第4話 夕食の楽しい一時
調理が終わって盛り付けも完了した所にぼくはやってきた。
今回は捕らえた鹿で焼肉をすることになった。野外で食べる豪快な食事も僕は嫌いじゃない。
既に火の消えた薪を僕らは丸く囲み座っている。
「あの〜······何で僕は食事準備の際毎回見張り番なの······?」
雪姉ぇたちが捕らえた鹿の肉を食べながら僕は問う。
すると雪嶺はうーんと軽く天を見てから再度ぼくの方を向き答える。
「佐斗葉は周りの警戒力が皆よりあるからね。適材適所ってやつ?」
「ものは言いようだなぁ····」
「立派な仕事じゃないの。今日もお勤めご苦労様」
そう言って雪姉ぇは僕に肉を一つ渡した。
僕より10cm以上背の高い黒髪ロングのお姉さん。多分年齢は僕より5個ぐらい上のはず。
メンバー最年長な事もあり、ぼくは
「····雪姉ぇ、この生肉をもらってぼくはどうしろと...?」
「··········えと、私のために今から焼きなさい」
「労いからの下僕扱い!?」
「じょ、冗談よ。ちょっと反応が見たかっただけ」
そういって雪姉ぇはぼくに渡した肉を元あった場所に慌てて戻す。
鹿肉の量が割と多かったから、一部は 保管して後日干し肉にでもして食べようって事で、別の場所に置いたのを雪姉は誤ってそこから取ってしまったのだろう。
しっかりした雪姉ぇはたまにこういうおっちょこちょいな面を見せるので、それはそれで可愛いのだが、本人の前で言ったらきっと顔を真っ赤にしてしばかれそうなので言うのは止めておいた。
ちなみに雪姉(ゆきねぇ)という呼び方は、ぼくにとっては本当にお姉ちゃんみたいなのもあるし、語呂の良さも相まって個人的には結構お気に入りの呼び方。
こう呼ぶのは僕の他には恵里菜ぐらいかなぁ。
ん····恵里菜·····?
あ、ヤバい······。
そう思ったのも束の間、恵里菜は、
「あ、佐斗葉。今雪姉ぇの失敗見て可愛いなぁって思ったの?」
(あ····的確に地雷に鉄球投げ込んだ······)
「なっ······!!」
雪姉ぇをチラッと見ると頬が赤く染まっていた。
まずい...早く恵里菜を止めないと······!
「いやぁ〜分かるよ佐斗葉!普段凛とした感じの雪姉ぇがたまに犯すドジな感じと、それを誤魔化すバレバレな嘘と、その嘘を突き通そうとする見栄っ張りな所は正にギャップ萌えだよね!!」
「はーい今すぐその口閉じてくださーい!」
雪姉ぇの様子を確認すると、もう顔全部が真っ赤っかになり、肩を震わせている。
あれ······? 何か雪姉ぇの顔だけじゃなくて背後にまとっているオーラまで心なしか赤いような······。
そして我関せずと言った様子で視線を逸らす祐葉。
見捨てられた······。
こうなったらとりあえずぼく一人で恵里菜を抑えてからじゃないと状況が改善しない······。
「恵里菜!雪姉ぇの方見て!!」
「はにゃ?」
そう言って僕は雪姉ぇに目を向けさせる。
今にも怒りだしそうな雪姉ぇを見れば流石に恵里菜も反省して───
「雪姉ぇ 佐斗葉に可愛いって思われて照れてるの?」
「(状況悪化させやがった〜······。)」
何でこの状況でそんなセリフ出ちゃうの恵里菜さんや····。
恵里菜の危機感の無さと空気の読めなさ具合いは一級品レベルだけど、巻き込まれる当事者としてはたまったもんじゃない。
あぁ······雪姉ぇの赤いオーラがついに全身に······。
これは流石に祐葉に助けを────
あれ!? いない!?
気がついた頃には祐葉と朔矢はこの場から逃げ出していた。
待って待って待って······この状況はいくらなんでも─────
「······なさい」
「えっ?」
雪姉ぇが何か言ったような気がしたけど····聞き取れなかったなぁ······。
と思ったその瞬間、雪姉ぇは持ち武器である自分の背丈と変わらない戦斧を構え、こっちをキッと力強く睨みつけてきた。
その顔は瞳は軽く潤み、歯を思いっきり噛み締めていて、今にも羞恥心に押しつぶされそうな顔だった。
そして大きく息を吸い、怒りと羞恥が入り交じったような大きな声で叫んだ。
「アンタ達いっそくたばんなさーーい!!!!!!!!」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
こうして静かな夕食の一時は雪姉ぇの怒号で幕を閉じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
《パーティーメンバー》
十年前の事件の村の生き残りの一人。双子の弟。武器は片刃剣。
多少気弱ではあるものの、警戒心や洞察力が強く、ここぞという時の集中力を持つ。その能力を買われて野外での調理時では必ず見張り番に配属されている。
祐葉との見分け方は髪色。祐葉が黒髪に対し、
佐斗葉の双子の兄。武器は双剣(サバイバルナイフ)。
パーティーのリーダー的存在で、熱い性格で、若干血の気が強い。
佐斗葉が
佐斗葉と同じ村の出身で黒髪ロングのクールビューティーなお姉さん。女性としてはかなりの高身長。武器は自分の背丈をゆうに超える片刃の斧。パーティーのまとめ役的存在で、戦況把握は彼女が行うことが多い。
しっかりしているが時折おっちょこちょいな面もあり、それに触れると恥ずかしさから斧を振り回し逆ギレする。
佐斗葉と同じ村の出身で、十年前の生き残りの1人。
佐斗葉と背丈がさほど変わらない女の子。上着を着ていて分かりづらいがまたスタイルがかなり良い。
ボブカットだが、顔の左半分は髪で隠れて完全に見えない。
そこに天使の輪を頭に被ったかのような大きなヘアバンドをして髪型をガッチリ固定している。
どうやら本人なりのこだわりだそうで、基本的に外す事は絶対にない。
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