第12話 出発延長?いややっぱ無理だった

「ただいま」

「おかえりなさい澁鬼。皆さんにあの湖を紹介してきたの?」

「あぁ。とっても気に入ってくれたみたいだった!」

「それは良かったわ。この町の名物だものね」

民宿へと戻ったぼく達一行は澁鬼親子の温かい目で見守る。

「そうだ母さん。昨日の話だけど、俺、皆に着いていくことにしたよ。もっと強くなって、母さんとこの町を守りたいんだ!!」

澁鬼くんは先ほどぼく達に伝えた覚悟をお母さんにも話した。

するとお母さんはホッとしたような顔を見せ、「そう...」と言い、ぼく達に身体を向ける。

「息子のこと、どうぞよろしくお願いします」

深々と頭を下げてお願いする姿を見ると、やっぱり親子なんだなぁと思いつつ、「こちらこそ」と雪姉ぇが代表して頭を下げて挨拶をする。


ぼく達は部屋へ戻り出発の準備に取り掛かろうとすると、朔矢がポツリと呟いた。

「なぁ、もし皆が賛成してくれればなんだけど、もし良かったらこの町にもう1日だけ滞在してみないか?この町、オレ気に入っちゃって。もう少し見て回りたいなぁって思ってさ」

「いいねぇ〜あたしは賛成〜。湖も綺麗だったし、人は優しくて食べ物も美味しいし、もっともっと見て回りたいなぁ〜」

「良いわね。私も賛成よ」

恵里菜の返答に雪姉ぇも乗っかる。

「んじゃ、そうするか。とりあえず、申請のために最初に出会った審査官のおっちゃんのとこに行くか」

祐葉がそう言い、ぼくらはとりあえず荷物をまとめ、審査官のおじさんの所へ向かった。


「皆さん、これより出町しゅっちょうですね。お忘れ物などはありませんか?」

「あの、それなんですが、ここにもう1日2日滞在出来ないでしょうか?」


「それは出来ません。あなた達はここに来た時に『滞在は3日』とおっしゃいました。今から変更や延長は出来ません。ルールですので」


ぼくからの問いに対し、審査官のおじさんは初日の優しくて穏やかな態度から一変、毅然とした態度でそれを断ってきた。

何回かその後も交渉を続けてみたが、やはり滞在の延長は認められなかった。

仕方なしぼくらはそのままこの町を出ることにした。もちろん澁鬼くんも一緒に。

町から出る門が開く際に、町民皆がお見送りをしてくれた。

「皆さん、どうかお気をつけて。そしてこれをどうぞ」

澁鬼くんのお母さんが紙袋を2つ差し出してきた。

「これは今夜の夕ご飯と明日の朝ご飯です。大きい袋の方が夕ご飯となっていますのでそちらから開けてください」

「分かりました。ありがとうございます。色々お世話になりました。」

「いいえ、私たちもあなた達と出会えて幸せでした。どうか息子をよろしくお願いします」

深々とお礼をするお母さん。

「母さん、俺、もっと強くなって必ず戻ってくるから」

「えぇ、その時を楽しみにこれからも見守ってるわ」

温かい親子の別れの時。なんかぼくが感動してグッときそうだ。

そして見送りに来てくれた町民の1人の男性が声をかけてきた。

「この先山を登ると尾根おねがあるから、今夜はそこで休むと良いよ」

「そうですね。必ず尾根おねに着いてから、休むようにしてください。そこなら獣人もあまり現れないでしょう」

男性の言葉に審査官のおじさんもそう言ってきた。

代表して祐葉が返答をし、別れの言葉を告げた。

「分かりました。何から何までお世話になりました。皆さんもお身体にお気を付けて。また会いましょう」

そうしてぼくらは優しいこの町に名残惜しさを感じながらも、町民の皆さんから言われたアドバイス通り、尾根へ向かって歩き出した。


そして数時間後、予定通り言われた尾根へと到着し、ぼく達は夕飯を食べる事にした。

澁鬼くんのお母さんに言われた通り、大きい袋から開けると、中にはチーズとベーコンがサンドされ、黒胡椒がかかった美味しそうなパンが入っていた。

「あれ?1個だけ別の袋に入ってる?」

ぼくが中から別の袋を取り出すと、その袋には『澁鬼にはこれを』とメモが書かれた紙が貼られており、中にはぼく達のパンと同じではあるが、ソースがトッピングされたサンドイッチが入っていた。

「あ、俺の好物のソース付けてくれたのか、母さん...」

澁鬼くんのその言葉にぼく達はまた温かい気持ちになった。

最後の最後まで子供に気を遣う母親。そしてその愛情を真っ直ぐに受けて育った澁鬼くん。

2人の親子愛にホッコリしながらも、ぼく達はこの日、夕飯に舌鼓を打ち、眠りについた。

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