第4話 お金が必要

 しばらく歩くと、壁が見えてきた。

 壁だということは、城郭都市という奴だな。


 問題は言葉だが、どうだろう。

「止まれ」

 いきなり槍を突きつけられる。


 うーん言葉。通じないといやだなあ。

 とりあえず、手を上げる。


 ユキが唸るので、しゃがんで首に腕を回し、飛びかからないようにする。

「どこから来た。その狼はお前のか?」

 今だに、槍はこっちを向いている。


 だけど気が付いた。

「うん? 言葉が通じる? どこかと言われると、高知です」

 つい素直に答えてしまった。


「コーチュー? 何処だそれは。まあいい。その狼はお前のか?」

 ちらっと、ユキを見て聞いてくる。

 よく見れば、兵隊さん腰が引けている。

 こんなにかわいいのに……


「ええ、かわいいでしょ。こっちに来てから、そう彼女は家族のようなモノです」

 大仰に手を広げたので、ユキから俺の手が離れた。

 それを見て、兵隊さんが後ずさる。


「おおっ…… そっそうか。人に迷惑をかけん様にな。それで、町へ入るなら、入場料がいる」

 入場料?


「どこかに住みたいのですが」

 そう言うと、困った顔になる。

「うーん。なら仕事を見つけて、税金を払う必要がある。簡単なのは冒険者ギルドだな」

 そう言って、門から見える建物を指さす。

 レンガ造りの二階建て?


「あそこなんですね。ありがとうございます」

 そう言って、中へ入ろうとするが、入らせてもらえない。


 そう、三歩までは入れた。

 だが、槍が目の前に。

「入るなら入場料」

「あそこに行かないと、お金が払えません」

 そう言って、じっと見つめてみる。


「ぐっ。それはそうだが……」

「そうだ、お金を稼ぐまで、ユキをお預けいたします」

 何どうしたの? そんな感じで首をひねるユキ。


「此処で待っていて」

 ユキに説明をして、足を踏み出す。


「だー。わかったから、銀貨一枚稼いでこい。必ずだぞ」

「ありがとうございます」

 御礼を言って中へ入る。


 その時俺は、まだ銀貨一枚の重さを知らなかった。

 いや重量は、二十四グラムくらいかな、分厚く大きさは五百円くらい。

 だがこれが簡単に銀貨一枚と言ったが、これが大体二十五ピクニア。

 日本円なら、二千五百円くらい。

 なんだけれど格差が大きい。

 宿基準で行くと二千五百円くらいの感覚だけど、食い物基準だと二万五千円相当? じゃあ二万五千円でいいのか?


 ピクニアは、古い言葉で貨幣を示すらしい。

 銅貨の下に、鉄貨があり一パルブム。百枚で銅貨一枚とのこと。

 パルブムは小さいを意味するらしい。


 それでこの辺り、一日に銅貨三枚あれば暮らせる。と言うか最低限食える。


 モノが安いということは、稼ぐのも大変ということ。


「すみません」

 こそこそと入ったが、ざわっとなり。

 周囲の空気が変わる。

 いきなり飛んできた矢を掴む。

 狙いは、ユキだ。


 ユキをかばうように身を低くして、矢を武器として構えて、全体を睨み付ける。

 そうこの時には、自分が危険だと知らなかった。

 人を見たのは街道を歩き出してからで、話したのはさっきだし。

 森で会ったのは人ではなかったし。


 そんな事を考えていたら、ユキが俺の肩にペシッと手を置いて気が付いた。


 食堂側にいた冒険者が、なぜか卒倒をしていた。

 構えを解き、見えているカウンターへ向かう。

 字は読めた。

 『受付』と書かれたところで、聞いてみる。


「登録をしたいのですが、できますか?」

「えっはい」

 意外とお姉さんは、平気そうだった。

 そう冒険者達は、俺が発した一瞬の殺気を受けて気を失った。


 だけど、お姉さんは少し冷や汗くらい。


 何で作ったのかわからない紙。

 それに、インクで書く木製?のペン。

 かなり引っかかるが書き込む。


 だが……

「この字は何と書いてあります?」

 そう読めていたから、普通に日本語で書いた。


 だけど、現地人は読めないらしい。


「すみません、代筆をお願いできますか」

「はい、よろしいですよ。皆さん基本、字が書けませんから」

「名前は、よしと」

「ヨシュートさんですね」

 なんか勝手に変わった。


「出身は高知」

「コーチューっと」


「歳は、三十二歳」

「歳は、さんじゅ…… ヨシュートさん。嘘はいけません。うーん、十六歳にしておきましょう」

 なんか歳を適当に決められた。


「それと、犬がいるんですが、登録が必要ですか?」

「犬ですか?」

 カウンター越しに覗き込んできた。


 台の上に、丁度胸がぽよんと乗っている。

 だが、一瞬で消える。

「あれ?」

「そっそれ、犬じゃ無いです。狼系です。手足の大きさが犬と違うじゃ無いですかぁ」

 カウンターの奥から、声だけが聞こえる。


「ええと、ベルトーネさん」

 机のところにある、名札を読んでみる。

「はい」

「出てきてください」

「きちんと捕まえていてくださいね」

 そっと、目までが出てきた。


「登録などは必要ありませんが、何かあれば飼い主の責任ですからね」

 念を押されて、飼っていることが分かる様にと、馬用の鈴を首につけた。

 牛はカランカランと音がするやつで、馬はシャンシャン言う奴だが、ユキはチリチリとなる鈴を一個だけつけた。


「カードは金属ですので、文字を打つのに最低一日かかります。それまではこの紙製の仮りカードを持っていてください。登録料が、銀貨一枚。カードが銀貨一枚。保証料が銀貨一枚。あわせて、七十五ピクニア。それと此処で住むようになれば、人頭税百ピクニアが必要です」

 そう言って、お皿が出てくる。


 ほれ、払えという感じで。



「すみません。今お金がありません」

「じゃあ借用書に、拇印をお願いします」

 そう言って、皿の上に小型のナイフが乗る。


 定型文書の書類に、数字と俺の名前が書かれて、ぺいっと渡される。

「私は、ギルドに対して、以下金額を借用しております。期限は上記より一月。元本に小銀貨一枚を加えた額を返済します。なお払えない場合、奴隷落ちも承知しております……」

 その文言で、固まって居ると声がかかる。


「ああそれ? 払う気があれば大丈夫でしょ。目安は新月になる頃に、金利分の銀貨は納めてください。途切れると奴隷ですよ」


 わずかな間に、一〇万以上の借金。

 泊まるところなし。


 新世界。俺の未来には暗雲が広がる……

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