第7話 気になる人

 るんるんで、俺は町へと帰る。


 水魔法で温度の調整ができることを発見して、蒸すことができた。

 それを、これまた水魔法で水分をぬく。

 カチカチになったが、お湯で戻すだけで芳醇なスープが出来上がる。


 周囲に張り巡らされた糸をほぐし、編み込むと帆布はんぷの様な丈夫さで少しキラキラした感じの布になった。


 持っていた鞄も、肩に提げる部分を作りご満悦。


 捕まえた鹿の角で作った手作りの針がごつくて、縫うのに少し苦労をしたが、まあ満足できる感じだ。

 五十センチくらいの袋で、片側を布を長くして中身がこぼれないように蓋ができる。

 ボタンで留めようかと思ったが、穴が開けられず断念をした。

 後に、魔法で出来るようになったが、この頃はまだコントロールが下手だった。


 さて、ギルドに行くと、カウンターからベルトーネさんが飛び出してきた。


「無事だったんですね」

 そう言って、涙ぐんでいる。


 そう楽しくて、都合一週間ほど山にいた。


 少し大きめの皿も焼いたり、裁縫をしたり、燻製を作ったり。

 楽しかった。


「っすみません。これ、討伐証明の爪です」

 編み上げた紐で、まるで干しだいこんのようにして持って来た。


 その数を見て、ベルトーネさんが固まる。

「五体も居たんですか?」

「ええ」

「それで…… よくご無事で」

 また泣きそうな顔をする。

 つい頭ポンポンしてしまう。


 一瞬彼女は驚いたようだが、嬉しそうな顔になる。


 だがその時、ギルド内の雰囲気が変わったのに気がついた。

 こちらに向いた殺気。

 ユキが反応し、俺も反応。

 顔を向けると、殺気は一瞬でしぼんでいく。


「手続きをします」

 このクラスは、オークと同じ一匹で大銀貨つまり百ピクニア。

 意外と安いが、ギルドの都合もある。


 ただ普通は、チームで一匹を相手にする。

 危険な割に安いので、みんなが引き受けない。

 だから残っていたのだが、ヨシュートは、気にせず山の中と言うだけで受けた。


 そう色々なことを知らないが為、ギルド内の貢献度は目立つ形で残っていく。


 それに、今回の爪は預かり証が出て、売れればその料金の半分は支払われる。

 半分は、税金とギルドの取り分。

 税金四割は、ギルド保護のための取り決めだ。


 麦などは八割くらい税金となる。

 そう、どこかと同じで、土地は王国の物。

 民には貸しているだけという世界。

 売買は、あくまでも使用する権利のみ。


 まあ日本も、知らずに負担をしている税金や負担金を合算すれば、七割くらいは税金だろう。

 消費税や、遊戯、施設利用、入湯等々。

 森林環境税及び森林環境譲与税や少子化対策。

 どんどん新しいものが増え、控除はどんどん減っている。


 まあどちらも、似たような感じで暮らしにくさは変わらない様だ。


「はい、大銀貨五枚です。それと素材の預かり証です」

 そう言って、渡してくるとき、そっと手を握られる。


「あの、手を……」

「あっ。すみません」

 そう、彼女の複雑な心。

 見た目年下の男の子。


 意識した切っ掛けは別として、彼女の心の中でその存在は確かに大きくなっていく。

 変わった容姿。

 ここらでは見ない黒髪黒目。

 色々なことを知らない危なっかしさ。


 そう彼女が思うように、彼は転移時若返っていた。

 服もきっちり違和感のない様なものに変わり、オーパーツになりそうな物はなくなっていた。

 細かな事を気にしないから、変だな程度で放っていたが。


 そして、少し余裕ができた俺は、町中を見て回る余裕ができた。

 屋台や店舗が意外とあることに、今更ながらに気が付く。


 皿などは木製が多く、削ったままで塗装や漆は無い。

 それも、旋盤とかでは無く、手で一刀一刀削ってあるようだ。


 武器屋や、防具屋。

 見たことが無い店に、俺はテンションが上がる。

 武器屋で、小型のナイフを一本買う。

 意外と安いのか、中銀貨一枚。


 そして、パンが売られていた。

 フランスパンぽいやつ。

 ただ雑穀が混ざっているようだ。

 見た感じ、ナッツでは無いだろう。

 一個、銅貨三枚。

 試しに買ってみる。


 ついでに、飯屋は無いかと聞いてみると、パン屋が飯屋だったようだ。店先に屋台を出して売っているんだな。

「中に入れ。今なら空いている」

 恰幅の良い親父が言ってくれる。


 店と言うが、他の店と違い間口は広くない。

 どう見ても普通の家だが、軒先に看板がぶら下がっていた。

 木製のジョッキの絵。


 ドアノブなどは無い。

 ドアを押し中へ入る。


「いらっしゃい」

 外のオッサンに比べ、細身のおばさん。

 奥さんだろうか?


「飲み物はどうするね」

 適当にカウンターに座ると、聞かれる。

「ビール」

 ヤッパリ労働の後は、ビールだよな。

 向こうじゃ、なにかのご褒美の時だけ飲んでいた。


「ビール? なんだいそりゃ」

「黄色くて、泡だっていて」

 そう言うと、怪訝そうな顔。


「若いくせに変な子だね」

 なんかやばい気がする。


「メニューってあります?」

「字が読めるのかい」

 驚かれた。


 木の板が出てくる。

 だが当然だが、写真は付いていない。

「あー、エールを」

 そう聞いて、おばさんはああなんだそうかという、納得をした様だ。

 おばさん、あんた一体、あの嫌そうな顔…… 俺に何を飲ませる気だったんだい?


「ほいよ、銅貨五枚」

 受け取り時に交換らしい。

 さっきパンを買ったおかげで小銭はある。


「それと、何か料理はあります?」

「焼き物か、煮物かどっちだい」

「焼き物で」

「はいよ」


 そう言うと、奥へ行ってしまった。

 ここはそう、パブのような所なんだろう。


 奥のテーブルでは、あやしそうな奴らが俺を見ながら話し込んでいる。

 横で座り込んでいるユキに水を出す。


 ぬるく、雑味の多いエール。

 多少酸っぱい。


 怪しそうな奴らは、ワインかな?

 男三人に、女が二人。

 男の手がしっかり腰に回っている。

 中型の盾を持った奴があぶれているのか。

 女の子は、弓を装備。

 そして細く短い剣。


 丸形の盾と、大剣を男二人は装備。

 そして、こそこそとなぜか俺を見る。

 おれに気があるのか?

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