第8話 見つめ合う目と目

 ガタッと、奴が立ち上がりこっちへ来た。


 そう盾の奴だ。

 俺よりも圧倒的に背が高く、二メートル近い。

 プロレスラーのような体。

 他の四人は呆れたように見ている。


 この世界で、一体ナニを食えばこんなに成れるんだ?

 つい聞いてしまう?


「あんたでかいな。何食ったんだ?」

「そんな事はいい。ベルトーネさんに近寄るな」

 真顔で、そんな事を言ってきた。


「バカだろ、あの子は受付。近寄らなかったら仕事ができないだろう」

 そう言うと固まる。


「そこは何とかして……」

 なんかオロオロし始めた。

「どうやって?」



 そんな会話を始めると、女将さんが向こうで常連に声かける。

「あいつは、三回目だ。呼んどいな」

 そそくさと、一人が店を出て行く。


 「それで教えてくれ。どうやれば、彼女に近付かずに、依頼を受けられるんだ?」

 意外と真面目なようだが、賢くはないようだ。

 全身から、汗が噴き出しオロオロし始めた。


「うがあああぁ」

 切れたらしい。


 ぶらんとしていた手に力が入り、アッパー気味に持ち上がってくる。

 打ち込まれて喜ぶような趣味もないし、バックステップで躱す。

「うがっ」

 今度は、ブンと、左手が横に振るわれる。


 軽くしゃがむ。

 そこにまたアッパー。

 ついでに、さっき横に薙いだ腕が、頭の上から俺を抱え込みに来る。


 結構賢い。


 だが、コイツの足を払い。

 ついでに躱す。


 重心が前に来すぎだ。

「サンカリ」

 後ろの仲間から声がかかる。

 前足を払ったから、背中からこけただけだ。


 だが運悪く、驚いて立ち上がった女の子、その足の間だ。

 見られた女の子は、躊躇無くサンカリ君の顔を踏み潰す。

「痛え。うぎゃあぁ」

 思いっきり顔を踏まれて起き上がる、サンカリ君。


 女の子も、足を持ち上げられたので、すっころぶ。

 こけるときにテーブルの角で、結構な勢いで頭を打った女の子。


 色々見せてはいけないところを見せて引っくり返るが、すぐに起き上がる。


 鼻血を流しながら、女の子に謝っているようだが、女の子の様子が急変。

「あっ頭が痛い……」

 そんなことを言いながら、パタンと倒れる。


 そう、すごくやばそうな、完全意識消失。

 横にいた男が声をかける。

「ヴァレリー、おい」

 だが、彼女の体が痙攣し、お漏らしまで……


「おい、それ以上揺らすな。死ぬぞ」

 なんとなく、症状が脳内出血のような気がする。


「さっきテーブルで頭を打っただろう。頭の中で血管が切れた」

 一瞬俺を見て、彼女に向き直る。


 そっと、抱えていた彼女を、床に転がしてしまう。


「じゃあ助からんな」

 さっきの態度からうって変わる。意外とあっさりと諦めたようだ。


 俺は近寄り、見えるように魔法を使う。


 意識を集中。

 目に魔力を集めると、頭の中が見えた。

 やはり出血。

 此処か。

 机にぶつけた中、元々瘤のような脳動脈瘤が有り、そいつがくも膜下で丁度破れた。

 血管を修復し、たまった血を転移させる。

 まあ床にぶちまけたんだが。

 これで脳の圧迫は解除されたはず。


 だがダメージは受けた。

 もう少し代謝を高める。


 険しかった彼女の顔が落ち着く。


「ざっとスキャンをしたが、もう大丈夫だろう」

 そう言ったが、周りは信じないようだ。


「助かったんなら、コイツに預けて帰ろう」

「はっ?」

「ああ、そうだな」

 そう言った四人は……

 あわてて逃げだした……

 彼女を残して……


 それと入れ替わりで入ってきた男。

「なんだあいつら? 確かチーム『日の昇る先』だったよな」

 ぼやく男を、女将さんが呼ぶ。


「なんだよ一体?」

「さっきの奴ら、特に盾持ちだ。オタクのお嬢ちゃんに近付くなって喧嘩をふっかけるんだ。やめさせておくれ」

 それを聞いて一瞬呆れた顔をする。

「わかったサンカリだな。今度絞めとく。それは良いが、これはどうしたんだ? 血がすごいじゃないか」


「そっちはよくわかんないのさ。いきなり床に血がぶち撒かれて、その前は小便。困ったもんさ。あんたギルドマスターだろ弁償しな」

「えー。おれが? それで、そこの僕。その女は、ヴァレリーだな。何がどうなった」


 悪そうな顔、結構な眼力、言葉は優しいが、心はそうでも無さそうだ。


「この子はこけたときに頭を打ったらしく、治療をしていた。頭の中で血管が切れたんだ」

 そう言うと、理解をした様だ。


「そりゃあ…… そうか、あいつら逃げやがったな。脳なら生き残っても障害が出る。半身とか動かなくなるからなぁ…… それで治療? あんた教会の関係者か?」

「うーん。関係者じゃないが、頼まれ事は受けた。一方的だがな」

 そう答えると、かなり驚かれた。


 むさ苦しい顔が近寄ってくる。

「あんた、使徒様と言う奴か?」

「そんな言葉があるのか? 使徒…… いやもっと気軽に考えてくれ」

 そう言ったが、理解できないようだ。


「はっ?」

「まあ良い。浄化」

 彼女の服も濡れているし浄化をする。


 血の広がりもすべて綺麗になった。


 そして、彼女が起き上がる。

「あれ? 私…… 此処どこ?」

 イベント発生。患者は記憶喪失の巻。

「マジかよ」


「おう、ヴァレリー。俺が分かるか?」

 少し目を細めた彼女。


「げっアルトゥロ。ギルドマスターがどうして、あいつらは?」

 記憶喪失じゃなかった。

 俺は胸をなで下ろす。


「どうやら、頭ん中の血管が切れたようだな。この治療師様が治してくれたらしい。よかったな。腕は動くか?」

「えっうん」

 両手をクルクルと回す。

 

「大丈夫みたい」

「立って見ろ」

「うん」

「問題ないか?」

「ない。それとずっとあった頭痛と、この所ずっとあった喋りにくさが治ってる」

「頭痛? 喋りにくさ?」

 ギルドマスターが、首をひねる。


「ああ脳出血の、症状の一つ。頭の中で血管が瘤になって膨らむんだ。それが脳を圧迫する」

「へー。そうだったんだ」

「しかし、後遺症も無しで治療か、大金貨一〇枚くらいは要るな」

 ギルドマスターがそう言った、その瞬間、ヴァレリーは固まった…… 

 ギギギと俺の顔を見ながら…… にヘラと笑う。

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