第5話 困った俺

「とりあえず。稼ぎの良いお仕事をください」

「うーん。えーと。ヨシュートさん強そうだから大丈夫かな?」

 パラパラと閉じられていたカードを捲る手が止まる。


 ここから、この世界での本当の一歩が始まった。


「ゴブリンの巣があるらしいので、調査をお願いいたします」

「巣、調査?」

「はい、場所と大体の数。もし捕まっている人がいるなら、人数ですが、ホントに分かる範囲でいいので無理をしないでください。それで討伐をした個体が居たなら、右耳。こちら側の耳を切り取り持って帰ってください。一個で銅貨三十枚です」

「判った」

 俺が間違えないように、自分の右耳を引っ張って教えてくれた。


「そんなに引っ張って、痛くなかったか?」

 つい彼女の耳をなでる。


「ひっ。ひんっ。あっ。やっ。あうっ。だめっです」

「やっぱり痛かったんだな」

「やっ、ちが。あうぅ」

 ガクガクして、彼女はまた机の下へと入ってしまった。


「行ってくる」

「あううぅ。ばかっ」

 真っ赤な顔で、彼女は見送ってくれた。


「私って、耳…… 弱いんだ。知らなかった」

 彼女は、自分の体に潜む神秘を発見したようだ。



 俺は、門番さんに頭を下げて、外に出る。

 地図の通り、来た道を戻る。


 山は、あそこ。手前の森を折れて、迂回するように向こう側。


 もう周りが真っ暗になった頃。山の麓へとたどり着く。

 ユキに燻製にした足を与えて、俺はたき火で薄切りの燻製肉を炙る。

「やっぱり塩が欲しいな」


 そんな穏やかで、やさしい月の光の中。

 森の方で声が聞こえる。

「ぷぎゃああああぁ」

「ぶぼー」


「あれが言っていたゴブリンかな。変な声で鳴くんだな。あっちか」

 ユキと二人。森の奥へそっと入っていく。


 板壁で囲いが適当に造られた村。


 壁は到る所抜けて意味は無さそうだが、中には生き物の気配が沢山ある。


 今度は間違えない。

 ヒトでは無く、ぶたっ鼻の奴ら、身長が二メートルから二メートル五十。


「大きいな」


 その時、奥の小屋から間違いなく人の声。

 それも女性だ。

「いやあぁ。助けてぇ。モンスターの相手なんてもういやあぁ」


 彼女は、髪を引っ張られながら、別の小屋へと引きずられて行く。


「いやあぁ」


「様子見だと言っていられん。行くぞ」

 力を解放する。


 その時、周囲に風が吹き抜ける。

 怒りのあまり、力を解放をした時、威圧まで乗ったようだ。


 周りが静かになる。

 虫の声まで止まる。


 その中を、突き進み小屋の戸を開ける。


 そこには、五人ほどの女性が捕まっていた。

 簡単な木の檻。

 手で引っ張ればドアが壊れるほどのもろさ。

 ドアは壊したが、肝心の女性達は、白目をむいて失神中。

 中には漏らしている者達も。


「ひどいな」

 とりあえず白目をむいている二匹ほどのゴブリンをぶん殴り、討伐証明の右耳をむしる。


 落ちていた布きれにそれを包む。

「女性は後回しだ」


 さっきの、女性が引っ張り込まれた小屋へと入る。

「ゴブリンが三匹で一人を回そうとしたのか。ひどいな」


 倒れているゴブリンの顔面を殴り耳を取る。

 恐怖のあまりなのか、女性は気を失っていた。


 他の小屋を回りながら、ゴブリンを退治していく。


 全部で二十匹くらい。

 そして、村のちょっと外に、女性に産ませたのか、小さな個体が沢山引っくり返っていた。

 小さいせいか、耳が少し尖り、鼻も尖っていた奴らも三十ほど泡を吹いて倒れていた。顔面を潰し耳を取る。


 周囲を探査したが、これでこの森近辺には他に居ないようだ。


「集落で、五十匹か。こんなモノなのか」


 女性達を一つの小屋に集めて、浄化?を掛ける。

 これは川の側で覚えた魔法。

 綺麗にしたいと思ったら発動をした。


 服が破かれ、色々見えているが、まあ俺は気にしない。

 小屋の入り口で、夜が明けるまで見張る。


 夜が明けた。

「おい。大丈夫か?」

 起きては居るが、息を潜めていた女の人達。


「はっはい」

「立てるなら町へ帰ろう」

 そう言って、帰ろうとしたが、服を欲しがったので着られそうな服を探す。


 そして、六人を引き連れて、町へと帰る。


 入り口で止められて、ギルド証を見せる。

 だが女性達は持っていない。

「六人か。おまえ、奴隷売買とかじゃないだろうな」

 昨日の人と違って、口が悪い。


「ゴブリンに捕まっていた人達だ」

「馬鹿野郎、早く言え」

 叱られた。


 その後、彼の女達は兵に連れて行かれてしまった。


 とぼとぼと、ギルドへと帰る。


「おはようございます」

 なんかすっきりした顔のベルトーネさん。


「退治してきたよ」

「退治? 調査じゃ無く?」

「ああ色々あって。これ」

 カウンターに耳の入った布を置く。


 紐をほどいて、その布で彼女は真っ赤になるが、顔は深刻。

「被害者がいたんですね。でも、わざわざ、他のものでも」

 彼女が赤くなったのは、この布が女性用の下履きだったらしい。

 知らんがな。


「個数は五十ですか。よくぞご無事で」

 そう言って、コインを数えて別の革袋をくれる。


 三十掛ける五十。

 百五十ピクニアだが、きっちりと証文が出てくる。

 人頭税百ピクニアは後回しにして、百ピクニアが残り。だが門番に二十五返さなくてはいけない。


 少し悲しいが、詰め所に行って銀貨を一枚払う。

 残り二十五ピクニア……



「本当に五十でしょうね」

 ベルトーネは数え出すが、上の方はゴブリン。

 だが下は、二十個はオーク……

 オークの討伐は、一匹で大銀貨つまり百ピクニア。

 銅貨三十枚分しか払っていない。

 二千から六百。つまり一千四百ピクニア不足。


 ベルトーネは飛び出すが、ヨシュートの姿は無かった。

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