第10話   修平 玲香 茜に行く

  店に入ると、カウンターの中にママがいた、

カウンター中央に二人が腰かけると、もう、

そこにはボトルセットが用意されていた。ママがぼやいた。


「今日、ありがとう。助かったわ、吉田さんも困った人だわ、

会社のスマホを忘れて行ったので、それがないと仕事ができないらしく、

私にもってこいって言うの、そんなの、桑名が何処にあるのかもわからないのに、行けるわけないでしょう。修平さんに連絡つかなかったら、どうしようと思った」


「大丈夫だよ、私はママの縁の下の力持ちだから、困った時は

しっかり、後ろ盾になるから」

と言って修平は預かってきた真空パックのハマグリをあかねに手渡した。

ママが玲香に名刺を渡す。

「いつもありがとう、まだ、ちゃんと挨拶もしてなかったわね、私はあかね」

と言って玲香に名刺を差し出した。

玲香はママの丁寧な挨拶に少し、たじろいで挨拶をした。


「こちらこそ、お世話になっています。

私なんかに、お客さんをお世話していただいて、お礼が言いたくて今日来ました」


「最近少し忙しくなって来たかな、お客さんって帰る時間がだいたい一緒でしょ、だから、2台じゃ足らなくて、修平さんに頼んだら、貴方を世話してくれたの、

なんでも、春樹といい仲なんだって!」

玲香は修平の顔をまじまじと見て、

「いい仲だなんて、私が一方的に思っているだけで

全然、相手にされていません」

「そんな事ないだろ、春樹はよく、君の事、話しているけどな~

だから、てっきり付き合っているのかと思っていたけど」


 修平が言った。するとママが

「春樹は基本、根がまじめだからね、それにすごく奥手でしょ、

照れ屋だし、簡単にはいかないかも。きっと、自分で操作できないのよ、

そうよね、そうなのよ、だから・・・」ママの言葉が止まった。

「だから、なんだよ」ゆっくり、優しく修平が問う、

ママは話を逸らして、

「修平さん、このハマグリ、どうやって食べるのよ」

「酒蒸しでいいんじゃない、作ろうか?」

「じゃ、お願い!」修平はカウンターの奥に入っていった。

「玲香さんは、修平に茜に行こうって誘われたの?」

すると、修平が奥から大きな声で口を出す。

「ちがうよ、本当は上野さんが、あ、れいちゃんでいいかな」

修平が玲香に呼び名の変更を求めた。玲香が笑って言った。

「れいちゃんでも玲香でも、好きなように呼んでください」

玲香も奥にいる修平に聞こえるように大きな声で答えた。

「じゃ、これから、れいちゃんって呼ばせてもらうよ、

私の事は修平さんでいいからね、その方がつながりを持てるしね、

春樹の事も春樹さんって、試しに呼んでみたら・いいかも」修平が言った。

玲香はあかねの問いに答える

「で、さっきの話ですけど、昼に修平さんから、電話をいただいて・・」

玲香がカメラを忘れた事を話そうとした時、

「あ、れいちゃん、その話はいいからさ~いや、参ったな~」

修平が、焼いたハマグリを器に盛ってカウンターに置いた。

「なに、どうしたの」 ママが話に飛びついた。

「れいちゃん、修平さんが何をしたの、教えて・・教えなさいよ!」

だんだんママの目が真剣になってきた。

玲香は修平に目であやまると、ママに話した。


「昼に修平さんから電話があって、千代田橋の下にカメラと三脚を忘れたから、

取って来てくれって、頼まれたの、

修平さんは、今、桑名に向かっているから、取りに行けないからって、

六十万円のカメラが誰かに取られたら、大変だから頼むって、

だから、急いで、千代田橋まで探しに行ったら、

ちゃんと三脚の上にカメラもあったので持って帰って来たの、

す~ごく大きいカメラ、重かった~」


「本当に助かったよ、れいちゃんありがとう」

「どう、ハマグリ?」三人は大きなハマグリをくわえて身を食べた。

ハマグリの上に細かく刻んだネギがふってある。

「美味しい」「ネギがいいね」「いけるわ」ハマグリをしゃぶりつきながら、

てんでに感想を述べている。

「つまり、修平さんは、川で鳥を撮影している時に、

私が桑名へ行ってって、頼んだもので、カメラの事も忘れて、

スマホを届けに行ったって事ね、

吉田さんも吉田さんなら、修平さんも修平さんだわ」

ママが大笑いして言った。

「 バカじゃない、もう、やあねー」 あきれているママがいる

「れいちゃん、悪かったわね、

もう少しで、修平さんから六十万円請求されるところだったわ、

あぶない あぶない」


「スマホを届けてから、れいちゃんのマンションへカメラを取りに行ったら、

茜へ行くのなら私も行きたいって言うから、

仕事はどうするの?って、聞いてる最中に、

もう、会社に電話して偽咳をしながら(ちょっと、体調が悪いので休みます)

だって!私も開いた口がふさがらなかったよ、

れいちゃんは本当にやる事がすごいよ」

「そう、行動力があるのね、私に似てるかも、ねぇ」

そんな話をしていると、智ちゃんと加奈ちゃんが出勤して来た。


「あら、修平さん、いらっしゃい、早いですね」 智ちゃんが言う。


「ママと同伴ですか? 玲香さん、お店、初めてですよね」加奈ちゃんが言った。 


「いつも、お世話になっています。呼んでいただいて、本当に助かっています、 

今日はそのお礼もかねて、修平さんに連れて来てもらいました」


「お礼だって、ママが一番助かっていると思いますよ、ねぇ、ママ」

「だって、ほら、先週の金曜日、新規で来られたお客さん、なんていったけ」

「浜口さんたち」

「そう、あのお客さんたち茜に来たら、タクシーが捕まるからって来たらしいよ」

「茜専属タクシーも有名になって来たね」と云っていると、

お客さんが入って来た。

「中沢さん・吉村さん、いらっしゃい」ママが出迎える。

カウンター席の奥へ誘導すると、

とりあえず、突き合わせといいちこを棚からだした。


「加奈ちゃん、炭酸くれるかな、昨日から立て続けだって言うのに、

吉村がちょっとだけって言うから来たけど、軽く飲んで帰るから」

修平が中沢さんに軽く頭を下げると、吉村さんが指さして言った。

「あれ、この間、時間が無いって言ったら名駅まで、

すっ飛ばしてくれた運転手さんだよね」

「あのせつは、どうも、間に合いましたか」

「やっぱりそうだ、なかさん、タクシーの運転手さんだよ」

「はいはい、おかげさまで助かりました、今日もじゃ、お願いしようかな」

「今日はこの人たちはお客さん、お休みでお礼がてら、来てくれたの」ママが言う

「じゃ、わしらもお礼しなきゃ」

「違いますよ、お礼する側は私たちですので、また、タクシー使ってくださいね」

「いやいや、また、乗せてくださいね、だろ」みんな、大きな声で笑った。


また、お客さんが3人、入って来た、ママのスマホに電話がなった。

どうやら、席の確認の電話だ。

忙しくなってきたので、修平と玲香は帰る事にした。  


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