第3話 魚一匹と猪

 ワンコに、見ておいてとお願いをして、粘土を探す。

 田んぼは無くとも、断層があれば粘土層はあるかもしれない。


 そんなことを考えていたが、思い出す。

 今居るところ。

 そう川だ。


 川には浸食作用がある。

 崖になっているところを、見ながら、少し川を上っていく。


 見渡す限り、人工物は見られない。

 岩は、板状に割れ、浸食を受けている。

 堆積物が岩となり、隆起をしたと言う事は、地球と同じくプレートなどの活動があるのだろう。


 そして岩の上から、水の流れる小さな滝を見つける。

「この上、湧水があるのかもな」

 そして、地層を見ながら、粘土層を見つける。


 本当は、年単位で寝かせるものだが、まあいい。

 木の枝を拾い、一抱えの土をなんとかえぐり出す。


 そして、元いた川原まで帰ってくると、ワンコが猪と戦っていた。

 まだ小さいのか、五十センチくらいの大きさ。

 周りに親がいないかを確認する。


 粘土をそっと下へおろし、代わりに石を掴む。

「せいっ」

 この世界で初めての武器。

 投石。

 そんなことを考えて、にやついてしまう。


 ワンコに当てないように、気を付けて投げたつもりだったが、すごい勢いで飛んで行き、背中に当たって、猪君はすご勢いで転がっていった。


 背中が折れたらしく、暴れていたので、頭に向けて大きめの石を落とす。

 またファンファアーレ。

「猪ゲットー」


 このファンファーレ鬱陶しいんだが。でもこの後、数回で飽きたのか、流れなくなる。

 丁度人恋しくなってきた頃に、終わったんだ。


 それはさておき、ワンコが申し訳なさそうにこちらを見る。

 かまどの魚が一匹消えている。


「まあ良いさ」

 そう言いながら、頭をなでる。

 きっと、猪が食ったのだろう。


 かまどの上に、薄い石をのせて、ホットプレートにする。

 割れるかもしれないが、それまで使おう。


 熟成もしていない猪肉。

 血は流れたようだが、真面目に血抜きもしていない。

 焼いて食べてみる。


 ついでに、横で沸かしていたお湯を火から避ける。

 さっき竹を見つけて、石を割ったナイフでちまちま切り出した。

 意外と、竹は便利なんだよ。


 ワンコも、欲しそうなので猪肉を食わせてみる。

 結構臭みがあるが、平気なようだ。


「名前をどうしようかなぁ」

 横で、猪の前足に噛みついているワンコ。

 焼きながら、焼けたモノをやっていたが、待ちきれなくなったようだ。


 なんとかむしり取り、一本与えた。

 それで、気が付いたんだけど、俺の体すんごいの。

 握力とか、トン単位であるかもしれない。


「白いからシロというのもなあ。女の子だし、雲、砂糖、マシュマロ」

 ピンと来ないのか彼女も首をひねる。


「ブランカ、ブライト、うーん。素直に雪でいいや。お前はユキだ、いいな」

 そう言って頭をなでる。

 だが一生懸命足を囓っていたので、怒りがちょっとだけ鼻の頭に浮かぶ。

 そうだ犬とかは、慣れていても食事中に触るのは厳禁だったな。


 そう、日本じゃアパート暮らしだったし、生き物を飼うなんて出来なかった。

 本来猫派だが、犬も番犬になる。

 魚の被害も一匹ですんだし、ありがとう。


 また頭をなでて、叱られる。


 粘土をこね、空気をぬき、そこから土器を形成して、干しておく。


 川の壁を崩して、ダコタファイヤーホールの煙突部分に部屋を造り、煙突効果を狙う。野焼きよりは温度が上がるだろう。


 そう思って試してみた。


 モノが大きすぎたのか、空気抜きの不足か熟成が足りないのか、土のせいか。


 洗面器程度の大物は全滅。

 コップ程度のモノは、三つほど生き残った。

 焼き締まりの感じは良い。


 まあいい。とりあえずここで、ずっと生活をするのも考え物だ。

 指標が無いから判らないけれど、生き物を殺すたびに力は確実に増す。

 なんだか、フルパワーはバランスがどうだかで、そのまま与えられないとか。

 あの女神、要約が不自由でよく理解できなかったからな。

 とにかく、生き物を殺せば、力が増えるのだろう。


 この世界の統治ねえ。

 たぶん実力でつかみ取らないと、俺が王だぁーって叫んだら、矢が飛んでくるんだろうな。

 矢があるかは知らんが。


 とりあえず、いくつか作った石のナイフと、竹細工。

 蒸し焼きにして、干した肉。

 それらを、猪の皮で作った鞄へつめる

「これだけあれば、数日食えるな」

 それらを持って、俺は禁忌に挑戦をする。


 そう川を下る。

 滝があったりすれば地獄だが、まあ下ってみよう。

 その時、俺は単純に塩が欲しかったのだよ。


 ユキと一緒に、川を下る。

 その壮大な決意は、一キロも下ると終わってしまった。


 まだ大きくない川。

 その川に橋が架かっている。

「うん。人工物を発見」

 今まで、上流にばっかり調査をしに行った。


 法面のりめんつまり川の横、傾斜部分を這い上がる。

 轍とかが付いているから、タイヤの就いたモノが通っている。

 そして決断をする。

「右へ行こう」

 そう、左に数キロ行けば村があった。


 右の町へは後二十五キロほどだが、ユキを連れていることで少しだけ騒ぎとなる。


 俺は、前途多難な方を、常に選択をする男のようだ……

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