第17話 オレンジ色のトラウマ

「トラウマ····」

ぼくはポツリと呟く。

「そうです。この紋章から現れた色は、あなた方が最も『嫌う色』を映し出します。それは過去の経験に大きく影響されます。あなた方はこれまで様々な経験をされてきた事と思います。それを今から各自それぞれ試験を行い、それに合格した者のみが、【異能】を手にする事が出来ます」

柚月さんの説明にぼく達は面食らった。

「今この世界は『7人の英雄』の手によって平和が訪れました。その時彼らは私たちにこう言い残したのです。」

『人は誰しも心に影を持ち、それを抱えながら生きている。しかしそれを見ないふりをして生きるのと、向き合いながら生きるのとではまるで違う。己の心の真髄、内に潜む影と向き合ってこそ、初めて本当の自分が開花し、それが【異能】となって現れる』と。ですので私たちは彼らの意思を受け継ぎ、自らの【異能】を発現したいと願う者の為にこの研究所を設立したのです」

「そういうことだったんですか...」

この世界はかつて諸悪の根源である獣王を討伐したとはいえ、残党はチラホラ残っている。

表向きには平和なために簡単に【異能】を発現させない為にも、こういった形を設けているのかもしれない。手に入れた【異能】で好き勝手暴れ回る輩を防ぐためでもあるのかもしれない。

事実、ぼく達の村も復興作業中であった十年間の間、襲ってきた獣人や異能力者は1人もいなかった。

そして柚月さんは説明を続けた。

「今から皆様にはお1人ずつ同時に戦闘試験を受けていただきます。武器をお持ちの方はそちらをお使いください。お持ちでない方はこちらより模造刀をお渡しいたします。その戦闘試験をクリアする事が出来れば、見事【異能】を獲得する事が出来ます」

そして、武器を持っていない澁鬼くんには模造刀が柚月さんより渡される。パッと見は普通の日本刀だ。

それでは、皆様のご健闘をお祈りしています」

そういうと目の前の紋章がこれまでの柔らかい光とはうってかわり、強烈な光を放ち始めた。

ぼくらは思わず目を覆う。

「皆様に心落とす影は、いつかあなたがたを導いてくれるものとなるでしょう」

柚月さんの声が聞こえてから暫くしてから光はおさまり、目を開けると、そこには先程までいたホールではなく、荒地が広がっていた。

どういうこと······?それだけじゃない。一緒だった皆も見当たらない。周りにいるのはぼくだけだ。

ぼくはさっきの柚月さんの言葉を思い出す。

「皆様にはお1人ずつ同時に試験を受けていただきます」

もう、試験は始まっている。ぼくは覚悟して持っている刀を構える。


すると、目の前に何やら地面からオレンジ色の物体が姿を表した。

ぐにゃぐにゃとしていて固有の形を持たないのか、刻一刻とその形を変え、やがて人間の背丈ほどにまで伸びてくる。


そして────────


「えっ·······」

ぼくは言葉を失った。その物体は徐々に人のような形に変化し、最終的な姿は、


柔らかく薄いオレンジ色の光をまとった『ぼく』だった。


『やぁ』

オレンジの『ぼく』はやけに親しげに挨拶をしてきた。

『こんな形でぼくと会えるなんてね。思いもしなかったよ』

「君は...一体何者なの?」

『変なことを聞くね。ぼくはきみ。つまりぼくは「ぼく」さ』

「一体、ぼくとどうしろと······」

『どうしろ?そんなもの決まっているじゃないか────』


すると次の瞬間───────




キンッ!!!!!!!!!!



素早い踏み込みからぼくを斬りかかりに来た。ギリギリ反応が間に合った。手持ちの刀で応戦出来てなかったら危なかった。



『やるねぇ。さすが「ぼく」だ。今のにしっかり反応するなんて』

「質問に答えてよ····! ぼくは、ここで何をすればいいの!?」

『そうやってわざと鈍いリアクションするのはやっぱり嫌だねぇ。特に本人から言われるとなると尚更さァ!!!!』


ヒュンッ!!!!!


振り降ろされる斬撃にぼくは急いで身を退く。今のもどうにかかわせたけど、ちょっとでも気を抜いたらあっという間に斬り裂かれる。

ぼくは完璧には状況を飲み込めてはいないけど、おおむね理解は出来た気がする。

「ぼくはこの空間で『ぼく』を倒さなきゃいけないって事だよね····?」

『やっぱりちゃーんと分かってるじゃないかァ!!』


ガキンッ!!!


つかや刀身が熱くなるのを感じる。こうなったら細かいことは抜きだ····!全力で行く······!!


「ハァッ!!!!」

『セイッ!!!』



キンッ!!!!! ガッ!!!!! ガキンッ!!!!!!!!











「はぁ····はぁ······」

『なんだい?もうバテて来たのかい?』

「くっ····!!!」

何だこいつ····めちゃめちゃ強い······。

斬撃や間合い、斬りかかり方もぼくとほぼ同じなのに、どんどん追い込まれていく····。

『ここに来る前に案内人が言っていた筈だよ。【異能】を手に入れる為の試験だと。そのために乗り越えるべきものは心的外傷PTSD、トラウマ。つまり、今のぼくは、君のトラウマなんだ。だから今のままじゃぼくには勝てない』

「ぼくが検査したのは色だけ····ぼく自身の姿で立ち塞がる必要なんてどこに······」

『この色こそが君のトラウマの根本こんぽんさ。ヒントはここまでにしよう。ぼくはおしゃべりな性格じゃないからねっ───!』

「くっ······!!!」




キンっ!! ガッ!!! ガキンッ!!!!!










「ハァ····ハァ······」

強い··まるで歯が立たない····。既につかと刀身はこれ以上握り続けたら火傷しそうな程熱い...。

思い出せ····あいつが言っていた言葉を······。


『今のままじゃぼくには勝てない』


つまり、ぼくが何か変われば、やつに勝てる糸筋が見えるという捉え方が出来る····。

ぼくが検査で出た色はオレンジ...そして、剣と剣のぶつかりあいのはずなのに、異様に熱いつかと刀身...。

この色と今の現象から導き出されるもの、何か····何か他にヒントは······。

トラウマ····ぼくやパーティーの皆がぼくから遠ざけていたもの······。


「!!!!?」


ぼくは思い出す。数日前の出来事を。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あの〜······何で僕は食事準備の際毎回見張り番なの······?」

「佐斗葉は周りの警戒力が皆よりあるからね。適材適所ってやつ?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


炊事当番····。ぼくは毎回パーティーが食事の準備をする時に見張り番として、食事準備の担当を外されていた······。


オレンジ色、熱い柄と刀身、外される炊事当番····。


······そうか、分かった。ぼくのトラウマが······!!

ぼくの【異能】にして、乗り越えなきゃいけないトラウマ····。





それは、【火】だ······!!!




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