第5話 困った俺
「とりあえず。稼ぎの良いお仕事をください」
にっこり笑って聞いてみる。
「うーん。えーと。ヨシュートさん強そうだから大丈夫かな?」
パラパラと、閉じられていたカードを捲る手が止まる。
ここから、この世界での本当の一歩が始まった。
「ゴブリンの巣があるらしいので、調査をお願いいたします」
「巣、調査?」
「はい、場所と大体の数。もし捕まっている人がいるなら、人数ですが、ホントに分かる範囲でいいので無理をしないでください。それで討伐をした個体が居たなら、右耳。こちら側の耳を切り取り持って帰ってください。一個で銅貨三枚です」
「判った」
俺が間違えないように、自分の右耳を引っ張って教えてくれた。
「そんなに引っ張って、痛くなかったか?」
つい彼女の耳をなでる。
「ひっ。ひんっ。あっ。やっ。あうっ。だめっです」
そう…… おれが貰った能力が発動し、彼女の大事な所を撃ち抜いた。当然そんな事には気がつかない。
「やっぱり痛かったんだな」
そう言いながら、耳をぐにぐに。
「やっ、ちが。あうぅ」
ガクガクして、彼女はまた机の下へと入ってしまった。
「行ってくる」
「あううぅ。ばかっ」
真っ赤な顔で、彼女は見送ってくれた。
「私って、耳…… 弱いんだ。知らなかった」
彼女は、自分の体に潜む神秘を発見したようだ。
俺は、門番さんに頭を下げて、外に出る。
地図の通り、来た道を戻る。
山は、あそこ。手前の森を折れて、迂回するように向こう側。
もう周りが真っ暗になった頃。山の麓へとたどり着く。
ユキに、この前作った燻製猪足を与えて、俺はたき火で薄切りの燻製肉を炙る。
「やっぱり塩が欲しいな」
そんな穏やかで、やさしい月の光の中。
森の方で声が聞こえる。
「ぷぎゃああああぁ」
「ぶぼー」
「あれが言っていたゴブリンかな。変な声で鳴くんだな。あっちか」
ユキと二人。森の奥へそっと入っていく。
板壁で囲いが適当に造られた村。
壁は到る所抜けて意味は無さそうだが、中には生き物の気配が沢山ある。
今度は間違えない。
ヒトでは無く、ぶたっ鼻の奴ら、身長が二メートルから二メートル五十。
「大きいな」
その時、奥の小屋から間違いなく人の声。
それも女性だ。
「いやあぁ。助けてぇ。モンスターの相手なんてもういやあぁ」
彼女は、髪を引っ張られながら、別の小屋へと引きずられて行く。
「いやあぁ」
「様子見だと言っていられん。行くぞ」
力を解放する。
その時、周囲に風が吹き抜ける。
怒りのあまり、力を解放をした時、威圧まで乗ったようだ。
周りが静かになる。
虫の声まで止まる。
その中を突き進み、小屋の戸を開ける。
そこには、五人ほどの女性が捕まっていた。
簡単な木の檻。
手で引っ張ればドアが壊れるほどのもろさ。
ドアは壊したが、肝心の女性達は、白目をむいて失神中。
中には漏らしている者達も。
「ひどいな」
とりあえず白目をむいている二匹ほどのゴブリンをぶん殴り、討伐証明の右耳をむしる。
この前に、川で見た奴より大型だ。
きっとあれは子どもで、こっちは成獣? なんだろう。
落ちていた布きれにそれを包む。
「女性は後回しだ」
さっきの、女性が引っ張り込まれた小屋へと入る。
「ゴブリンが三匹で一人を回そうとしたのか。ひどいな」
倒れているゴブリンの顔面を殴り耳を取る。
恐怖のあまりなのか、女性は気を失っていた。
他の小屋を回りながら、ゴブリンを退治していく。
全部で二十匹くらい。
そして、村のちょっと外に、女性に産ませたのか、小さな個体が沢山引っくり返っていた。
そうそう川で見た奴ら。
小さいせいか、耳が少し尖り、鼻も尖っていた奴ら、三十ほど泡を吹いて倒れていた。顔面を潰して耳を取る。
周囲を探査したが、これでこの森近辺には他に居ないようだ。
「集落で、五十匹か。こんなモノなのか」
女性達を一つの小屋に集めて、浄化?を掛ける。
これは川の側で覚えた魔法。
綺麗にしたいと思ったら発動をした。
服が破かれ、色々見えているが、まあ俺は気にしない。
小屋の入り口で、夜が明けるまで一応見張る。
夜が明けた。
「おい。大丈夫か?」
起きては居るが、息を潜めていた女の人達。
「はっはい」
「立てるなら町へ帰ろう」
そう言って、帰ろうとしたが、服を欲しがったので着られそうな服を探す。
そして、六人を引き連れて、町へと帰る。
入り口で止められて、ギルド証を見せる。
だが女性達は持っていない。
「六人か。おまえ、奴隷売買とかじゃないだろうな」
昨日の人と違って、口が悪い。
「ゴブリンに捕まっていた人達だ」
「馬鹿野郎、早く言え」
叱られた。
その後、彼の女達は兵に連れて行かれてしまった。
とぼとぼと、ギルドへと帰る。
「おはようございます」
なんかすっきりした顔のベルトーネさん。
「退治してきたよ」
「退治? 調査じゃ無く?」
「ああ色々あって。これ」
カウンターに耳の入った布を置く。
紐をほどいて、その布で彼女は真っ赤になるが、顔は深刻。
「被害者がいたんですね。でも、わざわざ、これを使わなくても、他のものでも」
彼女が赤くなったのは、この布が女性用の下履きだったらしい。
知らんがな。
「個数は五十ですか。よくぞご無事で」
そう言って、コインを数えて別の革袋をくれる。
三掛ける五十。
百五十ピクニアだが、きっちりと証文が出てくる。
人頭税百ピクニアは後にして、百ピクニアが残り。だが門番に二十五返さなくてはいけない。
少し悲しいが、詰め所に行って銀貨を一枚払う。
残り二十五ピクニア……
「本当に五十でしょうね」
ベルトーネは数え出すが、上の方はゴブリン。
だが下は、二十個はオーク……
オークの討伐は、一匹で大銀貨つまり百ピクニア。
銅貨三十枚分しか払っていない。
二千から六百。つまり一千四百ピクニア不足。
ベルトーネは飛び出すが、そこにはもうヨシュートの姿は無かった。
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