第5話 夜の一時
雪姉ぇとの騒動があってから数分後、とりあえず雪姉ぇは落ち着き、逃げ出した祐葉とも合流した。
逃げた祐葉には色々と言いたいことはあるけれど、とりあえずぼくは確認しときたかった内容の話を祐葉へ振った。
「明日の午前中には大きな町に着くんだよね?」
「あぁ、そこなら店や宿も備わってるからな。足りなくなってきたものはそこで買って、3日間ぐらいは泊まっていこう」
「ふぅ、ようやくベッドで寝られるかと思うと、ありがたい限りね」
雪姉ぇは大きく伸びをした。確かに野営というか野宿なんてものは楽なものではない。首も背中も腰もバッキバキになるしね····。
「佐斗葉、怖い夢見て雪嶺に『一緒に寝て』なんて泣きつくなよw?」
「子供扱いしないでよ祐葉。ぼくだって十分もう立派な大人だよ!」
ぼくは昔から怖がりで、実の姉のように慕っている雪姉ぇにしょっちゅう甘えていた昔を思い出す。
「ねぇ、佐斗葉······」
ふっと恵里菜がぼくの側に妙に
「あたし今夜エロい夢見たら佐斗葉と寝ていい?」
「お引き取りください」
恵里菜は今日も通常運転だった。そしてこんな恵里菜に慣れて平穏状態で返せるぼくもぼくで何か毒されてる気がするけど····。
そしてぼく達は交代で盗賊や獣人が来ないか時間制で見張り番役を作り、この日は寝ることにした。
────祐葉視点────
「今夜も何も起きなさそうで何よりだな」
俺はそう独り言を呟く。何も起きない風景をただただ見続けるというのはどうも気が散ってしまう。川の流れや火が燃える様子なら、もう少し見ていられるんだが...。
「火····か······」
俺は思い出す。十年前のあの凄惨な事件を。俺は建物の下敷きになったが、当時は幼かったから小さな体格故に運良く瓦礫と瓦礫の間に身体が入り、軽症で済んだ。
そして隙間から僅かに見える血と火が飛び交うあの光景を何十分も声も上げられず見てる事しか出来なかった。
あの時俺が声を上げてれば、動いていれば、それに気付いた誰かが俺と同じ場所に逃げ込んで難を逃れる事が出来たかもしれない。助けられた命があったかもしれない。
何も出来ない事は悪だ。機会があるのにも関わらず、
俺は動く。そして助ける。誰もが幸せになれるように。
「交代の時間よ」
その声に俺はゆっくりと振り向く。
「雪嶺····」
「まったく、アンタもお世話が過ぎると言うか、過保護というか、なんだかねぇ」
雪嶺の何か意味を含むような発言を俺は聞き逃さなかった。
「何が言いたいんだよ」
「いや ねぇ······」
雪嶺はため息混じりに返す。
「アンタが誰かを助けるために動くのはアンタの勝手だから止めないけど、助けたい相手に対してアンタの行動の意図を伝えないと、相手からしたら訳わかんなくて向こうは混乱するかもしれないのに、毎回断固として言わないから、一周まわって最早尊敬するわよ」
雪嶺の呆れた表情が俺には分からなかった。それでは相手から感謝されないとでも言うのか?だとしたら飛んだ見当違いだ。俺は相手に感謝されたくてやっている訳じゃない。誰かを助けること自体が俺自身を救っている。何が不満だと言うんだ。
「まぁ、そこはアンタの勝手だから、好きにやんなさい。それで本当に助けたい相手を助けられるかどうかは分からないし····」
雪嶺はそう続けた。相変わらずこの人は何を考えてるかさっぱり分からない。
「これからも野宿の際に佐斗葉を夕食作りから外すつもり?」
雪嶺の質問に俺は「当然だ」と言うばかりに深く頷いた。
それが、佐斗葉の心を救う行為だと俺はそう信じているからだ。
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