第9話 押しかけ仲間

「まじ?」

 彼女は聞く。


「ああ、その位は要るな。そもそも脳で出血が起きて、助かったのが奇跡だが、体も動くんだろ?」

「動く」

「ならその位は必要だろ? 治らなかったときは、一生誰かに面倒を見て貰い食わして貰わなきゃいかん。そう思ってみろ」


 指折り考えていたが、彼女の限界を超えたらしい。

「体で返す。一回って幾ら?」

 呆れたように、ギルドマスターは答える。

 答えるのに驚きだが。


「売れっ子で、一回中銀貨か大銀貨、安い奴は銀貨一枚」

「えらく、安いんだな?」

 つい口を挟む。


「ああ、農村部で口減らしとか、貴族の…… おっと、色々あるんだよ。そんな事も知らないなんて、あんたいったい…… そうかそうだよな」

 そう言って、ギルドマスターは天井を指さす。


「まあそうだな。この世界には疎いんだ。色々教えてくれ」

 状態は、まあ。物事を知らないのは確かだ。

 ギルドマスターが、勘違いしてくれているなら都合が良い。


 そうしていたら、おとなしかったユキが来た。

 口に咥えている皿に、炭が入っている。

「なんだそりゃ?」


「すまないね。あんたの注文、炭になっちまった」

 そう言いながら、手が出る。

「銅貨五枚」

 自分のミスは、料金に影響しないのか?

 ものすごく理不尽な気がする。


「おいユキ。炭は食うな」

 浄化してみる。意識的に、炭だけを選ぶ。


 そうすると、中に食えそうな物があった。

 黙って食い出すユキ。


「おばさんもう一個。焦げていない奴をたのむ」

 そういうと、手をぴらぴらと振りながら奥へ行く。


「あっねえ。私はどうすればいいの?」

 ヴァレリーは俺に聞いてくるが、ギルド長が口を挟む。


「おまえは、どうしたいんだ? コイツに借金として金を返していくならギルドとしてはきちんと証文を作る。口約束は騒動の元だからな」


 再びがーんとして、変な顔を見せた後、泣き始める。

「助けてくれって、わたし言ってない」

 あーそうだよなぁ。まあそんな気も無かったし。


「そうか、なら良い。好きにしろ」

 ギルド長が口を挟む前にぶった切る。


「おま…… いいのか本当に?」

「ああいい。それよりもこいつらのチーム。盾持ちに絡まれたんだ。受付へ行くなと。そっちを何とかしてくれ」

「さっきおばさんも言ってたな」

 背後から、濃密な殺気がやって来る。

 この世界、達人ばかりかよ。


「誰がおばさんだい、ティミオあんた絞めるよ」

 瞬間に空気が張り詰める。


「ほい。今度は焦げてない」

 皿の上は、血の滴る肉。


「あーもうちょっと焼いて」

「やかましい子だねえ、これだけ焼いてりゃ当たりゃしないし、これ以上焼くと、こんな肉固くて食えなくなるよ」

 そう言って胸を張る。

 こんな肉……


「筋切りとかしてないのか?」

「なんだいそりゃ」

「もういい」

 さっき買ったナイフで、コンコンと突き刺し筋切り、周りに一瞬強火、それから中へと炎を浸透させる。


 この魔法、上手く使うと、かなりむごいことができる。

 昔の拷問だな、吊るし肉をそぎながら血管を焼き潰す。

 昔ヨーロッパでやられていた。


 サバイバル時に覚えた乾燥魔法と言おうか、焼き物を乾かすのに火が中へ入るようなイメージで魔法を使ったらできた。

 チート最高。


 俺は自作のフォークを取りだし、細かく切って食い始める。

「赤身肉だな。しつこくなくていい」

「そいつはアルーだな。草原の殺戮者」

 ニヤニヤしながら教えてくれた。


「それはどんな奴?」

 ギルドマスターが水で机の上に描いた絵は、十八禁。

 こけしと言うか、男のあれに足が付いたような絵だった。

 思わず、食いかけた手が止まる。


「なんか変わったモンスターだな」

「だが一頭取れば、買値はいいぞ」

 なんでか、ギルドマスターと、ヴァレリー。二人とテーブルを共にする。


 ここは、アリスター領アントンの町。

 ギルド長は、ティミオ=アルトゥロ。

 元プラチナ級で四五歳。

 嫁さんはいたが、別れたらしい。

「あなたの危険な仕事、心配をするのは、もういやなの」

 そう言われて落ち込み、危険な冒険者をやめギルド長となったが、元嫁さんはとっとと商人と結婚をしていたらしい。


「けっ、女なんて。あいつのために頑張ったのによお」

 それでまあ、むふふなお店の、相場を知っていた様だ。

 ちなみにここの店の女将さんは、元メンバー。

 マスターが抜けときに、「もう歳だしな」そう言って解散したようだ。


 それで、ヴァレリーだ、弓使い。

 聞くとまだ一八歳らしい。



 後日アルーの実物を見ると、アメリカパイソンぽかった。

「足の付いたこけし、言い得て妙だな」

 


 まあその晩、ギルドマスターの家にお邪魔する。

「遠慮するな。入れよ」

「ギルドの裏だが、でかいな」

「ああ、あいつを迎えに行くのに無理をしたんだ。すでに結婚してるとか。無駄にはなったが、まあ仲間や知り合いが来て泊まっていくからな。便利と言えば便利だ」

 庭には、かまどがありバーベキューができそうだ。


 血を流すためか、浴槽まである。

 魔導具? よくわからん。


「此処に魔石を入れるんだ。色が抜けたらもう使えん。じゃごゆっくり」

 そう言って、ティミオはシャワーだけ浴びて出てってしまった。

 体はごつくても、男自身はあまり変わらなかった。

 なぜかおれは、ほっとする。


 その後、湯船に浸かっていると来るんだよ。

「あの、やっぱり返済分」

「そんなのは、別にいいから」

 そう言うと、ろうそくの明かりの中で彼女の顔はガーンとなる。


「あのぉ、そんなに駄目ですか?」

 裸のまま突っ立ち、泣きそうな顔になる。


「おまえ、剣を持っていた奴、彼氏じゃ無いのか?」

「ちがう…… 違います。腐れ縁で」

「俺が見たとき、腰に手が回っていたじゃ無いか」

「あれは、叱ってもやめないんです」

 そう言った後、湯船の方へやって来る。


「あのチームじゃ、じり貧なんです。それに、話を聞きましたがみんなが私を見捨てたこと。マスターがチームから抜いて、その…… ヨシュートさんとチームを組んでくれると。あのチームに居るより、あなたの横にいた方が絶対いい暮らしができると…… あっ……」

 あわてて口を塞ぐ彼女。


 だが、本音をしっかり聞いた。

「そうなんだ……」

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