第1章 優しき山の町編
第6話 出発
────
翌朝、ぼくは最後の見張り番だった雪姉ぇに起こされ目を覚ます。
今回も何事もなく無事に朝を迎える事が出来た。
「それじゃあ、行くとしましょう」
雪姉ぇの言葉で皆はそれぞれ支度を始め、町へ向かい旅を始めるのであった。
「だけどこうやって歩き続けてはいるものの、時折全員無言になっても気まずい雰囲気にならないってのは良いよなぁ」
祐葉の言葉に雪姉ぇは肩をコキコキと鳴らしながら答える。
「場の空気ってのは関係が作られた上に出来るものよ。初めましての人たちには何の基盤も無い、互いが点と点で結ばれてないんだから、それぞれ林立してる感覚になる。お互いに歩み寄れてないから、気まずくなるのは当然よ」
「オレたちはその点と点が結ばれてちゃんと図形基盤が出来てるわけか。」
「そういうこと。互いに寄り添い、その図形は大きく広がることも、時には外部から身を守るために、小さく閉鎖的な空間にすることも出来る。パーティーを組むってのには、そういう利点はかなり大きいんじゃないかしら」
なるほど。ぼく達は同じ村の出身だから自然的にいつも一緒にいたけど、いつの間にかそういった基盤が作られてたのかぁ。
そんな事を考えていると、恵里菜がいきなりぼくの背後からガバッと抱きついてきた。
「ということはあたしは佐斗葉にくっつき放題って事だね!お互いに空間行き来が出来るなんて、つまりはあたしからも佐斗葉からも常にウェルカム!!あーなんて最高!!」
抱きつかれる度に女の子独特のいい香りと柔らかい感触が2つ同時に堪能出来るのは有難い限りだけど、今は少しツッコミたい。
「いやぁーちょっと解釈が都合良すぎじゃないですか恵里菜さん?」
「大丈夫!あたしは佐斗葉を独り占めしようとは思ってないから!雪姉ぇも祐葉も佐斗葉にくっつきたかったらしても良いんだよ〜?」
「「いやごめんパス」」
2人は綺麗にハモっていた。うーんやはりここぞという時の団結力というか思考の一致具合いが恐ろしい。
祐葉はため息混じりに話題を変え、次の目的地の説明をし始めた。
「次の町も獣人による被害からの復興は完全には至ってないらしい。犠牲者は大量に出たらしいが、生き残れた人も多くいたらしく、売店やらオレたちみたいな旅人を迎えるための宿なんかはもう通常通り営業してるらしい」
「ちなみに、そこからぼく達の異能を測れる研究所も近いんだよね?」
「あぁ、歩いて1日もすれば着く。」
「そっか。いよいよぼく達の能力が明らかになる日が来るのかぁ。ちょっと楽しみだなぁ」
ぼくは緊張とドキドキが混ざった不思議な感覚になっていた。ある日突然自分が能力者として生まれ変われるなんて夢のような話だから。
「これからぼく達は『守る』側の人間になれるんだよね。あの伝説の7人のように、誰かを救える存在に」
「あぁ、そうだな」
ぼくの言葉に祐葉を含む皆が優しい笑みを浮かべる。
ぼくは何度憧れたか分からない。誰かを守れるヒーローに。自分の力で、誰かに幸せを分け与えられる存在になれる。人に希望をもたらす光となれる。
そんな期待に胸を踊らせていると─────
ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!
ぼく達の会話を遮るかのように大きな地響きが突如として鳴き始めた。
「今のは······」
ぼくは突然のことに思考が追い付かなかった。あの時に聞いた音に地響き。何が起こったのか何となく想像がついた。
「近いわ····」
「あぁ、行くぞ」
タッタッタッタタッ!!
雪姉ぇと祐葉はそう言うなり武器をいつでも出せるような構えで勢いよく走り出した。
「え、ちょっと····待っ······」
ぼくが2人の後を追おうとすると、急にぼくの肩は後ろへ引っ張られた。
ふと目を向けると、そこにはさっきまでのふわふわした雰囲気なんて微塵も感じられない真面目な顔をした恵里菜がいた。
「佐斗葉、いるよ。この先に、獣人が」
「!!?」
ぼくは今にも口から心臓が出そうだった。
「(怖い····。下手をしたら死ぬかもしれない...)」
そんな恐怖がぼくの身体と心をゆっくり溶かしていく。
幼い頃、ぼくの両親や村の人を襲い、虐殺していった獣人。
姿かたちなんて覚えてないけれど、確かに覚えているのは、戦う術や逃げ隠れする手段を持っていない者は、
「(怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い······そんな場所に立ち向かう勇気なんてぼくには······)」
ポンッ。
「佐斗葉、大丈夫。1人じゃないよ。あたし達は」
恵里菜は先程の緊張感溢れる雰囲気とは正反対の優しい笑顔でぼくの肩に手を置いた。
「恵里菜·····うん、ありがとう」
そうだ。ぼくたちは1人じゃない。4人みんなで戦うんだ。
この恐怖も、皆がいるから耐えられる。耐えて耐えて、乗り越えてみせる·····!!
ぼくたちは、祐葉たちを追い、力強く駆け出した。
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