第13話 尾根からの光景
ぼく達は夕飯を食べ終え、寝る支度をしていた。
澁鬼くんは今日の湖の観光案内で疲れていたのか、あっという間に寝てしまった。
「澁鬼くんも寝ちゃったし、私たちも寝ましょうか。夜も
「夜もふけた...夜も歳をとるのぉ?」
「馬鹿な事言ってないで寝支度しなさい恵里菜」
雪姉ぇ相変わらず能天気な恵里菜にツッコミを入れ、ぼくと祐葉はそれを無視してぼくらはそれぞれ寝床についた。
ぼくは滞在延長をお願いした時の審査官の態度がどうも気になっていた。
初日はあんなに友好的だったのに...だけど最後の見送りの時はここで休んだ方がいいっていう明確なアドバイスをくれた。
審査官や町の人たちの祝福、至れり尽くせりの対応。しかし滞在延長のみ拒否。しかし最後にはまた友好的対応。全く意味が分からなかった。
ほぐは隣にいてまだ 起きている祐葉に話しかける事にした。
「祐葉、やっぱり気になってるの?」
「あぁ、最後滞在延長を拒否した割には俺たちを邪険に扱わなかった訳ではなかった。こうやって寝床を指定したのはちょっと引っかかるちゃあ引っかかるな」
ぼくと考えてることは同じだった。こういう時に双子というのはツーカーというか、一を聞けば想定通りの十が返ってくるので便利だ。
ぼく達は同じ考えを持ちつつも答えの出ないモヤモヤを抱えながら眠りにつこうとしたその時─────
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ······
「んっ····?」
何か地面が動くような大きくも鈍い音にぼくは身体を起こす。
近くで何か起きているのかな...?
寝ぼけ
「佐斗葉!!起きたのね!?」
「····う〜んどうしたの雪姉ぇ······?」
ぼくは目を
「見て!あれを......!!」
雪姉ぇはぼく達が数時間前までいた町を指さす。
「えっ··········?」
ぼくは言葉を失った。ぼく達が数時間前までいた町。温かく歓迎してくれた町。優しく見送ってくれたその町は────
美しいあの湖から溢れ出た大量の水に、全てを飲み込まれていた。
ドドドドドドドドドドドドド───
!!!!!
水は全ては飲み込んで行った。ぼく達が色々立ち寄った店も、澁鬼くんを手当てした審査官の休憩室も、そして、澁鬼くんの帰る場所である、あの民宿も。
あまりの轟音に祐葉、恵里菜も目を覚まし、そして目の前の光景に、ただ唖然としている。
「そんな!!早く助けに····!」
「ダメよ佐斗葉」
雪姉ぇに肩を掴まれ制止させる。
「もう既に町全体を水が飲み干してる。私たちは数時間かけてこの尾根までたどり着いた。今から行っても、私が出来ることは、助けられる命は、もう、何も無い」
「そんな····そんな事って······!!」
数時間前までぼく達を温かく出迎え、優しく接してくれた人達が、あの町が、なんで····何でこんなことに······!!!
「......!!」
「すぅ...すぅ......」
ぼくは澁鬼くんの方を見る。こんなに大きな音がなり続けているにも
「とにかく今はここを離れましょうもう少し高い所へ」
「なんでだよ雪嶺!!こんな状況を見過ごせってのかよ!!?」
「落ち着いて祐葉。さっきも言った通り、今から行ったとして、私たちに出来る事は何も無い。それに水は見た限り、三階建ての建物すらも軽々飲み込むほどの量。私たちが行っても、死ぬだけよ。」
「そんな····冷たいよ雪姉ぇ······あたし、あの町の人達も、あの町も大好きになったのに、このままあの町の人たちが犠牲になっていくのを見ることしか出来ないの······?」
「犠牲なっていくんじゃないの。もうなってしまったのよ」
雪姉ぇの言葉にぼく達は何も返す言葉が見付からなかった。
「幸い、澁鬼くんが起きてないのが救いね。彼にこの光景を見せる訳にはいかない。こんなもの見たら、ショックは私たちの比じゃないわ。早く移動するわよ」
そう言って雪姉ぇは澁鬼くんをおぶる。
ぼく達は雪姉ぇの指示に従った。他に思い付かなかったから。あの町の人達を救える方法が、ぼく達があの町に対して出来ることが、何も見付からなかったから。
ぼくらは、何も出来ない、何も守れない、ただの旅人だった。
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