、マスターに言われた言葉。

「やられた時にはきっちりやり返せ、そうじゃないと舐められる。そいつらだけじゃ無く、みんなが弱い奴にたかり始める。クエストで多少獲物を捕ってもむしられちまうぞ」


 なんという世界だと、まあ呆れたが、どこでも一緒か。


 かなり加減はするが、躊躇無く目の前にある腹へ、パンチを打ち込む。

「意外と軽いな」

「ガッ……」

 足が一寸浮き、前のめりに、サンカリ君は倒れ込む。


「お前達も来るのか?」

 背後の、オッリ君達に尋ねる。


「いや、何も文句はない」

「それじゃあ…… ああ、さっきも言ったが、ヴァレリーは俺とチームを組むことになった。今後、近寄るな」

「あっああ。判った」


 その会話のとき、後ろの冒険者地はこそこそと座り直し、何もなかった様に飲み始めた。まだ朝なんだが。


 そっちはよかったんだが、ベルトーネさんが、わざわざカウンターからでてまで問いかけてくる。

「なんですかそれ? ヴァレリーさんとペア? あの子歳上でしょう?」

 喧嘩の顛末ではなく、ペアの話? 歳がどう関係するのか判らないが、言っておく。


「昨日こいつら、病気になった彼女を放置して逃げたんだ。ギルドマスターから組んでくれとたのまれたんだよ」

「マスターが? ちっ。勝手なことを……」

 舌打ちしたし、なんか燃え始めたベルトーネさん。


 それで、カウンターへ戻り話をする。

「ギルドマスターが、アルーを狩れば儲けになると言ったんだけど」

「アルー狩り? はい、いつでも。裏の受け取り場へ持ち込んで、その後伝票をこちらへ持って来てください」

「ああ、判った」

 顔が近寄ってくる。

 気のせいか、唇がつややかで、ボタンがいつもより一段多く外れている。


「アルーは大きさによって違いますが、金貨一枚ですから。頑張ってください」

「判った。ありがとう」

 そう言っただけで、彼女の顔が赤くなる。


 俺、何か出しているのか? 少しクンクンと匂ってみる。

 ちょっと昨日から、俺の体のおかしさに自分自身が引いている。


 そう、彼は知らなかった。

 あの腐れ神様から、女性に対しては完全無欠の男としての性能。

 男に対しては、何者にも膝を屈しない力を貰っていた。

 そしてそれは、ゴーストネットにより情報がフィードバックされて、バージョンアップされる。

 使う本人には一切通告無しで。アイツの常識にホンレソウは存在しない。

 地球では、神はただ存在するだけと言うが、ここでは手出ししまくる。

 何度でも言おう、一方的に与えまくる。


 器が強ければもっと強かっただろうが、耐えられなくて壊れる寸前だった。

 経験を積み、少し体が強化すると、能力が詰め込まれる仕組みになっている。


 そう彼は、女にとって花束のようなモノ。

 引きつけ魅了する。

 経験を積むごとに、それは花びらを捲るように力は強化されていく。

 今はつぼみを捲り、湧き出る密を舐めないと夢中になれないが、その内、触るだけで相手は卒倒するかもしれない。


 そして男には、驚異的な硬度を持ったナイフとなる。

 触るモノ皆傷つける。

 だが、誰も彼を傷つけることは…… その内できなくなる。

 一六歳の人野 佳人ひとの よしと改めヨシュート。


 ただし、生まれついた不運はどうやってもつきまとう。


 騒動の中心に、この人あり。

 ここから、この世界で何かが変わり始めた。


「ふーん。何とかなりそうね。がんばれ」

 どこかから、無責任な声が聞こえた……

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